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  • 2016.04.19

盗撮カメラとラブラブエッチ――AVを女性向けに編集するとはどういうことか?

現役東大院生がアダルト動画を分析する本連載の第2回目は、「男性向けAVを女性向けに編集する」についてです。いまや日本最大級の女性向けアダルト動画サイト「GIRL’S CH」ですが、再生ランキング1位動画の元ネタ…つまりオリジナル作品を調べてみると実に意外なことが分かったのです。

AVを女性向けに編集するということ

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©cdsessums

 前回はSILK LABO作品について論じたので、同じくソフト・オン・デマンドが運営している日本最大級の女性向けアダルト動画サイト、「GIRL’S CH」について論じることにしよう。月間ユニークユーザーは約200万人にも及ぶらしいので、知っている人も多いのではないだろうか。

 この動画サイトは、有名女性芸能人が監督したアダルト動画や、深夜番組を思わせるエロバラエティ動画など、オリジナルで制作されたコンテンツも興味深い。しかし、「GIRL’S CH」に関して私が最も興味深く思うのは、全動画のうち約85%が、自社の男性向けAVを5分~10分程度に編集した動画であるということだ。

「男性向けAVを女性向けに編集する」とは一体どういうことなのか? どう編集すれば「女性向け」になるのか? これが、今回考えてみたい問いである。

 とはいっても、「GIRL’S CH」オリジナル動画を除いた約8500件ほど(2016年4月現在)の動画の元になっている男性向けAVすべてに目を通すことは不可能だ。
したがって、動画の代表性や典型性、あるいは極端性を考慮し、「これまでの再生数ランキング」1位の動画を分析することで、問いに対する一つの答えを出してみたいと思う。

「これまでの再生数ランキング」1位の動画は、「[無料会員]イケメン彼氏とお家でキスいっぱいラブラブエッチ」
2014年6月に公開されたこの動画は、2016年4月現在、約121万回再生されている。その約1年5か月前に公開されているランキング2位の動画の再生数が約80万回に留まっていることからも、その人気のほどがわかる。
出演しているのは、人気AV男優・倉橋大賀。正常位シーンの彼の裸の後ろ姿は、男の私でも惚れ惚れするほど美しくなめらかだ。

 だが、ここで満足せず、元の問いに戻ってみよう。
この動画のオリジナルはどんな作品なのかというと、実は、『世田谷区在住美人OL結衣24歳 恥辱まみれの輪姦レイプ』という、極めてヴァイオレンスにまみれたAVなのだ。

「輪姦レイプ」から「ラブラブエッチ」へ。いったいどうしてそんな編集が可能になったのか?

「ラブラブエッチ化」の仕組み

『世田谷区……』は前半約7割が、主人公である結衣の周辺に仕掛けられた盗撮カメラからの映像で構成される。
図1は「GIRL’S CH」の動画でも使用されているシーンの抜粋だが、画像の四隅に影があるのは、設置されたカメラを隠す覆いを表現したものである。

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(図1)

 カメラを仕掛けた何者かによる意味深なテロップが時々挿入されつつ、結衣の入浴やベッドでの自慰、腋毛の処理、職場での彼氏との密会、トイレ、自宅での彼氏とのセックス、職場での上司への性的奉仕などの盗撮が続く。
そして、その何者かによって上司との関係が画像付きメールで社内中にバラされ、彼氏と破局する。女友達が慰めてくれるのだが、何とこの女友達は盗撮カメラと目が合うのだ。

 その後、女友達による結衣への報復なのか、黒ずくめの男たち3人が部屋に侵入し、輪姦を始める。このとき、2人で結衣を犯すのを1人が撮影する画面が中心になる(フジテレビドラマ「eveのすべて」を髣髴とさせる脚本と演出だ。ここまでストーリーに力をいれたAVは今どき珍しい)。

 タイトルが示す通り、作品のメインは後半なのだが、彼氏とのセックスだけが抜き取られることで、作品は解毒されていたのだ。これが「ラブラブエッチ化」の仕組みである。

 実は、「これまでの再生数ランキング」3位の「彼氏とのエッチで何度もイッちゃう女の子」も、元は『北川美緒 完全盗撮 奪われた日常と狙われた美人弁護士』という盗撮もので、『世田谷区……』と同じ監督の作品である。

 同様に後半は輪姦なのだが、最終シーン、美緒をレイプした黒ずくめの男たちが去った後に助けに来た彼氏は、美緒を慰めつつも盗撮カメラと視線が交差する(図2)。

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(図2)

 盗撮カメラの存在に気付いているこの彼氏こそ盗撮カメラを仕掛けた張本人であり、弁護士の主人公に恨みを持つがゆえに、彼氏になるふりをして陰惨な復讐をしたのだった、というストーリーなのだ。
つまり、男は美緒のことを全く愛してなどいなかった、というオチがつくのだが、編集によって「ラブラブエッチ」へと姿を変えているのである。

 ただまあ、結論が「女性はラブラブエッチが好き」というだけではひどく常識的というか、そりゃあそうだろうね、という感じがするだろう(もちろん、「レイプもののAVが好き」という女性も少なくないのは当然だ。私が試みているのは「嗜好は様々だよね」という究極的な解答に安易に陥らずに、どうにか傾向をつかまえようと足掻くことなのだ)。

 私がそれでもなおこの動画を重要視しているのは、単に輪姦レイプがラブラブエッチになっているだけでなく、ラブラブエッチが盗撮カメラで撮られているからである。

盗撮カメラが女性向けAVで果たす役割

 前回の記事で指摘したように、女性向けAVの画面構成の特徴は、「男女」を第三者視点から捉える「広がり」の配置だった。盗撮カメラが視聴者に提供するのは、まさしくそのような視点なのである。

 他方、オリジナル作品のクライマックスであるレイプシーンは、男優の視界と一致するカメラが女優を見つめる、男性向けAV特有の「奥行き」の配置で撮られているのだ。

 前回論じた『Undress SELECTION case. 1』の特典映像「SELFIE」にも盗撮カメラが使用されていたことをご確認いただきたい。 他にも、「GIRL’S CH」オリジナル動画「恋愛ウォッチ -カップル盗撮-」シリーズや、SILK LABOの「Under One Roof」シリーズも盗撮ものである。
もう少し範囲を広げると『The Best Collection 4』特典映像の「Face to Face 5th season -another chapter-」も、盗撮とは言わないまでも、固定カメラを使った撮影だ。

 これらの女性向け作品に共通するのは、盗撮特有の後ろめたさや背徳感が感じられないということである。
映っているのは、カメラマンや監督がその場にいないがゆえに現れた、明るく親密に愛し合う男女のリアリティのある(ように見える)セックスだ。

 盗撮カメラは女性向けAVにおいてそのインモラルさが抑えられ、「広がり」の配置と自然なセックスを視聴者に提供するものへと、機能が変えられているのである

* * *

 ところで、当初の問いは「『男性向けAVを女性向けに編集する』とは一体どういうことなのか?」であった。
その答えの端緒だけでも掴むことができた今、考えてみたいのは、「『男性向けAVを女性向けに編集することができる』とは一体どういうことなのか?」という問いだ。

 最初から女性をターゲットにつくられたAVであるSILK LABO作品を私が初めて観たときに思ったのは、やはり、女性向けと男性向けでは全然違うなということだった。

 しかし、「GIRL’S CH」のやり方を見ていると、男性向けアダルト動画は、確かに女性向けに編集が必要な程度には女性向けアダルト動画からは遠いけれども、女性向けに編集すれば女性も楽しめる程度には女性向けアダルト動画に近いといえるのではないか、と思えてくる。

 私は(私たちは)この連載および研究にあたって、男女の相違に目を向けるだけでなく、実は男女の類似にこそ目を向けなければならないのだろう。

Text/ 服部恵典

 次回は《ハウツーとの付き合い方――「正しいセックス」はどこにあるのか?》です。

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

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