• special
  • 2013.08.20

見詰め合うだけで濡れるディナー/食と恋愛にまつわる欲望(1)

恋や欲望にまみれて生きる
オトコとオンナを食事から考える

鈴木みのり エロしぐさ
Nicki Varkevisser


 かつて小説家の開高健さんが「女と食べ物を書けたら一人前」みたいなことを、どこかから引用して書いていました。

 男と女の情愛、欲望、セックス、傷跡を埋めるように人を乞い、生きるために食べ物を口にし、酒を飲み、他人と関係する。そんな生を実践し、書く。

 偉大な小説家の生き方をマネることはできないけれど、何か指標にできるヒントがあるから、開高さんの著作は読み継がれてきているのではないかと思います。

 開高さんの指摘からひるがえると、男を書くのもとてもむずかしい。
男との関係について話しては、結局「んー、……よくわかんない!」と放り出しては幾夜もお酒に逃げてきました。
きっと読者のみなさんにも、さじを投げ出した夜をいくつも過ごしてきた方もいるのではないでしょうか。
男について考えるということは、男と関係する自身の内の女性性と対峙する必要があるわけで、つまり自分と向き合うことから逃げてきた、と言えるかもしれません。

 そこで今回のコラムでは、わたしの男性経験のなかから、食事を通して見えてくる恋愛やセックスについて考えてみようと思います。

CASE:1 会話のない食事じゃ距離は縮まらない!?


 20代前半のころ、身長以外は向井理似の、1歳年下の男の子と関係を持っていました。

 彼と会うときは決まって、車でピックアップして高級ホテルに連れて行ってくれ、必ずスイートルームをリザーブ。
……ここまでだと、なんて素敵な! という話になるかもしれません。が、単に彼が宿泊する部屋に行っていたというだけで、会話はほとんどなく、お互い名前もうろ覚え。

 彼の宿泊先は舞浜のシェラトン、恵比寿のウェスティン、西新宿のハイアットリージェンシーと毎回宿泊場所は異なり、「日本中を飛び回ってる」とか言っていましたが、仕事も何をやっていたんでしょうか。

 セックスの際は、ぜったいに部屋は真っ暗にしてラブいムードなど皆無。とにかく野獣のように激しく、文字通りに突っ込んで出すというアティチュード。自分が果てたあとは、ピロートークのピの字もなし。所在なくなったわたしはタクシー代をもらって帰る……って、あれ!? これって! 性処理班だったってことなのね!

 彼との食事は、毎回ホテルのビュッフェか、ルームサービスの軽食やフルーツ盛りをつまむ程度。
うんともすんとも旨いともまずいとも言わず味気なく「ただ食べる」だけ、わたしも感想を伝える気もなくカマトトぶってボソボソとサラダをつまらなく口にしていたことが、ありありと思い出されます。

 お互い自分の腹を割る気はない。
そんなふたりの関係や、彼自身の人格が、食事の内容を通して見えてきそうです。

CASE:2 温もりを分けあうように
重ねる肌と、朝食のパン


 20代中盤に差し掛かるころ、同い年の犬顔男子といい雰囲気になって、彼の家で遊ぶという関係を3ヶ月ほど続けていました。

 はじめて食事を共にしたのは、彼の住む大岡山のボロアパートから徒歩5分ほどにある安中華料理屋。
ふたりでギョーザと炒飯なんかを突っつきながら、ほのぼのした時間を過ごしていました。
また、彼の家に行くときは必ず、わたしがともだちの勤めるベーカリーでパンを買い、冬の明け方目覚めると、ふたりで寒いキッチンでパンをトースターで温めて、分け合いながら食べては、彼のパソコンでお互いの好きな音楽を流し合って、ネットでお互いの好きなものを見せっこして。

 彼とのセックスは、絶頂に果てることが目的ではなく、体温を感じ合うことに重点が置かれていました。
無言で身体を重ねたり、ときおり会話をして笑ったり、わたしが身体の悩みを話すと何も言わずに聞いてくれては頭をなでてくれたり、いつの間にか寝ていたり。

 ああああああああ!!!!!!!! 自分で書いててもかゆくなりそう! 
付き合うことはなかったものの、今思えばラフだけどラブいムード満点、欲望より情愛の方が強い関係を築いていたんだと思います。

CASE:3 食べ物がつなぐ関係の背景に
そびえ立つのは「セックスレス」


 あともうひとり、わたしの人生で唯一付き合った、少し年長の男性との関係について。

 彼とはお互い一目惚れで、出会ったその夜のうちに前戯まで進むものの、そこからはセックスレスな恋愛関係が1年以上続くという異常事態。現在『あまちゃん』が一大ブームとなっている宮藤官九郎ドラマの隠れた傑作『マンハッタンラブストーリー』(2003年 TBS)で、尾美としのりさん演じるイボリー が、「30過ぎたらチューと交尾は一回にまとめろよ!」という名言を残しています。が、彼はEDだったのです。

 その代わりと言うと変ですが、会うときは決まって、旨いものが大好きな彼のチョイスで、いろんなお店に行きました。
出たあとに「大したことなかったね」と苦笑まじりに話した個室系の海鮮居酒屋。
えらぶった雰囲気もなく、おばあちゃんと呼びたくなる素朴な女将さんがいつもおすすめしてくれる高級寿司屋。
夜景がきれいな高級レストランとかではなく、雑多な雰囲気の家庭料理居酒屋や力のみなぎりそうなソウルフードを、お互い自然体で、変に気遣うことなく食べることを楽しみ合う関係でした。

 新宿歌舞伎町の裏路地にある、とある小汚い中華料理屋で、紹興酒漬けのエビの踊り食いをむさぼるようにバリバリ噛み砕いていたところ、ニヤニヤと眺められ、「野性的だね」と言い放たれたときはとても恥ずかしかったです。

 思えば、はじめての夜のなまめかしい手指の動きや、ちょうどよく湿った唇の感触は、性的に不能だからこそ食への欲望をエロスに転化していたのかもしれません。

浮き足立つ恋愛の次のステージは
「きょう何食べた?」の先にある!


 川上未映子さんが『りぼんにお願い』(マガジンハウス)というエッセイ集で、恋愛におけるマンネリ関係について、「食事という行為―ふだん見えないところに食べ物を入れて咀嚼したり、飲み下したり―ある面で、とても性的なものであるがゆえに、それだけで満たされてしまう」と書いていて、つまり、食事を重ねることでセックスが必要でなくなってくるのではないか、と看破されていましたが、なるほど。

 これまでの男性との関係でわかってきたのは、わたしが求めているのは「相手に媚を売らない正直な関係」、そして「欲望に身を燃やす恋愛関係ではなく、穏やかな日常」なんだということ。

 元恋人は、食事の際わたしに何が食べたいか尋ねるけれど、ほぼ最終的な決定権を自分が持っていました。
ある別の男性は、それとは逆に「何食べたい?」と聞いてくるものの自分では何ひとつ決めてくれず、結局お店もわたしが決めれば、メニューも選んで、会計もわたしがまとめて、もちろんワリカン……、ヤ、ワリカンがダメとかじゃなくてなんでわたしが誘われたのにエスコートしてんだよって話で。

 入れて出すセックスだけの関係は、インスタントに自尊心を満たしてくれるかもしれないけれど、その瞬間だけの欲望。自信が持てず、まともな恋愛関係を築いた経験のない人なら、そんな実りのないセックスを繰り返してしまった過去があるのではないでしょうか。または、同じ恋愛パターンで失敗してしまう、とか。

 開高健さんは「心に通ずる道は胃を通る」とも書いています。
言うは易しですが、好きな人との食事の中身や相手の振る舞い、また自分の心持ちを見つめ返してみる。
そうすれば、自分の求めているものと、現実に相対している人とのズレや一致が確認できて、自分の求める恋愛の形がわかってくるのかもしれません。わかったからと言って、上手くいくかどうかは、さておき。

【つづく】
 次回は、食事と色事の共通点や食卓の戦場化についてお話します。

Text/鈴木みのり


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鈴木みのり
某出版社の編集者にナンパされて、流れるままにはじめたライター2年目。

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