賞賛しつつ唾を吐きけるという態度

なぜボリス・ヴィアンは、こうも相反するイメージの小説を書いたのでしょうか? 小説家以外にも、ヴィアンはトランペット奏者であり、俳優であり、歌手であったりと多才な人物でありましたが、彼のことを知れば知るほど、私はなんだかこの人に欺かれているような気分になってきます。

いよいよ冬も深まってきましたが、1人でさみしくなったときも、恋にズブズブとのめり込みそうになったときも、思い出してほしいのは『日々の泡』『墓に唾をかけろ』です。片方で赤面するほどのスウィートな恋愛を描きつつ、片方で読むだけで不快になる女性への暴力を描いたボリス・ヴィアン。私はヴィアンの2冊の小説を読むと、物事に対するバランスのとれた距離感、というのを考えます。

ある事象に対して、同一人物とは思えないほど正反対の2つの視点を重ねて持つこと――ヴィアンの2冊の小説を読むと、そんなことが可能なのかと驚きますが、何か1つの考え方にのめりこんでしまいそうになったとき、こういった視点に救われることって大いにあります。

ちなみにこのヴィアンという作家、『唾を吐きかけろ』が映画化したというので試写会に行ったところ、その試写会で心臓発作によって倒れ、そのまま亡くなったそうです。「俺は40歳まで生きないだろう」と予言していたとおり、享年39歳。この人、やっぱりどこまでも変な人ですねえ。

というわけで、こんな時期だからこそ、『日々の泡』をじっくりゆっくり読んでみるのおすすめです。ちなみに私は、『墓に唾をかけろ』のほうが好きですけどね!

※2016年1月5日に「SOLO」で掲載しました