比べる心

もう一つ振り返ると、2018年の私はある念にずっと囚われていた。それは“去年より頑張っていないんじゃないか?”といった自分への不満だった。

アルバムをリリースしたことや、MCバトルで優勝した回数など、めでたい記憶はやたらと残る。逆もしかりで、毎日寝不足で仕事をしながら限られた時間を音楽活動に充てる生活の密度や、精神的に自分を追い込み情緒不安定に陥った日々、願掛けで禁煙した記録など、2017年の苦労した記憶もやたらと残る。つまり、自分の中で去年の”とびきり輝かしい功績”と“とびきり泥水啜った経験”だけを切り取って、今の自分と比べ続けていたのだった。

たしかに、制作はしているけどアルバムリリースできてないし、音楽と無関係な仕事を辞めて去年よりは時間に余裕のある生活を送ってはいるが……そうやって自分に“頑張ってない烙印”を押したがっていた2018年の自分に、ひとこと言ってやりたくもなる。お前が望んだ成長もたくさんあるぞ!!と。
AMでコラム書けるようになったし、日本中で歌えたし、早稲田で講義できたし、仕事やめても生きてこれたし、信頼する仲間もできたし……。

あぁ。もしかすると、私が感じていた不満や焦りって、これらの変化に対して“努力の貯蓄を使い切ってしまう恐怖”だったのかもしれない。
貯蓄に励む活動が貯蓄を使う活動にシフトチェンジした故に生じた貧乏性。良く言えば成長痛(笑)。
「あの頃は良かった。」なんて言いたくないから、変化を受け入れた上で今を輝かせなくちゃ。きっと振り返った時に、一生懸命生きてさえいれば、どんな年もそれぞれ違った意味を持ってる。

「去年より〜したい」って向上心は大切だけど、数ある変化を見落としたまま無闇に比べたがったり、底をついたらどうしよう症候群に囚われて臆病になるのはもうやめよう。
2019年には2019年にしかない経験がきっと待ってる。前にしか進まない歯車に乗って、思いっきりダイブしていこうと決めました。

さらば、未練!

皆さまにとって、健康で素敵な一年になりますように。

Text/椿

次回は<言葉は“救うためにある”と信じてる。あらゆる暴力に傷ついてるあなたに/椿>です。
先日、ラッパーの男性がDVで逮捕されました。DVは許されないことですが、当事者にとっては白黒つけられないこともあるようです。ニュースを受けてラッパー椿さんが思い出したこととは。