• special
  • 2016.12.12

好きな男の涙が全能感をくれた/『ゲスママ』著者・神田つばきさん(後編)

40代でAV女優デビューするなど激しい人生を綴った自伝的小説「ゲスママ」著者として知られる神田つばきさん。夫と別れ、SM業界に足を踏み入れることで性の極北にたどりつくことができました、しかし、それとは引き換えに失ったものも…特集『「支配されたい」の正体』インタビュー後編です。

AM 特集 支配されたい ゲスママ 神田つばき神田つばきさん

 「男性に支配されたい、いたぶられたい」という欲望をストイックに突き詰めてきた神田つばきさん。今年9月には自伝的小説『ゲスママ』を出版し、自身の被支配欲に生きた半生を振り返っています。インタビュー前編では、女性が胸に抱く「支配されたい」という欲求の正体について語っていただきました。後編では、つばきさんの実体験をもとに「男性に支配されることで手に入れたモノ、失ったモノ」についてお話を伺いました。

☆前編はこちらからご覧ください

支配されることで手に入れたもの

――実際に、男性にいたぶられたり、支配されたりしたことで手に入れたものはありましたか?

神田つばきさん(以下、神田):いちばん大きかったのは、セックスでイケるようになったことですね。それまでのセックスでも、感じてはいたけれどイケなかったんです。でも、会った瞬間にひっぱたかれて床の上に崩れたところで顔を踏まれると、うわ~ってドーパミンが出て、そのあとのセックスでイキまくれるんですよ。

――イキまくれるなんて、なんだか羨ましい話ですね…。でもなぜ、いたぶられることでイケるようになったのでしょう?

神田:踏まれている自分も何かを捨てているけれど、私を踏みつけている相手はもっといろんなものを捨てている、と思うと興奮するんですよね。例えば私が美人局で、男性が陥れられる恐れだってあるわけです。そういうリスクを背負ったハラハラした状態で、男性はひどいことをしてくれているんだ、と思うと、こちらのエクスタシーも大きくなるみたいです。

――「支配されたい」という思いは、セックス中だけ発揮されていましたか?

神田:いえいえ、私の場合は常に支配されたいと思っていたので、恋人とのパートナー関係にも「被支配」を持ち込もうとしてました。でも、なかなかそれは難しかったですね。愛情がある程度育ってしまうと平和な時間が多くなって相手にハラハラできなくなります。かといって、緊張感だけが漂う愛のない関係だと、だんだんといたぶる行為に心がこもらなくなってきて「こうやればいいんでしょ?」みたいな感じになるので、それはそれでうまくいかない。

――支配関係を常に維持することって難しいんですね。

男の涙が女王蜂のような全能感を与えてくれた

神田:でもね、あるとき、お付き合いしていた男性で、暴力的な行為の最中に泣き出した人がいたんです。泣きながら私のことを殴って「俺を止めて」って言うんですよ。そのとき、「この人の欲望をコントロールできるのは私しかいないんだ」って思えた。あの瞬間のエクスタシーはすごかったです。ほかのことでは得られない感覚でした。

――支配されたかったはずなのに、いつの間にか相手を支配する喜びを知ってしまったと。

神田:そう。まるで悪い女王蜂にでもなった気分で、相手を支配する全能感がありました。ふたりで同時に理性を手放す瞬間の恐怖の中で、「堕ちていく!」って思いながらお互い相手だけ掴めるような感覚。もちろんそれは錯覚なんですけど、ふたりで泣きながら震えるっていうのは、ほかのことでは得られない快感でしたね。

セックスをやり尽くした果てにあったもの

AM 特集 支配されたい  ゲスママ 神田つばき神田つばきさん

――では逆に、支配されることで失ったものはありましたか?

神田:浅い意味では職場の信頼を失いました。ものすごく嫉妬深いDV男と付き合っていたとき、職場に私とセクシーな関係の相手がいるのを知って「仕事に行くな」と言われて。私は彼のそういう要求をSMのプレイだと思っていて、言われることを忠実に守っていたんです。それで、うっかりその話を職場でしたり、仕事の現場に行かなかったりして、かなり信用を失いましたね。
そのときは家族の信頼も失いかけていました。その男と同棲していた部屋に次女が乗り込んできたからよかったんですけど、もし来てくれなかったら家族バラバラになっていたかもしれません。

――日常生活にまで支障を来していたのですね。

神田:もっと深い意味で失ったものというと、実はわたし、今はもう何もセックスで感じないんです。
先ほど話した私をいたぶった後に泣いてくれた男性ですが、彼とのセックスで性を極めたせいで、セックスの幻想がなくなっちゃって。
電マを当てれば身体はイキますよ。けれど、オナニーするときに妄想するものが何もない。妄想よりも、自分が現実でやってきたことの方が大きすぎて何も頭に浮かばないんです。行き着くところまでいって、全部やり尽くして満足するとこうなっちゃうんだなぁって、ガッカリです。
ただ、彼が泣いてくれたおかげで、男性は自分を支配してくれるロボットではなく人間なんだって、やっとわかったんですよ。

SMなのかDVなのか見極めなければいけない

――性の極北までいったつばきさんから見て、「支配されたい」という欲望はコントロールすべきものだと思いますか?

神田:私はコントロールすべきだと思います。性的なものと暴力ってすごく近いところで混ざり合っているんですけど、されている側が「暴力」と感じたらそれは暴力なんです。限りなくDVに近いSMは危ないとは思いませんが、その逆は危険です。だから、自分の欲望をきちんとコントロールした上で、相手のしていることがDVなのか性的な意味合いを持った支配なのかを見極めないといけない。

――「支配されたい」という気持ちは、どうすればコントロールできるようになるのでしょうか?

神田:性とはまったく関係ないんですけど、経済力をつけて自立することがすごく大事。社会的な意味で対等じゃないと、本当の意味で性奴隷になってしまうんです。男性と対等に愛し合うためにも、自分の仕事は手放してはいけないと思います。

テロリストではなく革命家になろう

――自分の性癖やしてほしいことを相手にうまく伝えるコツはありますか?

神田:相手ありきのことなので難しいですけど、自分の要望を男性と一緒に楽しめる物語にして、伝えることが第一歩だと思います。私は革命家じゃなくてテロリストだったんですね。だから、夫だった人にいきなりバンダナをもっていって「縛って」って言っちゃった。(笑)相手を怖がらせてしまったんですよ。

――自分の願望を相手に押し付けてしまったんですね。

神田:これはツーショットダイヤルで学んだことなんですけど、当時は『ナインハーフ』というSMチックな映画が流行っていて。「その映画を観てどう思った?」って電話で聞いてくる人が多かったんです。あぁ、こういう風に言えば良かったんだなってそのとき気づきましたね。自分の性癖を気持ち悪いと思わないで、大切な物語として相手に伝えるとか、共有してもらえるようなアプローチをしていけばいいと思いますよ。
普段はかないようなバックシームのストッキングをはいていくとか、服装でアピールするのでもいいわけですよ。そこで「こういうのってどう?」ってお互いに話ができるといいなって思いますね。


(文/千葉こころ)

神田つばき
38歳のとき、子宮頸がんを患い子宮を全摘出し、それを機に離婚。その後「緊縛美研究会」にモデルとして参加し、41歳からライター、AV女優として活動をスタート。
NPO法人女性の健康とメノポーズ協会認定「女性の健康とワークライフバランス推進員」を務めるなど更年期女性へのアドバイスコラムや、「ドラマものAV」の脚本家として活躍している。今年9月には、自叙伝的小説『ゲスママ』を出版した。 ツイッター:@tsubakist

今月の特集

AMのこぼれ話