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  • 2013.02.05

コース1本勝負のカジュアルフレンチレストラン(1)

 失恋向きのレストランはあるか。

 分からない。
好きな人への告白が上手くいかなかったのか、付き合っていた人に振られたのか、自分から別れを告げたはずなのに自責の念にかられているのか。
結婚相手の浮気に気付いたのか、長年続けていた不倫を終えたのか。
恋人が自分の前から忽然と姿を消してしまうこともあるし、死が分かつ運命もある。

30数年前にヒットした「失恋レストラン」という楽曲では"愛がこわした君の心"を癒すレストランについて歌われた。
彼でも彼女でもなく、"愛がこわした" とはなんと素晴らしい歌詞。

失恋レストラン 画像

 失恋を"愛がこわした君の心"とし、レストランを"食事で癒される場所"とするならば、
外出できる程度まで回復した失恋者にお薦めの1軒が南青山にあるL'AS(ラス)である。

 今週で開店1周年を迎えるカジュアルフレンチレストラン。
味だけでなく、オーナーシェフの新進気鋭さ、本格的なフレンチのコースを税込5,250円で食べられる明朗会計さ、メニューはコース1種類のみという潔さ、
友人の家に招かれたような温かな雰囲気も話題となり、2012年食通たちがこぞって駆けつけたお店のひとつとしてご存知の方も少なくないのでは。

例えばこんなメニューがある。

失恋レストラン 画像 村井食斎
フォアグラのクリスピーサンド:フォアグラをプラムでコーティングしたものが袋包装された状態で登場. 自ら手で破る
失恋レストラン 画像 村井食斎
コリンキーと鈴かぼちゃのサラダ:生のかぼちゃとかぼちゃの種を蜂蜜とオイルのドレッシングでいただく. カルダモンの香りに全身が弛緩する

失恋レストラン 画像 村井食斎
豚足と豚とろの熱々コロッケ:ダイス状の豚足と豚とろがとろける. ザワークラウトの強めの酸味が嬉しい
失恋レストラン 画像 村井食斎
アンコウのロースト:パプリカとインカのめざめから作られたソース(左)とチョリソーから作られた泡のソース(右). フランス産の七味がアクセント

失恋レストラン 画像 村井食斎
ホロホロ鶏のロースト:北海道産の王様しいたけと玉葱を甘酸っぱいソースで
失恋レストラン 画像 村井食斎
チョコレートとミックスベリーのソルベ:温かな皿の上に流れるチョコレート. ソルベとフリーズドライベリーとのマリアージュに舌が悦ぶ

 思わず「あ」と声が出てしまう皿が最初から最後まで続く。
コース1本勝負のカジュアルフレンチレストランなぞそこかしこにあるではないか、5250円も出すのだから美味しいものが出てきて当たり前だろう、
という態度で臨んだがお店を出る頃にはすっかり魅了されて夢見心地だ。
(幸運にも頭に冷静な部分が残っていた場合は次回の予約を忘れずに)

 そもそも初めに頼んだ食前酒(ハーブスパークリングワイン)のグラスからして素敵すぎる。
客席とキッチンとの仕切りの無い開かれた空間も、忙しなく動き回るシェフの皆さんの姿も、照明の暗さも、
値段を抑えた分だけ省略されたほどほどのホスピタリティが気楽で良い。
あれこれ考えずに本能的に夢中になれて、無心で過ごせる場所は失恋者に適している。

「美味しいものでも食べて元気にならなくっチャ☆」程度に回復している失恋者なら友人を誘い、
キャンキャンと写真を撮りながら(料理の写真撮影のみ許可されている)FacebookやTwitterにリアルが充実してやまない様子をUPしても構わない。
普段なら甚だイラつく現象だが、回復しかけの失恋者である場合のみ目をつぶろう。
それに美味しいお店を周囲に知らせることは良いことだ。


 また一通り涙を流し終えたつもりでいるが、Suicaのチャージをした瞬間などに脈絡無く涙が溢れてしまう、
でもとにかく家に居たくなく生きる気力が湧いてこず無理矢理に外出することにしたような失恋者はあえて1人で行っても問題無し。
隣席の会話に耳を傾けながら自分とは無関係な世界の話に触れると妙に落ち着くものである。

 これから1ヶ月かけて、4つのレストランを紹介します。
まずは"君の心"を誰が壊したか何が壊したかを考えず、とりあえずL'ASへ行ってみてください。
来週につづきます。

【つづく】

Text/村井食斎

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