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  • 2016.04.05

AV女優がもつカメラは何を映すか?男女間の不均衡な眼差し

読者の皆さんは「AV」を見る際にどんな部分に注目していますか?「女性向けAV」と「男性向けAV」の違いは分かりますか?―みなさんが見ているAVの新しい見方を提供し、AVを多角的に観ることができるようになる?現役東大院生による新連載『東大院生のポルノグラフィ研究ノート』はじまります!

AVに見る男女間の不均衡な眼差し

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by konradku

 この社会においては大方の場合、男は見る主体として、女は見られる客体として役割を与えられ、眼差しは男女の間で不均等に割り振られている。

 このことは、フェミニズム理論を大仰に持ち出すまでもなく、生活の中で実感としてきっと分かっていることだろう。肌の手入れ、ムダ毛の処理、毎朝の化粧……美を保つためのこのような些事がいつでも「男」のためになされているわけではないにせよ、なぜ女ばっかりこんな面倒なことを、と思った経験は間違いなくあるはずだ。

 見る/見られるの視線の不均衡が最も顕著に表れる場が、ポルノ、とりわけ異性愛男性向けのAVだ。その特徴は、視聴者の視線が女性の裸体を射抜くように、男優を手前、女優を奥に配置する「奥行き」の画面構成であり、これを可能にするのが「男性主観」や一人二役でカメラマンが男優を兼ねる「ハメ撮り」といった技法である。

 こうした技法により、見るに堪えない男たちの身体は画面からはみ出し、視聴者は美しい女優の身体だけに集中することができるようになる。
補足すると、男性向けAV市場にもごくまれに、男性視聴者を女性主観映像にいざなう作品や、女優がカメラのコントロール権を持つ作品がある。

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(図1)©「上原亜衣ちゃんとレズれる!DVD」

 前者の例として『上原亜衣ちゃんとレズれる!DVD』(木村真也 2013、SODクリエイト)(図1)、『女の子しか出てこないヌキやすさを追求したオナニーサポートDX』(K*WEST 2015、ムーディーズ)(図2)など、後者の例として『ワケアリ現役爆乳女子大生達の危険日中出しオフ会』(監督不明 2014、OPPAI)などが挙げられる。

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(図2)©「女の子しか出てこないヌキやすさを追求したオナニーサポートDX」

 映像は誰の視界か、カメラのコントロール権は誰のものか、何が映っているか、機会があればその目で詳しく確かめてほしい。

 想定を反して、これらの作品の場合でも、画面を占めているのは女性の裸体なのだ。男性向けAVの場合、カメラの視界と男優の視界が重なるときだけでなく、カメラの視界と女優の視界が重なるときも、画面に映るのは女性なのである。

 さて、ここからが本題だ。
見る男/見られる女という役割配分が最も分かりやすく表れる場が男性向けAVだとすれば、この権力関係を逆転するかに思われる女性向けAVには、一体何が映っているのか。

女性向けAVに映るものとその視点

 女性向けAVを観たことがある人はなんとなく分かったかもしれないが、実は、「男女」が映っている、というのが正解だ。

 男性向けの映像が「奥行き」の配置で構成されているとするならば、女性向けの映像は男-女が右-左、あるいは上-下の関係で置かれる「広がり」の画面構成である(図3)。

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(図3)©「東京恋愛模様」

 つまり、男優を映すとか女優を映すとかではなく、多くのシーンはカップルを映しているのであり、カメラはセックスに関係ない第三者的な立ち位置に存在する。

 ではさらに、応用問題を考えてみよう。
先ほど、男性向けAVを特徴づける技法として、カメラマンが男優を兼ねる「ハメ撮り」を挙げた。では、女性向けAVの「ハメ撮り」モノには何が映っているだろう?

 SILK LABOが2013年に発売した『Versatile 一徹』の「#01 『非現実的な興奮を覚えるきっかけになるかも…』」は、ビデオレターを撮っていたカップルがハメ撮りになだれ込むストーリー。

 この作品の場合、AV女優・宇佐美なながハンディカメラを持っているシーンにおいては、視聴者はエロメン・一徹の姿を見ることになる。つまり、AV女優とカメラの視界が重なってもAV女優がカメラを持っても画面に「女」が映り続ける男性向けAVとは、視線の対象が異なる。この作品はその意味では、「女」が「男」への眼差しを手に入れているといっていい。

 しかし、タイトルがフェードアウトしてから作品が終わるまでの、ハンディカメラで撮影された47分15秒間のうち、一徹がカメラを持つ時間は21分50秒間、2人ともカメラを持たずに置いているのは20分45秒間だが、宇佐美がカメラを持つのはたった4分40秒間。すなわち、女性が「見る主体」である時間が圧倒的に短い。

 さらに細かく観てみよう。いくつかのシーンで、カメラを持った一徹は「見てて」と囁き(他作品でも頻繁に聞かれる口癖だ)、宇佐美と見つめ合おうとする(図4)。

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(図4)

 しかし作品中盤、一徹はカメラを置いた状態でも「見てて」と言うのだが、このとき宇佐美が「どこを」と聞き返すと、一徹は「カメラ」と囁き、自分ではなくカメラと見つめ合わせようとする(図5)。つまり、一徹の手を離れたカメラは一徹の目の延長となるのだ。

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(図5)

 一徹がカメラを持って撮影している21分50秒間はもちろんのこと、カメラが2人の手を離れた20分45秒間もある意味で男性的な映像なのであり、女性向け作品ではあるが、男性への同一化を誘われる時間の方がずっと長いのである。
したがってやはりこの意味では、「見る男/見られる女」という権力関係、すなわち視線の不均衡が、女性向けAVにもなお温存されているのだ。

 結局、『Versatile 一徹』「#01」は、無邪気に「楽しかったね」と言う一徹に対して、笑いながらも宇佐美が「うん、でももうやめよ」と応える会話で終わる。楽しかったのは視線のコントロール権をほとんど握っていた彼氏だけなのである。

「こんなん見たことないわ」な常識破り

 ただし、SILK LABOが2年後に発売した『Undress SELECTION case. 1』の特典映像「SELFIE」は、同じくハメ撮り作品ながら、明るさと楽しさに満ちており、女優の福咲れんが一徹を映している時間も長い。おそらく、『Versatile 一徹』「#01」の改善を目指したのだろう。

 特に興味深いのは、福咲れんが一徹の横に寝そべり、カメラを持ちながら手淫したときに、画面を覗きこんだ一徹が画面内の自分の姿(図6)に思わず「こんなん見たことないわ」とつぶやくシーンだ。

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(図6)

 なぜならこの台詞は、AV(それが女性向けであっても)に女性の視界が現れることの希少性、つまりは眼差しにおけるジェンダー間の不均衡を端的に示すと同時に、その現状を打ち破ろうとするこの作品の価値をも表しているからである。

 だが、より注意深く観なければならない。「SELFIE」では、『Versatile 一徹』の場合最初しか用いられていなかった、固定カメラ視点の映像が増えているのだ(図7)。
ハメ撮りを楽しむカップルを隠し撮りするこのカメラは、いったい何者なのか?

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(図7)©「Undress SELECTION case. 1」

 第三者的視点から「男女」を同時に映す「広がり」の画面構成は、まだなお女性向けAVの特徴であり続けているのである。

* * *

 私は異性愛者の男性ながら、大学院で女性向けAVの研究をしている。その研究生活は「こんなん見たことないわ」の連続だ。今回から始まるこの連載では、そんな未知との遭遇に彩られた研究成果の一端をお見せできると思う。

 AVは、観るだけでも相当楽しいが、「考える」ともっと楽しい。みなさんが私と一緒に考え、そして楽しんでくれたならば、望外の喜びである。

Text/ 服部恵典

 次回は《盗撮カメラとラブラブエッチ――AVを女性向けに編集するとはどういうことか?》です。

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

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