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  • 2016.06.14

女性向けAVの3Pと「欲望の三角形」――密やかに現れるホモソーシャル

女性向けAVと男性向けAVで、3Pの描かれ方がどう違うか分かりますか? 現役東大院生によれば、女性向けの3Pはストーリー性があって、不思議なほど男優が仲良し……? 社会学の理論を使って、3Pの不思議を解き明かします!

男から見た3Pの嘘くささ

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究
©David Gasparean

 この連載は、男性の私が女性向けポルノを視聴していて「こんなん見たことないわ」と思ったシーンを分析することが一つのテーマになっていると、初回で書いた。
初回ではハメ撮りを取り上げたわけだが、今回はSILK LABOの「Triangular」シリーズ、すなわち女性向けAVの3Pについて述べたい

 このシリーズを視聴していてまず不思議だなと思ったのは、ふつうの人ならば一生に一度体験するかどうかも怪しい3Pという非現実的なプレイにすら、ストーリー的な裏付けがあることだ。
「同級生と久々の再会で、隣に友達が寝てるのに元カレに押し倒されて…」(『Suddenly Triangular』)だとか、「以前勤めていた会社の上司と同僚とカラオケボックスで…」(『Addictive Triangular』)だとかである。

 私としては、3Pやハメ撮りはAV用のプレイなのだから無理やり整合性を取ろうとすると逆にストーリーの現実感のなさが目立つのではないか、そこは割り切ってサクッと始めてしまえばいいじゃないか、と思う。
女優の両サイドから突然ぬっと2人男優が現れた方が、私はかえって「演技ではないな、ノンフィクションだな」と感じるのだが、女性視聴者にとってはどうもそうではないらしい。

 仮説にすぎないが、AVを視聴する女性の多くは「急に3Pなんて嘘くさい」と感じ、男性は「こんなストーリーは嘘くさい」と思っているのだろう。
つまり、男性向けAVも女性向けAVもそれぞれ質の違う嘘くささをはらんでいるのだが、どの部分を「フィクションだから仕方ない」「嘘だけどリアリティがある」と思うのかについては、どうもジェンダー差があるようである。

 まあ、この点については、またいつか掘り下げられたらと思う。
今回、より詳しく書きたいのは「Triangular」シリーズを視聴していて困惑した別の部分、すなわち、2人の男優の親密性である。

3Pのやおい・BL性

 男性向けAVの3Pがどのようなものなのかを説明するのは、慣れ親しんだものであるがゆえに逆に難しさがある。
だが何とか特徴を捉えようとするならば、そこでは3Pは何か逸脱的な性のあり方として提示され(といってもAVに現れるプレイとしてはごく一般的だけれども)、画面にはちょっとした緊迫感というか、淫らさを追い求める強迫感が滲んでいるといえると思う。
男性は「そう言われても、別にふつうじゃないかなあ」と感じるだろうが、少なくとも女性向けAVの3Pと見比べてもらえれば、何となく私が言ったことを実感していただけるのではないか。

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『Addictive Triangular』

 女性向けAVの3Pは、ずいぶんと和やかだ。ユーモラスですらある。
『Addictive Triangular』で、一徹が川上ゆうとのセックスを有馬芳彦に目撃されたときに笑みがこぼれたり、あるいは『Suddenly Triangular』で、2人がセックスし始めたことに気付いて寝たふりをする倉橋大賀にブラジャーが降ってきたり、寝たふりがバレたりするシーンなど、コントのようだとさえ感じる。

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『Suddenly Triangular』

 おそらく、男2女1の3Pは、女性にとって逆ハーレムでもあるが輪姦っぽさもあり、その恐怖感を打ち消す必要があるのだろう。
作品は基本的に明るい調子で続き、登場人物3人が女性を真ん中にした川の字で談笑するシーンで、幸福感に包まれたまま終わるのだ。

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『Addictive Triangular』

 なお、ストーリーが終わったのち、『Suddenly Triangular』『Addictive Triangular』ではスタッフロールと同時にNG集が流れる。
前者では月野帯人がムーミンの股間を撫でさすってしまいNG、後者では月野が北野翔太に「もっとしてよ翔、俺にも!」と言ってしまいNG。
どちらも、男性同士の性愛を深読みさせる。

 何もNGシーンだけではない。
『Suddenly Triangular』前半パートは、川の字の真ん中に寝る女性登場人物を差し置き、「俺、タクミ好きだもん」「何言ってんだよ(笑)」という台詞で終わるのだ。

 私は初めて見たときから、視聴者の深読みを誘う女性向けAVのこのやおい・BL性には驚きっぱなしだ。
これはいったい何なのだろう。
社会学の理論を使って、何とか、もっともらしい説明を考えてみよう。

「欲望の三角形」と男同士の絆

 3Pを構成する男性2人の間に現れる、やおい・BL性。
この説明に用いたいのは、ルネ・ジラールの「欲望の三角形」理論と、それから派生した、イヴ・コゾフスキー・セジウィックの「ホモソーシャル」理論だ。

 ジラールによれば、「欲望」というものは個人の内側から自然に発生するものではなく、他者のそれを模倣することによって生じる。
たとえば、「なぜその靴がほしいのか?」と尋ねられた場合、あなたは「有名なブランドだから」「持ってる服に合うから」など、何らかの理由を答えるだろう。
しかし、さらに「なぜ?」を繰り返されれば、最終的には「“みんな”このブランドを欲しがっているから」「“みんな”このコーディネートが良いと思うはずだから」というように、必ず他者の目線の存在にぶつかるはずである。
「他者」が「対象」に注ぐ欲望を、覗き見する第三者たる「私」、この3要素で構成される三角形が欲望の基本形なのだ。

 社会学者の作田啓一はこの理論を、誰しも教科書で読んだことのある、夏目漱石『こころ』に応用している。
「先生」ははじめ、下宿先のお嬢さんとの結婚をためらう。
作田の解釈では、「先生」がKを下宿先に呼んだのは、お嬢さんが結婚に値する女性であることを、尊敬するライバルであるKに保証してもらうためである。
そしてKがお嬢さんへの愛に目覚めてから、「先生」はその愛を模倣して婚約に踏み切るのだ。

 ご存知の通り、Kは自殺に追い込まれるわけだが、欲望の媒介者たるKの喪失は安定した三角形の喪失であり、「先生」とお嬢さんの幸福を崩壊させる力をもつ。
最終的に「先生」は、明治天皇を追って死んだ乃木希典を模倣して死んでゆくのだ。

 ジラールのこの「欲望の三角形」の理論に、レヴィ=ストロースという人類学者の「女の交換」の理論を足し合わせることでセジウィックが考え出したのが、「性愛の三角形」からなる「ホモソーシャル」という概念である。

  曰く、異性愛主義的なこの世の中において、「欲望の三角形」を構成する欲望の主体は男で、女は欲望の客体にすぎない。
男たちは、女を欲望の対象=モノだと見なす「女性嫌悪(ミソジニー)」、男同士で欲望を向け合ってはならないというルールである「同性愛嫌悪(ホモフォビア)」によって、「男同士の絆(ホモソーシャル)」を作り上げるのだ。
たとえば、男子校のエロ本の回し読みなんかを思い浮かべてもらえればいいだろう。あれがホモソーシャルだ。
セジウィックによれば、異性愛とは男と女の愛の絆を作り上げるものではなく、男同士が惹かれあうためのシステムなのである。

 私の解釈では、セジウィックの理論で重要なポイントは、同性愛嫌悪によって成り立っているくせに、ホモソーシャルが同性愛(ホモセクシュアル)と連続しているという点にある。
ホモソーシャルとホモセクシュアルは全く別の概念である。しかし、誤読可能なほどには似ているのだ。
古くは『キャプテン翼』などから『おそ松さん』に至るまで、やおい・BL人気の高い作品は「チーム男子」性=ホモソーシャル性が宿っている。
そういえば、高校の現代文の授業で『こころ』を読んだとき、「先生」とKが実はデキてるんじゃないかと妄想したのは、私だけではないと思うがどうだろう。

 難しい話が長くなってしまった。
つまり私が言いたかったのは、女性向けAVの3Pに現れるやおい・BL性も、「性愛の三角形」で構成される「ホモソーシャル」的関係性なのではないかということだ。

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『Nostalgia Triangular』

『Nostalgia Triangular』最終シーンでは、月野帯人の手は江波りゅうを跨いで、一徹の耳に渡される。
一徹は、その手を優しく握り返す。
ここでもまた、実は女性の存在は単なる媒介にすぎず、真の絆は男同士の間で結ばれているのである。

  *  *  *

 反省的に読み返せば、実は、本稿はずいぶん安易な前提のうえに成り立っている。つまり、「密かに現れたBL性は、考察すべき発見である」という前提だ。
言いかえれば、本稿は「男性向けAVで3Pの女2人がキスしたりするのは別に珍しいことではないのに、なぜ3Pの男2人がちょっと仲良しなだけでそんなに驚くのか?」ということを問わずに議論を進めてきてしまっているのである。

 この点に気づいた我々は、女性向けAVに密やかに現れているBL性よりも、密かに隠されているホモセクシュアルをこそ、分析しなければならない。
だが、このテーマは次回扱うことにして、今はいったん筆を置こう。

Text/服部恵典

 次回は《忌避される「リアルゲイ」――密やかに隠されるホモセクシュアル》です。

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ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

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