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  • 2016.07.12

女性向けAVのパロディと「AV OPEN」の勝機――『兄カノ。』に見る男性向けメーカーの思惑

今回取り上げる女性向けAV『兄カノ。』は、①直後に男性目線ver.が発売され、②普段は男性向けにAVを撮っているメーカーがリリースしており、③アダルトビデオの祭典「AV OPEN」にエントリーした、とても興味深い作品。いったいどのように分析されるのでしょう……?

『兄カノ。』の3つのポイント

 どうしてもSILK LABOの話が多くなってしまうこの連載だが、今回は、メインを他メーカーの作品に据えよう。
今回扱うのは、『兄カノ。~禁断の恋 さくらゆら』というAVだ。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 兄カノ
『兄カノ。~禁断の恋 さくらゆら』

  この作品の興味深い点は大きく分けて3点ある。
第一に、同じストーリーを男性側の視点から描いた男性向けAVが直後に発売されたという点。
第二に、普段は男性向けにAVを作っている「kawaii」というメーカーが作った女性向けAVであるという点。
第三に、このAVが、「AV OPEN 2015」のエントリー作品であるという点である。
以下、順番に説明していこう。

『兄カノ。』のストーリー

 内藤みか・冴木ぽてり作のコミックノベルを原作とした、『兄カノ。~禁断の恋 さくらゆら』のストーリーは以下のとおり。
ひなた(さくらゆら)は、恋人の悠人(小田切ジュン)が暮らす家に週末お泊りデートするのがお決まりの流れ。
その家に、悠人の弟である翔太(有馬芳彦)が、芸能人になるため大学をやめて東京に出てきたと言って突然訪れてくる。

 ひなたは、悠人とのセックスの盗撮動画をネタに翔太に脅迫され、フェラチオを強要されたりしつつも、「俺、お姉さんがいいんだ。初めての人はエッチに慣れてる大人の女の人がいいって言うじゃん」というまさかの童貞宣言(童貞が金髪に染めてたまるか)に不意にドキッとしたりする。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 有馬芳彦
『兄カノ。~禁断の恋 さくらゆら』

 ある雨の日、あわや挿入か、というところで悠人から電話が入り、タイのバンコクに転勤が決まったのでひなたにも付いてきてほしいと告げられる。
2人の男の間で揺らぎつつも悠人と別れたひなたは、その3か月後、翔太と道端で偶然出会い、無事初めてのセックスを果たしてめでたしめでたし。

 ツッコミどころだらけのストーリーはぜひ視聴して確認してほしいが、カメラワークなども含め他メーカーの作品とフォーマットはそれほど大きく違わない。
強いて違いを挙げるなら、タイトルの次の場面が、目が覚めて違和感を覚えたひなたが布団の中を覗くと悠人がクンニしている、という『呪怨』のエロパロみたいなシチュエーションなので、性行為シーンまで「話が早い」ということぐらいか。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 呪怨
『呪怨―終わりの始まり―』

 さて、この『兄カノ。』の翔太目線ver.として、『兄貴の超かわいい彼女を童貞の僕が寝取ってヤった。 さくらゆら』という男性向けAVも作られている、というのが興味深いポイントの1点目である。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 さくらゆら
『兄貴の超かわいい彼女を童貞の僕が寝取ってヤった。 さくらゆら』

 男性向けAVが女性向けに編集される場合については、「GIRL’S CH」を例に第2回で説明したが、今回はその逆だ。
男性向け版では、どこに差異があるだろう。

女性向けAVの男性によるパロディ

『兄貴の超かわいい彼女を…』では性行為は激しく、そして加虐的になっている。たとえばフェラはイラマチオっぽくなり、セックスのフィニッシュは口内射精に変更されている。それから、服を脱がせるシーンがカットされていきなり全裸になってしまっているなどの違いがある。
またストーリーは、『兄カノ。』では電話の邪魔が入って挿入に至らなかった場面も、ガンガン本番行為がなされるように変更された。つまり童貞卒業が1回分早くなっている。

 最も本質的な違いは、画面を構成する「視線」の相違、すなわち男性主観映像が増えたところだろう。
第1回第2回で述べたとおり、男性向けAVの特徴は手前にいる「男」が「女」に眼差しを注ぐ「奥行き」の配置で、女性向けAVの特徴は第三者視点から「男女」を同時に眺める「広がり」の画面構成である。
『兄カノ。』とその男性向け版の差異は、今まで連載で書いてきた分析と適合的だ。

 けれども、私にとって興味深かったのは、2作品の相違点よりもむしろ2作品がそれほど違わなかったという点だ。
私はてっきり、翔太がもっと悪者に見えるようにストーリーに追加があるのだと思っていた。だが、童貞卒業が早くなっただけで、翔太の性格に特に変更はない。
それなのに、年下の男の子への恋心に気づいていく心温まるハッピーエンドが、「AV語」に翻訳されて、「兄貴の超かわいい彼女を童貞の僕が寝取ってヤった。」という倫理観の欠片もない武勇伝になっているのである。

 しかし男の私は、この胸糞悪い編集にちょっとスカッとする部分もある。
これに関わるのが『兄カノ。』の興味深いポイントの2つ目、ふだんは男性向けに作っている人気メーカー「kawaii」が制作しているという点だ。
『兄カノ。』は女性スタッフだけで作ったそうだが、その男性向けへの編集は、甘く美しいストーリーに対する男によるパロディである。
「男ってのはそんなキレーな生き物じゃねーぞ!」と露悪的にふるまってガハハとあざ笑うかのようなこのヤンキー性、ヤリチン性に「よくぞ言った!」という気持ちもうっすらあるのだ。
男性向け作品を女性向けに編集する「GIRL’S CH」のもつパロディ性とともに、今後注目してみたいポイントである。

女性向けAVは「AV OPEN」で勝てるのか

 それにしても、ふだん男性向けAVばかり作っている「kawaii」はなぜ、『兄カノ。』を撮ったのだろう。
機会があればぜひ制作者に直接訊いてみたいと思うが、いま私が邪推するに、「AV OPEN 2015」で勝ちたかった、というのがその理由ではないか。ここで、興味深いポイント3つ目の、このAVが「AV OPEN 2015」のエントリー作品であるという点につながる。

「AV OPEN」とは、アダルトコンテンツ業界の発展・振興に寄与することを目的とした、国内史上最大規模で行われるアダルトビデオの祭典である。
2006年に第1回が開催され、2007年、2014年、2015年と回を重ね、今年で第5回目となる。『兄カノ。』は去年のエントリー作品だ。

 エントリー作品の売上合計金額によって、部門・総合のグランプリが決定する。
ちなみに、2014年からは「Japan Adult Expo」というAVファン感謝祭で結果発表が行われており、ここ2年、私は会場で発表を目にしているのだが、あれは凄まじい熱気だ。
「この場にいる全員エロが好きなんだな」と思うと不思議な感動を覚えるので、興味があればぜひ行ってみてほしい。
余談だが、初めて行ったときは、名誉総裁のリリー・フランキーが審査員特別賞18作品のタイトルを「『小便アイドル』、『素人マスク性欲処理マゾメス淫語ザーメン』……」と最低な寿限無のようにずらずら高速で読み上げるのを聞いて頭がくらくらしたものだ。

 さて、「勝ちたくて女性向けを作ったのではないか」とはどういうことか。つまり、作戦はこうだ。
2015年のエントリー作品は88作品で、そのうち女性向け作品は1作品のみだった。
したがって、男性による売り上げは87作品の間でバラける(しかも、さくらゆらファンは『兄カノ。』も買うかもしれない)。
しかし、女性の票はある程度『兄カノ。』に集中すると仮定すれば、全体としてAVファンの女性の数が男性の数をかなり下回っていたとしても、『兄カノ。』は相対的にかなりの売り上げを記録するはずである。
「kawaii」はこの可能性に賭けたのではないか。たとえ「kawaii」にそういう意図がなかったとしても、勝ち筋はこれしかないだろう。

 だが最終的に、『兄カノ。』は「AV OPEN 2015」で一つも賞をとることはなかった。
ちなみに、2014年にはSILK LABOが『Girl’s Pleasure 古川いおり』でエントリーしているが、これも受賞には至っていない。
結局、女性向け市場は、男性向け市場と比べればほんのちっぽけなものにすぎないのか?
AVは男性のためのものでしかないのか?


 本日7月12日、「AV OPEN 2016」エントリー作品の情報が解禁された。
しかし、今年はとうとう女性向けを謳うAVは1作もエントリーしなかったようだ。
女性向け作品に、もう勝ち目はないと判断されたのだろうか?

 それは分からないし、もちろん「AV OPEN」に参加するのが偉いわけでもなければ、数が売れるのが偉いわけでもない。
奥深く幅広い性の世界におけるマニアなニーズに応えるのも、AVメーカーの重要な職務だ。

 だが、AVを買って観る女性は「マニア」なのか?
もしかしたら、そうなのかもしれない。ただし、今のところ。

 女性がAVにお金を使うことも(使わないことも)、もっと普通で、自由であればいいと思う。
いつかそれが達成されたならば、それはひとつの革命だ。

Text/服部恵典

 次回は《「女性のエロスイッチは視覚ではない」は本当か?――ポルノの男女比較、日米比較》です。

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

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