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  • 2012.10.15

“フツウの幸せ”のハードルを『臨死!! 江古田ちゃん』に学ぶ(2)

最強のモテキャラ女子“猛禽”の発明

臨死!! 江古田ちゃん 瀧波ユカリ 講談社 脱!フツウ 脱フツウ 普通
By J. Lightning

 「脱!フツウ」をテーマにお届けしている今月の「AM」。
この連載では、“フツウ”の恋愛を脱却するための推薦課題図書を4冊セレクトして、みなさんにご紹介していきたいと思います。

 2冊目の今回は、瀧波ユカリさんの漫画『臨死!! 江古田ちゃん』。
2005年に『月刊アフタヌーン』で連載が始まって以来、青年誌にもかかわらず女性の赤裸々な本音を描いた作品として人気を博した作品です。

 主人公の江古田ちゃんは、その名の通り東京都練馬区の江古田駅近辺に住む24歳のフリーター。
“家では全裸”をモットーに自堕落な生活を送り、昼はテレオペなどの派遣OLやヌードモデルに従事。
夜はフィリピンパブのホステスや、トップレスショークラブの踊り子として働くなど、なかなか波乱に満ちた毎日を送っています。

 そんな彼女が鋭い観察眼を向けるのが、女の本音と建前について。
「女子のエールの90%は呪詛でできている」「女の“ほめ”は本音を引き出すための潤滑オイル」と女同士のコミュニケーションの欺瞞をサラリと指摘。
すっかり定着した「草食系男子」という言葉も、「選ばれない理由を全て男のせいにしたい女たちにやさしい言葉」とバッサリ斬ります。


 中でも、この作品の最大の発明と言っていいのが“猛禽”というキャラです。
天然を装い、狙った獲物は逃さない最強のモテ女子を指すこの言葉。
ひと昔前の“ぶりっこ”や“不思議ちゃん”と違うのは、男性がちょうどよく“かわいがりたい”“守ってあげたい”と思うような言動を、ナチュラルに演じることができるということです。
本命男子をオトすだけでなく、雑魚キャラも「友達として好き」などと言って飼い殺すような、全方位に目配せするしたたかさをもあわせ持っている恐るべき存在なのです。

「猛禽=王道モテ」なら、「江古田ちゃん=邪道モテ」

 そして、そんな猛禽のモテテクにコロッと騙されてしまうような男性の“甘さ”も、江古田ちゃんは許しません。

 合コンや飲み会で交わされるキャバクラのような会話には、「おだてられなきゃその気になれない男」と「こびへつらわなければ好いてもらえない女」と一喝。
「強がってるけど本当は弱いくせに…」という男の口説き文句に対しては、「見抜けるオレと見抜かれちゃってるアタシ」の駆け引き合戦だと指摘。
また、「私って隙があるみたいで、チカンとかあいやすくて…」という女の告白も、「私を守ってナイト気分を味わいつつパクッといっちゃってください」というアピールだと容赦なく断罪します。

 しかし、こうした「猛禽批判」と「猛禽に騙される男批判」は、単なるかわいい子への嫉妬やひがみではないと言う江古田ちゃん。
畏怖や女としての劣等感がないまぜになった結果、自己否定や被害者意識、そして「自己肯定するために他者否定したい自己への嫌悪」など、さまざまな感情と戦っているのだと言います。


 考えてみたら、これって前回紹介した『邪道モテ!』における、王道のモテテクが恥ずかしくて使えない“邪道モテ”タイプの女子と似ていますよね。
猛禽の男ウケするテクニックは知っているけれど、自分は“ガラじゃない”から猛禽になれない……。

 江古田ちゃんもまた、“王道の恋愛”や“フツウのモテ”に憧れながらも、その途中でつまずいているコンプレックスの深い女性なのかもしれません。

“フツウの幸せ”のハードルを下げると“都合のいい女”に!

 その証拠に、自分以外の女性や男性にはキラリと慧眼を発揮する江古田ちゃんですが、こと自分の恋愛となるとあやまちばかりを犯しています。

 行きずりの男性を食ってしまうことが多く、身持ちはゆるめ。
猫かぶりしていた人格に惚れられてしまった「信者くん」に付きまとわれたり、日本の文化・風習を見下しがちなアメリカ人のサムに気をもんだり……。

 とくに、江古田ちゃんにとっての本命・マーくんには、遠距離恋愛中の彼女をはじめ複数の浮気相手がいます。 決して彼の「一番」になれる気配はないのに、誘われるままに夜をともにしてしまう江古田ちゃん。
マーくんがそっぽを向いて寝るとなりで、彼女が物思いにふける場面は毎回切なすぎる名言の連続です。

「どういう気持ちになれば『恋』なんだっけ」
「だって『思い』は『重い』だから」
「『あのとき見捨てられたんだ』ってあとから気付くようにそっと見捨てるつもりだからね」
「涙の数だけ鈍くなれるから」
「よそ様のものを盗み食ってる背徳感と優越感がこんなに快感を高めるなんてね」
 江古田ちゃんほど聡明な女性が、なぜ本命になれる望みもないマーくんとの関係をいつまでも断ち切れないのでしょうか。
それは、江古田ちゃんの以下のセリフに集約されているような気がします。

「大事にされた経験ないから今がものすごく不幸だとも思えないんだ」

 自己評価が低いために、「自分の好きな人が、同じように自分を大事にしてくれる」成功体験がなかなかイメージできない江古田ちゃん。
彼女もまた、“フツウの幸せ”のハードルを低く設定することで、現状に甘んじてしまっている女性だったんですね。

 物わかりがよすぎるために、かえって“都合のいい女”になってしまうのも“フツウ恋愛”の罠。
あなたが思っている“フツウ”は、世間の“不幸せ”かもしれません。
みなさんも、「江古田ちゃんのフリ見てわがフリ直せ」を肝に銘じて、“脱!フツウ”を目指してみませんか?

臨死!! 江古田ちゃん 瀧波ユカリ 講談社 脱!フツウ 脱フツウ 普通

書名:『臨死!! 江古田ちゃん』
著者:瀧波ユカリ
発行:講談社
価格:¥550(税込)

Text/Fukusuke Fukuda

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ライタープロフィール

福田フクスケ
フリーライター。“くすぶり男子”の視点から恋愛やジェンダー、セックスなどを考察。

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