できる限りは尽くすが、それでも無理なら諦める

一方で、やっぱり甘いことだけもいっていられない。常人離れしている『贅沢貧乏』に比べて、もう少し我々の目線に近いところにあるのが群ようこのエッセイ『贅沢貧乏のマリア』だ。森茉莉は頭の中がお花畑すぎて抵抗があるという人でも、こちらは読みやすいと思う。

晩年の森茉莉の中にも、変わらず哲学や美意識は生き続けていたはずである。ただ、体の自由が利かない老体となると、理念はあっても実現するハードルが高くなる。あの茉莉ですら、晩年は「ひとり暮らしは本当に嫌ね」と呟いていたらしい。群ようこは、ひとり暮らしの手本にしていた茉莉にそういわれたら私はどうすればいいんだ、と嘆く。私も、そんなこといわないでくれ茉莉~! と思う。

しかし群ようこは最終的に、「ま、それでも仕方ないじゃないか」とエッセイの中で書くのだ。このあたりは、上野千鶴子が『ひとりの午後に』で、どんなに惨めな晩年を迎えたとしても「それもまたよしとしよう」と書いていることと似ている。私も、ゴミ山に埋れて孤独死を遂げたとしても「まあ、いいんじゃない」なので、もしかしたら「できる限りは尽くすが、それでも無理なら諦める」は、独身女性が共通してたどり着く境地なのかもしれない。

でも、「できる限りは尽くすが、それでも無理なら諦める」って、考え方によってはけっこうポジティブじゃないか? 「できる限りは尽くす」の部分が、結婚相手を探すことでも、仕事を頑張ることでも、たとえ貧乏でも心の豊かさを忘れないことでも、なんでもいい。その「できる限り」の部分を教えてくれるので、頭の中お花畑だな〜と思いつつ、私はやっぱり森茉莉が好きなのであった。

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チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。