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  • 2013.05.15

壇蜜が演じたヒロイン香奈の魅力『私の奴隷になりなさい』(後編)

 前編に続き、『私の奴隷になりなさい』のヒロイン・香奈に迫ります。

【大泉りか・官能小説から読み解く、ファムファタールのススメ】
第7回:サタミシュウ・著『私の奴隷になりなさい』(後編)

サタミシュウ 角川文庫 私の奴隷になりなさい 大泉りか
by Mikamatto

   今もっとも世間をざわつかせている女のひとり、壇蜜。
週刊文春の恒例企画『女が嫌いな女』十位にも選ばれた彼女が、一気にスターダムへと駆け上るきっかけともなった映画の原作『私の奴隷になりなさい』。このヒロイン・香奈について読み解いていきましょう。

 香奈はその日、昼過ぎ、グレージュ色のストライプシャツに、膝丈のタイトスカートにパンプスという格好だった。
僕は朝からずっと、ボタンを二つ外してぎりぎり見えない胸の谷間あたりと、尻のラインを盗み見ては勃起していた。

 数日前に陽気な先輩と、仕事終わりで飲みに行ったときに、先輩は香奈についてこんなことを言っていた。
「香奈ちゃんて昔はさ、なんか色気のない服ばっかり着てたんだよね。女の服のことなんかよくわかんないけどさ、なんて言うの、モード系とかそういうやつ? やたら黒くてやたら体のラインが出なくてやたら足も見せないようなやつ。それが今年から急にさ、いわゆる普通のちょっとおしゃれなOLが着るような格好をし始めてさ。髪型もああいう男好きしそうなのに変えたんだよ(中略)」

 先輩はべろべろに酔っ払いながら、「最初から今みたいだったら、もう何年も前に口説いてたなあ。俺」と口をとがらせて言った。僕は呆れて笑うふりをしながら、その僕が出会う前の香奈の変化と、それをさせたのであろう夫に猛烈に嫉妬していた。

 大人の女としては申し分なく、かつ男がそそられるという意味では、香奈の服も髪型も文句がなかった。実際、仕事で出会う男たちに香奈は頻繁に口説かれていた。

 そんなふうに噂されるほどに『いい女』である香奈と、念願のセックスをした“僕”。やる気があるのかないのかわからないくせに、ごく時たまヤラせてくれる、何を考えているのかわからない香奈に“僕”はどんどん夢中になっていきます。
そんなある日のこと。間男として香奈の家に招かれた“僕”は、コレクションされたビデオテープを見つけます。
そこに写っていたのは、香奈のあられもない姿でした。

 香奈はバイブの快感に耐えるように「んっんっ」と腰を小刻みに引くと、自分の手に持っていたものを男の声がするほうに差しだした。
「入れたいです。入れさせていただきたいです」
「俺の手をわずらわせるつもりか」
「ごめんなさいごめんなさい」
 香奈はほとんど叫びだしそうになりながら言った。
「何かをしていただきたいときは、きちんと懇願しなさいと教えたはずだが?」
 男は相変わらず座ったまま、香奈の犬のような四つんばいの姿を映しながら言った。
「奴隷の、アナルに、これを、入れて、ください、奴隷が、感じることを、お許しください」
(私の奴隷になりなさい P85L12-P86L7)

 香奈は夫以外に『ご主人様』のいるマゾ女で、“僕”とのセックスは、その調教の一環だったのです。

 憧れの女性の、変態的な性癖を知った“僕”でしたが、それでも香奈への思いを断ち切ることはできませんでした。
そして緊張関係の高まった香奈と“僕”との結末は……本編でお楽しみいただくことして、このコラムではもう少しだけ、“香奈”という女性について考えたいと思います。

 そもそも、この連載の趣旨は、官能小説のヒロインに中に“男の理想とするセクシー”を探ること。
そして、今回ご紹介する作品のヒロイン香奈はたしかに『セクシーでいい女』だと周りから認識されています。

 完璧に男受けする髪型、服装、そして振る舞い……。

 しかし、そのすべてはご主人様の「こうしたらもっと生きやすくなるんだぜ。すべては君のためなんだぜ」という、パターナリズム溢れる矯正に寄るもの。
「香奈、頭をよくしてあげよう」というお主人様の勝手な温情に導かれて、「人に好かれるようになりました。
仕事も友人付き合いも夫との関係も上手くいくようになりました。人生悩むことなく、『生きづらかったわたし』からすべては上手く回る『わたし』になった……」とヒロイン(とご主人様)は考えています。

 が、しかし、現実は物語とは違います。
『男に矯正された女』は、そのままでいることはありません。服装にしろ、考え方にしろ、染められやすい女は、次の男が出来たらその男の色に、さっさと染め変わるものです。
そして、新しい男の色に染まろうとした時に『前の男の色』を恥と思い、そんな色に染めた過去の男を‟黒歴史“とします。

 この小説には、生きにくい系からの“ある救済”が描かれていますが、女の本当の救済は、男に囚われていた女がもとの場所、香奈でいえば『ちょいエロなコンサバ』から『モード系』へと戻り、「悪い男にひっかかったよね」と笑い飛ばせた時、そしてその時こそ人生の辛酸を知っている『いい女』になるのではないかと思うのです。

サタミシュウ 角川文庫 私の奴隷になりなさい 大泉りか

書名:『私の奴隷になりなさい
著者:サタミシュウ
発行:角川書店
価格:500円

 次回は、モデルの卵が大人の世界に染まっていく『夜ひらく』(前編)をお届けします。

Text/大泉りか

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ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。

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