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  • 2013.03.08

メンヘラ女に溺れる男たち! 二人だけの世界で行われる心理ゲーム『姉の愉悦』(前編)

【大泉りか・官能小説から読み解く、ファムファタールのススメ】
第5回:うかみ綾乃・著『姉の愉悦』(前編)

大泉りか 姉の愉悦 幻冬舎アウトロー文庫 うかみ綾乃
©Bed Head by iamtheo

 「前の彼女、メンヘラだったんだよね」
かつてお付き合いしていた男性にそう告げられたのは、付き合い始めてひと月ほど経ったある日のことでした。

 オーバードーズで病院に担ぎ込まれた挙句、医局から薬を盗んで逃げ出したというエピソードを紹介され、「どうしてそんな女と付き合っていたのか」と尋ねたところ、「別れ話をしたら『雨に濡れてどしゃぶりの子犬を見捨てるのってどんな気分なの?』って。そんなこと言われて別れられるかよ!」と。

 なぜにメンヘラの人は、ポエミーなセリフを好むのでしょうか。しかも、そんなセリフにコロッと参っちゃう彼も痛くて面白い。が、これはふたりの恋愛の部外者(今は恋人同士だといっても、過去の思い出は彼と彼女のものだと思います)であるからこそ思えることで、本人は至って真面目です。

「俺のことを愛していると言いながらも、なぜ、彼女は俺を振り回したのだろう」
「すごく大切にしていたのに、なぜ彼女は浮気をしたのか」
「どうしたら彼女の『寂しさ』を癒すことができたのだろうか」
などと、いまだ呪縛に囚われた様子。
まさにメンヘラを感染させられてしまった状態。

 もしかして、彼女は、その『愛』を受け入れてもらえない『寂しさ』から『浮気』をしたのかもしれません。
はたまた、『浮気』をして『振り回す』ことで、自分の『愛』と同じだけの愛情を彼が持っているかを、確かめたかったのかもしれません。
彼女の心がわかるのは、彼女だけ。いいえ、彼女自身すら、自分の心をわかっていない……わかっていたとしても、どうしようもできなかったのかもしれません。

 自分を認めて欲しくて、愛して欲しくて、どうしようもなく身悶えながらも、その心をコントロールできなくなるのが恋。もともとの熱量が高い人が、さらに恋をすると、その辛さも一際のはず……。
というわけで、今回はそんなカロリー激高のヒロインをご紹介します。

大泉りか 姉の愉悦 幻冬舎アウトロー文庫 うかみ綾乃
姉の愉悦』/幻冬舎アウトロー文庫/著・うかみ綾乃/¥630

 第二回団鬼六賞の大賞受賞した女流官能作家、うかみ綾乃さんの書き下ろし作品『姉の愉悦
この作品のヒロイン、凪は、13歳の夏に両親を失くして以来、以後、4歳年下の弟の漣とともに手を取り合って生きてきた薄幸の女性です。

 凪が化粧をし、お洒落をしているところを見たことはない。好きな音楽もスポーツの話も聞いたことがない。着ている洋服のほとんどは安い生地を買い、母親譲りの裁縫の腕で仕立てているようだ。
 それでも、彼女ほど美しい女性はいなかった。
 義人は手の中の珈琲が冷めていくのも忘れ、いまもまた目の前の凪の横顔に見惚れていた。
 シンプルなカップに近付ける唇は、口紅などつけずとも瑞々しいピンク色で、濃い睫に縁取られた目は、常に迷いなく凛と輝いている。ふっくらと柔かな稜線を描く頬。頬にかかる艶やかな黒髪。それを無頓着に掻き上げる白くしなやかな指。一度もマニキュアを塗られたことのないだろう爪は透明感のある桜色だ。
 両親の死について町中に広まった汚れた噂も、彼女の毅然とした美しさを損なうことはなかった。義人の父の庇護を受けていた頃も、その美貌にわずかでも卑屈の色が浮かぶことはなかった。(『姉の愉悦』P17L9-P18LL5)

 見た目こそ清楚ながらも、性格は強気。弟思いで面倒見がよく、健気に生きる彼女には、しかし、誰も知らない秘密がありました。
司法試験を目の前にして、ひょんなアクシデントから脚を骨折し、凪の暮らす三重県志摩の漁師町へと帰ってきた弟の漣。その漣が寝入った後、隣に添い寝しながら――。

「漣……」
 下ろした手を、そっとパンティの中へ潜り込ませた。濡れていた。
 濡れていた。ねっとりとした愛蜜が閉じた淫唇から溢れ出て、すでに下着の中心部を湿らせていた。
 手の甲は漣の股間部に当たっている。ペニスはたらんと、あどけなくブリーフの中に納まっている。その柔らかさと体温を感じながら、中指で、自身の粘液にまみれた二枚の唇を割った。
「ああ、漣……」
 貌をさらに寄せた。鼻と鼻を擦りつけ、吐息で漣の寝顔を愛撫する。漣は起きない。知っている。寝入ったばかりの漣の眠りは深く、耳元で囁く凪の声にも、夢の中で応えるだけだ。
 指を一層、裂け目の奥へ押し込んだ。一本だけでは足りなくて、薬指も挿し入れた。根本まで埋めた二本の指を、膣壁の天井部分を擦るようにくねらせた。
「あ、あぁ……」(P34L5―P35L1)

 凪が漣に抱いていた感情は特別なものです。
成長を重ね、肉体こそ男と女へとそれぞれに分化したものの、自分にそっくりな漣は、凪にとっては自分の体の一部。
あらかじめ、共に生きることを約束された存在以外の、何者でもありませんでした。

 それに加えて幼い頃から寄り添って生きてきた肉親への親愛の情、庇護の対象としての慈しみが交じり合い、さらには、“女”という性がその身体の中で暴れ猛り、凪を「ずっと一緒よ……私たちは、離れないの……」(P36L16L)という妄執へと駆り立てたのです。

【後半に続く】

お楽しみに!

Text/大泉りか

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ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。

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