「部屋」と「心」には終わりがない

「部屋は自分の心の状態を表す」とはよくいったもので、掃除や片付けには実は終わりがない。

生活していればどうしたって部屋は汚れるし、散らかる。その度に、何回だって掃除をして、片付けなければならない。インテリアの趣味だって絶えず変わり、数年前に買った花瓶に飽き、新しい花瓶を買い、それにまた数年後に飽きたりする。同じように、心は放って置くと荒むし、価値観や考え方も数年単位で変わる。掃除や片付けにゴールがないのは、心の状態にゴールがないのと同じことだ。

「片付けができるようになったってすべて上手くいくわけじゃない」とはいったけれど、掃除や片付けができるようになることの本当の意味は、この「終わりがない」という事実に向き合うことにあるのかもしれない。
生きていれば必ず気分や運気に上下はあるもので、大切なことは汚れたらその度に掃除し、散らかればその度に片付けることだ。汚れること、散らかること自体は当たり前なので、悪ではない。

雨宮まみさんの『自信のない部屋へようこそ』は、そんな「終わりのなさ」に向き合わせてくれるエッセイだなと思う。
成長して大きくなった観葉植物を植え替え、風で鉢が倒れて割れたら片付け、ダラダラと過ごしてしまった休日に罪悪感を覚え、次の日からまた頑張る。人生はそういうことの繰り返しだ、と思う。

もう少しハードな本だと、世阿弥が記した能の理論書である『風姿花伝』も、「人生の波に動揺するな、幸運も不運もあってしかるもの、ただ淡々と受け止めよ」みたいなことが書いてある。
片付けや掃除は、生活をしながら『風姿花伝』の哲学に気付かせてくれる……は、ちょっといい過ぎか。