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  • 2016.03.23

人は変わるんだと実感できるのが恋愛のおもしろさ/漫画家・鳥飼茜さん30代からの恋愛インタビュー(4)

良く聞く「この人じゃなきゃダメ」「この人しかいない」という類の言葉…あなたはどのように捕らえていますか?そもそも、普遍の恋愛感情なんて存在するのでしょうか?…「30代からの恋愛」特集・鳥飼茜さんインタビューの4回目です。

男女のジェンダー差がはらむ支配と暴力をショッキングに告発する『先生の白い嘘』をはじめ、『おんなのいえ』『地獄のガールフレンド』など女性の生き方を鋭く見つめた作風で話題の漫画家・鳥飼茜さん。今、最注目の彼女に、規範にとらわれない「30代からの恋愛」のあり方を全4回で伺いました。
最終回の今回は、「不変の恋愛感情はないのか?」という永遠のテーマが議題に上りました。

■第1回「借り物の価値基準に振り回されないで」はこちら
■第2回「他人の評価に自分をゆだねない」はこちら
■第3回「自尊心は恋愛以外でキープしよう」はこちら

「この人しかいない」と「ダメだったら別れればいい」は共存できる

鳥飼茜 30代からの恋愛
鳥飼茜さん

――恋愛って、いったん冷めてしまったら相手の何もかもが嫌になったりするじゃないですか。そんな不安定で不確かな感情と、継続的なパートナーシップって両立できるものだと思いますか?

鳥飼茜さん(以下、鳥飼) 難しいこと聞きますね(笑)。たしかに私も、別れた相手のことって生理的に受け付けない感じになったりもします。だからといって、「言うても金あるしな」みたいな客観的な評価軸で相手を選んだほうがいいとは思わないですね。

長期的なパートナーシップや信頼関係って、どれだけ相手のことを許してきたかという積み重ねがものを言うところも大きいし、それを左右するのは結局、相手に魅力を感じているかどうかだと思うんですよ。魅力を感じているうちは、この感情は確かなものだと思うしかないんじゃないでしょうか。

それでダメだったら、そのときは別れればいいんですから。「この人しかいない」と、「ダメだったら別れればいい」は、いいとこ取りの同時進行でもいいんじゃないかな。「この人しかいない」と思っていた人とダメになっても、それを受け入れられるのが理想の生き方だと思っているので。

――鳥飼さんご自身も、一度離婚の経験があるんですよね?

鳥飼 ダメだったらやめればいいと思って結婚して、本当に離婚したんですけど、私はそれを失敗だとは思っていなくて。もちろん、子供がいたら配慮しなきゃいけないし、責任を持ち続けなきゃいけないけど、そのせいで子供がかわいそうとかはあんまり思わないです。私自身の親も離婚していて、母に育てられたようなものなので。

元夫とは今も人間関係は続いているし、お互い最低限の気遣いやコミュニケーションが必要なことに変わりはないので、結婚自体をどうしても続けなきゃいけないものだとは考えていないんですよ。

人は変わるんだと実感できるのが恋愛のおもしろさ

鳥飼茜 30代からの恋愛
鳥飼茜さん

――「この人しかいない」という確定要素になる決め手って何なのでしょうか?

鳥飼 それってやっぱり頭で考えてわかることじゃないと思うんです。

ここが恋愛の不思議なところだと思うんですけど、全然合わないしすぐに別れると思っていた相手と、ケンカや衝突を繰り返して関係を補修していくうちに、「あれ、合わなくもないかも」とか、「この人なのかもしれない」と思って、ふと気が付くと足元が固まっていたりする感覚があるんですよね。

最初から「この人だ!」と思えるとは限らないから不思議です。

小学館『 This!』編集S(以下、編集 S) 私は、恋愛をすることで自分がそういう風に変わってしまうのが怖いと思っていた時期がありました。そこまで固執したい自分もないはずなのに、相手に流されていくのが嫌だ、みたいな。

鳥飼 でも、それが恋愛なのかもしれないなって思うことがあります。 自分に合う人を探すとか、好きな人とどう出会うかも大事だけど、全然そういう風に思えないような関係から、自分が変わったのか相手が変わったのかわからないうちに、これはもしかしたらいいものだったかもしれない、と気付くことが、付き合っているとある。 「人って変わるんだ」というのを実感できるのが恋愛のおもしろさなんだと思います。

編集S 自分のやり方や生き方を変えてみる“しなやかさ”みたいなものを、鳥飼さんのお仕事ぶりからも感じました。今回、鳥飼さんは『This!』で初めて鉛筆画に挑戦されたんですが、それも最初から鳥飼さんの希望だったんです。

鳥飼 最初は、鉛筆のほうが効率がいいかなと思ったんですけど、やってみたら全然そんなことなくて、想像以上に手間ひまがかかりました(笑)。でも、効率は悪かったし、直しに時間もかかったけど、思ってた以上にいいものができたんですよ。思ってたのとは違う良さを伸ばすことがおもしろいのは、恋愛も同じかもしれないですね。

――ストーリーはお2人で考えたんですか?

編集S 犬が吠えてる場面と、女の子の脱ぎっぷりを描きたいとは最初からおっしゃっていましたね。

鳥飼 Sさんが、こんなことで女として嫌な気持ちになったとか、大人からの違和感を感じていてたときがある、という話をしてくれたんですよ。それで、女の人の強さを描く感じのものがいい、ということになったんですよね。

編集S 「女性の目や視線にフォーカスをあてた内容の漫画にしますか?」と聞いたら、鳥飼さんから「意識しなくてもそうなっちゃいます」と言われたのを覚えてます。上がったネームを見たらまさにそうなっていたので嬉しかったですね。

――鳥飼さんの作品は、女性の性のありようを考えさせたり、生き方をエンパワーしてくれるようなものになっていると思いますが、そこは常に意識されているんですか?

鳥飼 漫画を描くうえで、あえて女の人にこれを言いたいとかは思わないようにしていますね。私、女の人の視線を意識しすぎると、急に甘えが出てくるというか、おもねりやご機嫌取りみたいな部分が出てきてしまうんですよ。たぶん、今までそうやって女の人の中で生きてきたからだと思うんですけど。

そうなるのが嫌なので、これを女の人に言ったら意地悪だろうな、というようなことも、あえて描くようにしています。ただ、「えぐってやろう」とかは思っていないです。女どうし尊重しながら共闘していく姿勢は持っていたいけど、そこをあえてテーマとして打ち出すことはしないようにしている、というだけですね。

――そういった煩悶や絶妙な距離感も、鳥飼さんの漫画が支持される理由のような気がします。今日は長い時間、どうもありがとうございました!

鳥飼茜
1981年、大阪府生まれ。2004年『別冊少女フレンドDXジュリエット』でデビュー。少女漫画誌を経て、現在は『BE・LOVE』(講談社)に『おんなのいえ』、『月刊モーニング・ツー』(講談社)に『先生の白い嘘』、『FEEL YOUNG』(祥伝社)に『地獄のガールフレンド』と、3誌に連載を抱えている。『おんなのいえ』は2014年に『このマンガがすごい オンナ編』で9位にランクインして注目を集めた。

ライタープロフィール

福田フクスケ
フリーライター。“くすぶり男子”の視点から恋愛やジェンダー、セックスなどを考察。

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