• sex
  • 2016.05.17

浮気を肯定する「セックスの天使」――女性向けポルノのパターンとその破れ

現役の東大大学院生男子による女性向けAV研究第4回は、ストーリーの分析。90年代のレディースコミックから続く、「官能によって主人公が女として磨かれる」というパターンは、現在のAVではどのように現れているのでしょうか?

レディースコミックの黄金パターン

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究
©Joseph Kranak

 女性向けAVを主に分析するこの連載も第4回目だが、これまでは映像を構成する「視線」や社会通念に焦点を当て、ストーリーについてはほとんど触れていなかった。
したがって今回は、SILK LABO作品のストーリーの特徴的なパターンについて指摘することにしよう。

 さてその説明に入る前に、一旦女性向けポルノの歴史を振り返っておく。
今でこそ女性向けAVはSILK LABO作品を中心に一定の人気を誇っているが、それ以前、特に1980年代後半から90年代前半にかけては、女性向けポルノといえば「レディコミ」、つまり漫画が中心だった。
藤本由香里は1992年に「女の、欲望のかたち――レディースコミックにみる女の性幻想」というエッセイ(99年に『快楽電流』 に再録)で、当時のレディコミのストーリーの「黄金パターン」について分析している。

 藤本によれば、主人公の女性を「選ばれた女」であると承認し、「性によって彼女の人生を根本から塗りかえてしまう存在の象徴」としての「運命の男」が登場するというパターンがレディコミには非常に多い。
主人公の女性は「運命の男」に導かれ、官能によって「女」として磨かれていくのである。

 レディコミの時代から約20年が経った現在。
もちろんその間に、日本の女性の性のあり方はずいぶん変化し、多様化した。しかも女性向けAVともなれば、そもそもメディアが違う。
しかし、「運命の男」は女性向けAVにも未だに現れ続けているように思われる。

女性向けAVの「運命の男」たち

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究
『ファインダーの向こうに君がいた』

 前回、少し示唆しておいたが、SILK LABO初期作『ファインダーの向こうに君がいた』 が一つの例だ。
恋人との関係は良好ながらも一度もオーガズムに達したことがない主人公・鈴木麻美(工藤あさみ)は、ミステリアスなカメラマン・三神裕司(月野帯人)とひょんなことから関係を持ってしまう。

 性行為シーンは4度あるが、1度目で麻美は、クリトリスを刺激するマスターベーションを三神に教えてもらっていわゆる「外イキ(クリトリスの刺激でのオーガズム)」を経験、2度目で三神にペニスを挿入され「中イキ(膣内の刺激でのオーガズム)」を経験し、3度目で初めて麻美が三神を責める、というようにステップアップしていく。

 そして4度目の性行為で麻美は、自分がしてもらいたいことを伝え、自分の気持ちがいいところを探しながら、恋人・稲垣直人(鈴木一徹)と「良いセックス」ができるようになっている。
視聴者が映像に同調しつつ、麻美と一緒に性的に成長できるようなハウツー的ストーリーになっているわけだが、月野帯人演じる三神裕司こそ、藤本が言った「運命の男」そのものであろう。

 興味深いのは、主人公の麻美が、自分を変えてくれた「運命の男」とは結ばれないということだ。
三神との浮気によって女を磨いた麻美は、恋人と幸せなセックスライフを送る。
一方の三神は最終シーンで荷物をまとめ海外に発つので、麻美の浮気がバレる心配はない。

 もちろん、SILK LABO作品では、浮気した女性がみな本命の恋人を選ぶわけではない。
しかし、『繋いだてのひらから伝わること』『セカンド・ブレイク』『ラスト・グッバイ。』など、「運命の男」との浮気が恋人や夫との関係を改善させるパターンは多く見られる。

 なお、AMで連載しているみぃみぃさんは、『ファインダーの向こうに君がいた』を紹介する回で、マンネリに悩む女性たちに「まずは自分のカラダをちゃんと知り、ちゃんと言葉で伝え、彼も自分もキモチ良くなって、初めて二人のセックス」であると伝えに来るこの男たちを「セックスの天使」と呼んでいる。
結ばれない男を「運命の男」と名指すのはどこかちぐはぐだから、たしかにより正しいネーミングかもしれない。

 SILK LABOは、「女には少しぐらい火遊びが必要よ、でも一番愛しているのは恋人でしょう?」、そんなアンビバレントなメッセージを視聴者に送る。
だが、もう一歩踏み込んで注意深く見てみよう。
一方で、男の火遊びはどのように描かれているだろうか?

「セックスの天使」は男に微笑むか?

 2013年の作品『クロスロード』は、「Side A」と「Side B」の2部構成になっている。「Side A」は一徹演じるシュンスケが主人公。

「他の女と遊ぶことに口を挟まないこと」を条件にナツメ(水城奈緒)と付き合っているシュンスケの前に、大槻ひびき演じるミステリアスな女性・シオが「私、あなたのことが好きになりました」といって家にあがりこんでくる。
寂しさと強引さに負けたシュンスケがシオと寝た翌朝、シオは「彼女の大切さ、気づきましたか?」と言い残して去っていく。
この「セックスの天使」によってシュンスケが恋人の大切さに気付かされ、ナツメに電話をかけるシーンで「Side A」が終わる。

「Side B」はナツメが主人公で、時間軸的には「Side A」とパラレルである。
シュンスケの浮気癖にさすがに嫌気がさしてきたナツメを、幼馴染のヒロヤ(月野帯人)が慰めてくれるストーリー。よくある一つの幸せのかたちだ。

 ただし、注目すべきはラストシーンである。
ナツメは、改心したシュンスケからかかってきた電話を無視して(あるいは電話に気付かずに)、夢中でヒロヤとのキスを続けるのだ。
電話が切れ、一瞬ふっとナツメが微笑んでまた口づけた瞬間、突如切断的にミステリアスなBGMが止まり、映像は暗転、スタッフロールが流れて作品は終わる(個人的に、SILK LABO作品屈指の演出だと思う)。

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究
『クロスロード』

 ナツメにとってはハッピーエンドかもしれない。しかし、シュンスケからしてみれば、改心の甲斐なく彼女を寝取られ、これほどむなしい結末はない。
あんなに女性を幸せにしてきた「セックスの天使」は、男性には恋人とよりを戻すことを許さないのである。

 しかし、この作品が「それぞれが選んだ道・・・どちらが正しいかなんて、誰にもわからない―。」をテーマにしていることに注意しなければならないだろう。
タイトルになっている「クロスロード」は、英語で「(重大な決意をすべき)十字路、岐路」を意味する言葉である。

 シュンスケは「セックスの天使」に高い教科書代を払って、いま報われなかったがゆえに幸福になっていくのかもしれない。
ナツメだって、本当は電話をとるべきだったのかもしれない。
ただ観て満足するだけでなく、“セックスを描けるAVだからこその”「考え」て楽しむためのチャンスが、この作品にも眠っている。

Text/服部恵典

 次回は《EROMEN LABO番外公開放送イベントレポート――月野帯人という未知、あるいはダイヤモンド》です。

ゆっち ファスティング ベルタ酵素ドリンク ダイエット 断食

 社内で付き合うのは、楽だけどめんどくさいですよね…。そんな方に向けて、楽だけどめんどくさくない!イイ男と出会う方法をご紹介します!

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

今月の特集

AMのこぼれ話

アンケート

読者アンケート

AMではより楽しく役に立つサイトを目指すため、読者アンケートを実施しております。 本アンケートにご協力お願いします。

アンケートはこちら