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  • 2012.11.21

第15回:『リッチマン、プアウーマン』が挑んだ月9と恋愛の再生

月9ドラマはオワコンになったのか?

By Tom's foto
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 みんな、どう? 最近、月9ドラマみたいな恋してる?(レスポンスを求めて耳に手を当てながら)

……ハイ、水を打ったようなノーリアクション、ありがとうございます。

 往年の恋愛ドラマをあえて見直し、勝手に深読みしていくこの連載も、うっかり2か月ぶりのご無沙汰となってしまいました。
そりゃあリアクションも返ってきませんよね!

 いいんです、わかってます、いつ更新されるのかわからない、気まぐれシェフの日替わりサラダみたいなことをしていた私が悪いんです(と、自虐キャラで「そんなことないよ!」と言ってほしいのが見え見えの人、いますよね)。

 でも、私の恋愛ドラマに対する“勝手に深読み”熱は、まだまだ冷めていませんよ!

 リアクションがなかったのは、「月9ドラマみたいな」という私の聞き方もよくなかったのかもしれません。
フジテレビの月9が恋愛ドラマの王道枠とされていたのは、はるか昔の話。
今では純粋な「恋愛ドラマ」自体が成立しにくくなっていることは、この連載でもくりかえし述べてきました。

 でも、本当に月9ドラマって、完全にオワコンになってしまったのでしょうか?

 今回はその答えを、今年7~9月に放送されたばかりの月9ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(略称『リチプア』)の中に求めてみたいと思います。

“月9っぽいベタ”を自覚的に作り込んでみせた心意気           

By Photos & Company
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 このドラマは、若くしてITベンチャー企業を立ち上げ、時代の寵児となった男・日向徹(小栗旬)と、東大理学部という学歴を持ちながら就活に全敗している要領の悪い女子大生・夏井真琴(石原さとみ)の出会いを描いています。

 第1話の冒頭は、マネーゲームに興じる日向たちの姿をスタイリッシュでハイテンポ(でも手法としてはベタベタ)なカット割で見せるシーンから始まります。
やがて彼の会社“NEXT INNOVATION”が、いかにイケてるしヤバい最先端企業かを紹介する、情報バラエティ風のポップな映像(でもハシャぎすぎでしゃらくさい)がインサート。

 IT業界にかつてのバブルを夢見るような“トレンディ”なノリに、最初の5分で見るのをやめてしまった人も多いのでは……。

 しかし、これはかつての“月9っぽさ”をあえてなぞった、自覚的なセルフパロディではないかと私は思いました。
というのも、この『リチプア』には、これまでの月9ドラマが描いてきたあらゆるベタが詰まっているからです。

 そもそも、天才型のIT社長である日向(=王子様)が、就活難民の女子大生である真琴(=庶民)の純朴な熱意に惹かれていく……というあらすじ自体、古典的なシンデレラストーリーそのもの。
一見、真琴より日向とお似合いのシェフ・朝比奈燿子(相武紗季)が恋のライバルとして登場し、結局は真琴の思いの強さに身を引く…という展開もセオリー通りです。

 きわめつけは、惹かれあいながらもすれ違いを繰り返すふたりに、「真琴が仕事でブラジルに赴任」という事態が到来、出発寸前の空港に日向が迎えにくるという王道すぎる最終回!
もしこの世に“月9の教科書”というものがあったら、最終回の「よくある例」に載るやつです。試験にも必ず出ます。

 こうした“月9っぽいベタ”のひとつひとつは、とっくに賞味期限が切れています。
しかし、制作サイドが「わざとやってるんだよ」と最初に意思表示をしておくことで、このドラマは「あえてベタを楽しむ」という一周先の見方を、視聴者と共有することに成功したと思います。

 しかも、それをネタとして笑う方向に持って行くのではなく、あくまで「正統派の月9ドラマ」として本気で作ってみせたのが『リチプア』の矜持。
“月9っぽさ”から逃げるのではなく、“あえて月9っぽくふるまう”ことで、「作り込まれたファンタジーってやっぱりおもしろいよね」という月9ドラマの可能性をきちんと示して見せたのです。

仕事も恋愛も、アイデンティティを補完するための営み

 これ、「月9」を「恋愛」に置き換えてみるとどうでしょうか。
“恋愛”そのものの絶対的なときめきは失われたけれど、“あえて恋愛っぽくふるまう”ことで、自覚的にときめくことはできる。
そして、そんな“恋愛らしきもの”を楽しんでみるのもおもしろいよね、ということです。
つまり、第11回で取り上げた『最後から二番目の恋』のテーマに通じるものを感じませんか?

 そしてもうひとつ『リチプア』で重要なのは、この作品が“仕事”と“恋愛”をほとんど同義のものとしてとらえ、日向をめぐる真琴と朝比奈徹(井浦新)の三角関係として描かれているということ。
表向きは燿子が恋のライバルですが、それはしょせん当て馬のようなものです。

 日向はプログラマーとしては天才的ですが、幼い頃に母親に捨てられたことで人を信じることができず、社交性も持てないでいる、いわばマザコン男。
そんな日向に対して、ビジネスパートナーとして母親代わりを務めてきたのが朝比奈で、恋愛のパートナーとして母親代わりを務めたいのが真琴というわけです。

 ふたりは、日向の欠落したアイデンティティを補完してあげる立場ですが、同時に自分にはない才能を持つ日向のカリスマ性に、めちゃくちゃ依存してもいます。
朝比奈は、真琴と出会って変わっていく日向を見て嫉妬し、物語の中盤でクーデターを起こして日向を会社から追い出してしまいます。
一方の真琴も、自分が補ってあげていた社交性を日向が身に付けて自立してしまうと、自分の存在価値を見失って引け目を感じ、恋の相手からも身を引こうとしてしまいます。

 そろいもそろって、めんどくさい奴らばっかりですね。
しかし、「補い合うはずの穴が埋まってしまうと、カップルはうまくいかない」というのは、第14回の『不機嫌なジーン』でも取り上げたテーマ。
私たちは、自分のアイデンティティを補完するために、いわば都合よく“依存できる相手”を恋愛に求めているのです。

 そして、現代においてその相手は、必ずしも“恋愛”の相手である必要すらありません。
私たちは、恋をするように仕事することもできるし、仕事するように恋をすることもできる。
まさに“恋愛らしきもの”に突き動かされて、私たちは生きています。


 自我と仕事と恋愛の三角関係を描いた『リチプア』は、私たちがアイデンティティを満たすために生きていること、そして仕事も恋愛も、そのために人生を楽しむレイヤーのひとつにすぎないのだという本質を教えてくれているのです。

Text/Fukusuke Fukuda

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ライタープロフィール

福田フクスケ
フリーライター。“くすぶり男子”の視点から恋愛やジェンダー、セックスなどを考察。

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