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  • 2012.07.04

第4回:『東京ラブストーリー』~恋もドラマも魔法が使えた時代~

 みんな、どう? 最近、「セックスしよ!」って言ってる?
 こんにちは、モテ系リア充ライターの福田フクスケです!
最近、かつて付き合っていたコたちから「私との写真、消してあるよね? ゼッタイ週刊誌にバラしたりしないでよ?」と立て続けにメールがきて困っちゃってます。
さて、私が本当に「モテ系リア充ライター」かどうかは、私の携帯に最近スパムメールしかきていないという厳然たる事実から賢明に判断してくださいね(固く握りしめた拳の中に血を滲ませながら)!

 それはさておき、テレビドラマ冬の時代といわれる昨今、今週も往年の恋愛ドラマをあえて見直し、勝手に深読みしていきましょう!
 
今回も冒頭でいきなりな質問をしてしまいましたが、今週のテーマは「カンチ、セックスしよ!」という衝撃的なセリフで有名な、恋愛ドラマの古典ともいえる『東京ラブストーリー』です。

今見るとツッコミどころ満載のトレンディドラマ

tokyo-tower By kobakou
©tokyo-tower By kobakou

 都内のスポーツ用品メーカーに勤める帰国子女の赤名リカ(鈴木保奈美)は、天真爛漫な直球天然少女。
愛媛県から上京し入社してきた永尾完治(織田裕二)を、初対面で「カンチ!」と勝手なあだ名で呼んじゃうような、ちょっとイタい子です。
彼女は、素朴で真面目なカンチに心惹かれますが、カンチにとってのマドンナは高校時代の同級生・関口さとみ(有森也実)。
しかし、その関口は医大生の三上(江口洋介)と付き合いだして……。

 そんな恋のもつれを、オシャレな都会生活とともに描き出したこのドラマ。
80年代後半~90年代前半に一世を風靡した「トレンディドラマ」の王者の名にふさわしく、バブル景気のうわついた空気感に満ちた本作は、今見ると半笑いでツッコミを入れたくなるポイントがいっぱいです。

 肩パッドがうず高くそびえるスーツや、セーターをパンツにインしてベルトを締めあげる斬新なファッションは、まあ時代だから仕方ないでしょう。 でも、弱冠24歳のOLであるリカが、イケイケ(死語)の高級マンションに住んでいたり、毎日違うブランドに身を包んでいるナウい(死語)ファッションは、バブル当時とはいえありえない生活。
登場人物は、しょっちゅう恋愛のことばかり考えていて、職場でもプライベートな電話を取り次ぎまくり。「みんな、もっとちゃんと仕事しようよ!」と心配になります。

 なにより、トレンディドラマの醍醐味は、そのクサすぎるセリフの数々。

「24時間好きって言ってて。仕事してても、友達と遊んでても、カンチの心全部で好きって言ってて」
「ちゃんと捕まえてて。私だけを見てて。でなきゃ…よそに行っちゃうよ」
「誰もいないから寂しいんじゃないよ。誰かがいないから寂しいんだよ」
「トホホだよ、カンチがいなくちゃ…」


 メロメロにメロウで乙女すぎるセリフは、いろんな意味で鳥肌モノ。
聞いてるこっちがトホホだよ!

 でも、当時の女性視聴者は、そんなリカに「クサいわあ」とシラけるどころか、「イタいわあ」とドン引きするどころか、うっとりと憧れていました。 それどころか、最終回前のテレビ局には、「ハッピーエンドにしてあげて!」という嘆願が殺到。
恋敵だったさとみ役の有森也実さんの所属事務所には、「リカの恋路を邪魔するな!」という脅迫状まで届いたと言いますから、ぶっとびー!(死語)です。

 では、当時の女性たちはドラマと現実の区別もつかない、ゲーム脳のゆとり世代も顔負けのバーチャルクソ野郎だったのでしょうか?

恋愛という「魔法」を心から信じることができたバブル期

Couple By mrhayata
©Couple By mrhayata

 『東京ラブストーリー』の劇中に、カンチとリカのこんなやりとりがあります。

リカ「ヒマラヤのてっぺんから電話したら、迎えに来てくれる?」
カンチ「迎えに行く!」
リカ「あったかいおでん持ってきてくれる?」
カンチ「屋台ごと持ってく!」
リカ「ビートルズのコンサートうちで開きたいって言ったら?」
カンチ「連れてくる!」
リカ「ジョンはどうするの?」
カンチ「俺が代わりに歌う!」
リカ「魔法を使って、この空に虹かけてって言ったら?」
カンチ「それはできないかもしんないけど……でも、魔法だったら使える!」


 トレンディドラマを象徴するような歯の浮くかけ合いですが、ポイントは「虹はかけられないけど、魔法は使える」というカンチのセリフです。
「魔法」とは、現実には存在しないけれど、それを信じる人や世界観の中では、たしかに効力を発揮するもの。
これって、「恋愛」の比喩そのものだと思いませんか?

 大事なのは、本当に「虹をかけられる」かどうかではなくて、「魔法は使える!」と言ってくれる人がいることです。

 トレンディドラマが流行した80年代後半~90年代前半は、日本人全体がバブルに浮かれ、享楽的なムードに支配されていた時代。
一方で、すべてのものが消費の対象となってしまうことで、人々は確固たるもの、絶対的なものを失うむなしさも感じていました。
中には、オウム真理教のような宗教(≒魔法)にそれを求めてしまう人も…。
そんな中で、若い女性たちは「恋愛」こそが、自分に確固たるもの、絶対的なものを与えてくれる「魔法」だと信じたのではないでしょうか。

 彼女たちだって、トレンディドラマのようにうわついたセリフが飛び交う、非現実的な生活を、本気で実践できるとは思っていなかったかもしれません。 でも、男に媚びずに好きなときは「好き!」とハッキリ言う赤名リカのような生き方は、少なくとも信じる価値のある「魔法」だった。
だから、トレンディドラマはあれだけ多くの女性に、絶大な支持をもって受け入れられたのでしょう。

魔法にかかりにくい現代、それでもドラマにできることは?

The Magic Touch By David Blackwell
©The Magic Touch By David Blackwell

 そう考えると、私たちはいつの間にかテレビドラマというものに、すっかり「魔法」を感じなくなってしまいました。
ドラマの感想といえば、「あんなとこに虹かけようとしてるよ(笑)」「そんなふうに虹かかるわけないじゃん!」といったツッコミばかり。
これでは、魔法の効力がいちばん必要とされる「恋愛ドラマ」を、純粋に楽しめるはずがありません。

 その根底には、わざとらしいフィクション(≒魔法)に対する不信感・拒絶感があるのかもしれません。
かろうじて視聴率をとれるジャンルも、刑事ドラマや医療ドラマなど、“できごと”の連続で成立する、“リアリティ”重視のものに限られています。
でも、こんな時代だからこそ、「魔法」を「魔法」と割り切ったうえで楽しむ見方があってもいいんじゃないでしょうか?


 先に挙げたカンチとリカのやりとりは、他愛のないムダ話です。
ヒマラヤに行ったら…とか、ビートルズが聞きたい…とか、話している内容そのものはどうでもいい。
でも、そんなくだらないやりとりをいつまでも続けていたいという、2人の“気持ちの動き”を想像することに、このドラマの本当の味わいがあるわけです。
 『東京ラブストーリー』の脚本家・坂元裕二さんが書いた2011年のドラマ『それでも、生きていく』は、テレビドラマの「魔法」を視聴者にもう一度信じてほしいという思いが伝わる傑作ドラマでした。
恋愛ドラマではありませんし、「少年犯罪の加害者家族と被害者家族の交流」というシリアスなテーマを描いたストーリーは、設定も非現実的でかんたんには感情移入できません。

 でも、そこには“何が起きているか”というできごとの羅列ではなく、“そのとき、どう気持ちが動いているか”という想像力をかき立ててくれる、素敵な会話がたくさん出てきます。
加害者家族の娘と、被害者家族の息子が、少しずつ心を通わせていく(あるいは通わせない)過程は、「トレンディドラマ」や「ラブストーリー」が成立しなくなった今、新たなフィクションの魔法を提供してくれる、極上の「恋愛ドラマ」にもなっていると思います。
機会があれば、ぜひ見てみてくださいね。

Text/Fukusuke Fukuda

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ライタープロフィール

福田フクスケ
フリーライター。“くすぶり男子”の視点から恋愛やジェンダー、セックスなどを考察。

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