• love
  • 2013.04.08

『最高の離婚』は『東京ラブストーリー』の現代版だった! 

第17回:『最高の離婚』は現代のトレンディドラマである(後編)

『最高の離婚』は『東京ラブストーリー』の現代版!?

Nurture By rickyqi
©Aline+_amp_+Yannick+A+9

『最高の離婚』は、テレビドラマにとって冬の時代と言われる昨今、久々に世間で話題になったと実感できるドラマでした(前編はこちら→第16回:『最高の離婚』がたどり着いた“恋愛ドラマ”の境地とは?)。

 平均視聴率こそ11.8%(関東地区・ビデオリサーチ社調べ)と可もなく不可もないものでしたが、放送中はTwitterに感想があふれ、NAVERでも盛んに劇中の名言がまとめられるなど、明らかにほかのドラマとは違う“ホットエントリ感”があったと思います。

 その人気を支えていた要因は、男女の相互理解という題材の身近さ、出演者の魅力もさることながら、脚本自体のおもしろさが大きく関わっていたのではないでしょうか。

 このドラマは、意外な事件が起きるわけでもなく、奇抜なストーリー展開があるわけでもない、言ってしまえば「男女が痴話げんかを繰り返している」だけの話です。
しかし、ツッコミやズレが生み出す軽妙なやりとり、たとえ話を多用するしゃれた言い回し、登場人物のキャラや背景を想像させる具体的なエピソードなど、会話劇そのものの豊かさで視聴者をグイグイと惹きこんでいきました。

 また、2013年の“いま”を象徴するような時事ネタや流行、固有名詞がふんだんに盛り込まれていたのも本作の特徴です。
Facebook、LINE、スカイツリー、『レ・ミゼラブル』、ファンキーモンキーベイビーズ、でんぱ組.inc、そして震災……。
こうした具体的なワードは、ドラマの登場人物たちが、私たちと同じ時代を背負った“いまを生きる”人間なのだというリアリティと説得力を与えてくれました。

 男女の色恋を、事件中心ではなく会話中心に、時代や流行を織り交ぜて描く。
これって実は、80年代末~90年代初頭に大流行した「トレンディドラマ」にそっくりではないでしょうか?
というのも、本作は脚本家の坂元裕二氏によるオリジナルストーリー。何を隠そう、あの『東京ラブストーリー』を書いた人なのです(参考→第4回:『東京ラブストーリー』~恋もドラマも魔法が使えた時代~)。

 私が思うに『最高の離婚』は、『東京ラブストーリー』の明らかな現代版。
“トレンディドラマを現代に復権させるのは可能か?”という、坂元氏の大いなる挑戦だったと思うのです。

こんなにそっくり!『離婚』と『東ラブ』の共通点

『最高の離婚』(以下『離婚』)には、『東京ラブストーリー』(以下『東ラブ』)のキャラ設定や人物相関、物語構造を、おそらくわざと反復したり、逆転させたと思われる要素がたくさん出てきます。

 がさつな妻・結夏(尾野真千子)と神経質な夫・光生(瑛太)という『離婚』の夫婦は、奔放なリカ(鈴木保奈美)とそれに振り回されるカンチ(織田裕二)という『東ラブ』のふたりの関係にどこか似ています。
今あらためて『東ラブ』を見返すと、実はカンチって自分からはほとんどアクションを起こさず、ウジウジと優柔不断な草食系なのですが、そんな“巻き込まれ型”なところも光生にそっくりですよね。

 また、上原諒(綾野剛)と灯里(真木よう子)は、浮気性で女遊びが激しい三上(江口洋介)と、それに傷つきながらも耐え忍ぶさとみ(有森也実)の関係そのもの。
自分に未練があるとわかっていながら、ことあるごとにカンチを頼って助けを求めるさとみは、面倒くさい地雷臭のする女ですが、その片鱗はある意味『離婚』の灯里にも確実に受け継がれていました。

『東ラブ』と『離婚』、どちらも第5話で二組合同の温泉旅行に行くなど、プロット上の共通点も見受けられます。
『東ラブ』には、「ねえ、セックスしよ」という有名なリカのセリフがありますが、『離婚』にも、灯里が「いいじゃん、一回寝てみよう?」と光生に持ちかけるシーンがありました。
どちらも女性から主人公を誘うという意味では対応していますが、『離婚』では誘う立場が『東ラブ』と逆になっている(さとみポジションの灯里が誘う)のは興味深いところです。


 また、細かいネタですが、『東ラブ』には長崎尚子(千堂あきほ)に不満をぶつけられた三上が、「酔ってんのか?」とたしなめるシーンがあります。
一方『離婚』には、イラつく灯里に「酔ってる?」と聞いた光生に対して、結夏が「あー出た、女が本音しゃべると“酔ってる”呼ばわり」という、まるで12年の時を経たセルフツッコミのようなセリフが登場するのです。

 このように、『最高の離婚』が『東京ラブストーリー』を意識的になぞっているのは、ほぼ間違いなさそうです。

 しかし、そんな『東ラブ』と『離婚』にも、決定的に大きく違う点があります。
それは、物語の結末です(※以下、ネタバレ注意)。

ハッピーエンドに託したトレンディドラマの可能性

『東ラブ』の最終回は、カンチの故郷である愛媛県をリカが訪れ、彼の思い出の地をふたりで巡る話です。
最後の別れの舞台は、地元の駅。ところが、カンチが駅に駆けつけたとき、リカはすでに一本前の電車で発ったあとでした。
ホームには「バイバイ、カンチ」と書かれたハンカチだけが残され、ふたりはそのまま会うことはありませんでした。

 その後、カンチは結局、物語の恋敵役だったさとみと結婚します。
ハッピーエンドが定石だったトレンディドラマの中で、これはかなり異色の結末でした。
つまり、チャラチャラと浮ついたトレンディドラマ的な恋愛(それはバブル期のムードそのものの比喩でもあります)に、はっきりと“終わり”があることを描いたのです。

 それに対して『離婚』は、言うまでもなく“終わりのその後”を描いたドラマでした。
最終回、ふたりは両親に離婚の報告をするため、静岡県の富士宮にある結夏の実家を訪れます。
そう、なんとどちらの最終回も、相手の生まれ育った土地に行き、そのルーツに触れる話。
ふたりが別れる最後の場所が、地元の駅ということまで『東ラブ』と同じです。

 しかし決定的に違ったのは、電車が発車するまさにそのとき、それまで煮え切らず優柔不断だった光生が、乗っている電車の中へ結夏を引きこんだこと。
結局、同じ電車に乗って東京へ戻ったふたりは、夫婦として家族としてやり直すことを決めます。
つまり、“終わりのその後”に、“これから”という希望を用意したのです。


『東ラブ』の結末が、バブル期の浮かれたトレンディドラマに対するカウンターだったと考えると、坂元氏が『離婚』の結末をあえてハッピーエンドにした理由も、なんとなくわかる気がします。

 時代による価値観の変容や、あるいは深刻な天変地異を通して、私たちはあらゆる意味で理想の家族の形を失ってしまいました。
そんな2013年といういまこの時代だからこそ、光生と結夏が新しい家族を作り直すハッピーエンドは、絶対にそうしなければならなかった切実な結末に思えてくるのです。

 ダメな時代の象徴として、笑い飛ばされることの多いトレンディドラマ。
しかし『最高の離婚』は、『東京ラブストーリー』の設定や構造、手法をあえてなぞることで、“時代の気分を描く”というトレンディドラマの可能性を、見事に現代に復権してみせたのです。

Text/福田フクスケ

関連キーワード

ライタープロフィール

福田フクスケ
フリーライター。“くすぶり男子”の視点から恋愛やジェンダー、セックスなどを考察。

今月の特集

AMのこぼれ話