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  • 2013.12.07

【醜くさも美しさも操る女】あらゆる女の姿に全身全霊をかけるシャーリーズ・セロン主演の傑作映画まとめ

 数年前にテレビで観た、米アカデミー賞の中継が忘れられない。
会場のモニターには、怪物のような太った女。そして、その後に映る美しい女優。体型も顔もまるで違う二人が、同一人物であることを知った衝撃といったら……。
モデル出身の抜群なスタイルを自ら打ち壊す。13kg太り、そしてまた痩せて元通りになった。すべては役のため、映画のため…。

 プレゼンターが壇上でアカデミー主演女優賞の受賞者の名を告げる。
「And, the Oscar goes to……」
その答えは分かりきっていた。
「シャーリーズ・セロン!!」

 映画では連続殺人鬼を演じた彼女は、拍手喝采の会場では光り輝いていた。
醜い女、美しい女。それはどちらも、彼女です。
ハリウッド、そして世界中どこを探しても見当たらない。“女”を賭けて挑む女優。彼女の生き様すら垣間見える、傑作映画三本を紹介します。


全米初のセクハラ訴訟で勝訴するシングルマザーの痛快!勧善懲悪の法廷映
『スタンドアップ』

 一本目は、男ばかりの鉱山で働くシングルマザーを描いた女性監督ニキ・カーロによる『スタンドアップ』。醜悪なセクハラを受けながらも、勇敢に立ち向かっていく主人公をセロンが演じます。

スタンドアップ モンスター ヤング≒アダルト シャーリーズ・セロン 女優 アカデミー賞 セクハラ 社会派 たけうちんぐ 映画
©2005 Warner Bros. Entertainment Inc.

【簡単なあらすじ】
幼い子ども二人を持つジョージー(シャーリーズ・セロン)は夫の暴力から逃れ、生まれ故郷のミネソタの町にやって来る。10代でシングルマザーとなって出戻ってきた彼女に、周囲の目線は冷たい。それでもジョージーは自分の力で子どもたちを養うため、鉱山で働くことを決意する。

 しかし、そこで働く男たちは女が鉱山で働くことが面白くない。彼らは卑猥な悪戯と暴言を繰り返し、ジョージーはそれに反発する。さらに子どもたちまで虐められ、同僚の女性たちは状況が悪化することを恐れて泣き寝入りしてしまう。
耐えられなくなったジョージーは一人勇気を振り絞り、セクシャルハラスメント訴訟を起こす――。


セクハラ男どもの下衆い笑顔を法廷でぶち壊す!

スタンドアップ モンスター ヤング≒アダルト シャーリーズ・セロン 女優 アカデミー賞 セクハラ 社会派 たけうちんぐ 映画
©2005 Warner Bros. Entertainment Inc.

 女性からしてみると怒りが込み上げる描写ばかりです。
男どものセクハラが本当にひどい。特にジョージーが高校生の頃に交際していた元カレは下劣。ジョージーを無理矢理押し倒して襲ったのに「向こうから誘った」だなんて。腹が立ってくる。

 簡易トイレに入った同僚に外から揺らされ、挙げ句の果てに、トイレをひっくり返されるシーンは見てられない。
下ネタいじり。陰湿なイジメ。下衆すぎるセクハラ描写のオンパレードで、すべての女性が自身の体験と照らし合わせて舌打ちできる映画です

 そして、当然それでは終わらない。怒りのゲージが満タンになった時、ついにジョージーが立ち上がるのです。今すぐに仕事を辞めたい。だけど子どもを養わなければならない。傷付けられたものがあまりにも大きい。葛藤と苦悩を背負いながら、法廷に立つ姿のかっこ良さといったら。

 群れのルールに従う田舎特有の環境すらぶち壊してくれる。その勧善懲悪っぷりは観ていて実に爽快です。
セクハラに関与する男どもには全員正座して観てほしい。み○もんた必見の映画です!


たった一つの勇気が世界を変える?

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©2005 Warner Bros. Entertainment Inc.

 様々な角度から見た“女”の顔がある。仕事に生きる女。子どもを持つ女。そして、誇りを持って生きる女。それらをすべて体現するのがシャーリーズ・セロンの仕事です。
あらゆる側面の女を描いてジョージーを立体的にする。実話を基にした映画だからこそ、演じることへのプレッシャーはあったでしょう。
社会派映画の顔をしているけど、結果として残るのはジョージーの笑顔であり、セロンの魅力なのです。

 物語が進むにつれてジョージーの過去が明るみになっていく。
なぜ、彼女は10代で子どもを産むことになったのか。なぜ、彼女の元カレが執拗に虐めてくるのか。すべてが明るみに出た時、『スタンドアップ』という邦題の意味を初めて理解できる。

 この裁判は瞬く間に全米に広がり、女性への差別に問題提起をし、女性の権利を一気に拡大させた。それをどこにでもある田舎町で、どこにでもいる一人の母親が起こした。
子ども、生活、そして女としてのプライド。これらの守るべきものさえあれば、たった一人でも戦うことができる。セロンが演じるジョージーは女の勇気そのものです。


スタンドアップ モンスター ヤング≒アダルト シャーリーズ・セロン 女優 アカデミー賞 セクハラ 社会派 たけうちんぐ 映画

『スタンドアップ(特別版)』DVD
価格:1,500円(税込)
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

連続殺人犯の女の目にも涙は流れる
『モンスター』


 次に紹介するのは、女性監督パティ・ジェンキンスが手がけた『モンスター』。セロンが演じるのはなんと全米初の女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノス。本作でアカデミー主演女優賞を受賞しました。

【簡単なあらすじ】
1986年、フロリダ。娼婦としてギリギリの生活を続けているアイリーン・ウォーノス(シャーリーズ・セロン)は、自殺を決意し入り込んだ酒場で若い女性セルビー(クリスティーナ・リッチ)と出会う。激しく惹かれ合う二人は共に暮らす夢を抱き、その金を稼ぐためにアイリーンは街娼を再開する。しかし客の男からレイプをされかけ、その男をピストルで殺してしまう。
歯止めが利かなくなったアイリーンは、セルビーとの生活のために次々と客の男を殺していく。警察は二人を指名手配し、アイリーンはセルビーを逃がすため故郷行きのバスに乗せて、逮捕される――。


13g太って役に挑むシャーリーズ・セロンの想いとは

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by afroboof

『スタンドアップ』を観てから本作を観たら、この違いに唖然とする。
前作が白なら、こっちは黒。とにかく真逆なのです。それは役柄だけじゃない。アイリーンは容姿自体が真っ黒に思えるほど醜く、体型がその辺のスーパーでトイレットペーパーを大量に買い込んでいるオバチャンにしか見えない。

 モデル出身の女優が役のために13kg太るって。これは“役者魂”って言葉では簡単に片付けられない。かつてロバート・デ・ニーロが『レイジング・ブル』で体重を大幅に増減させて役に挑んだという話は有名だが、こちらは女。しかもモデル出身。
何が彼女にそこまでさせるのか? それは、何がアイリーンに人を殺させるのか? という疑問に近いのかもしれません。

   セロンがそこまでして演じた人物像から一瞬たりとも目が離せないし、彼女の行く末が気になってしまう。それは、おそらくそこにセロンの生い立ちから現在までの想いが見え隠れするからです。


誰もが殺人鬼・アイリーンになり得る?

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by afroboof

 アイリーンは“連続殺人鬼”。罪のない人々の平和を脅かす、憎むべき人物です。 彼女は、描き方によってはハンニバル・レクター博士、もしくはジェイソン、はたまたエイリアンレベルの恐ろしいモンスターになる。でも、この映画はそうしない。シャーリーズ・セロンがそうはさせないのです。

 “連続殺人鬼”――ニュース番組で伝えられる肩書きだけでは見えないものがある。アイリーンの涙と、葛藤と、局地的に見せた愛の物語をニュースは語らず、その真実を人々は知るよしもない。だけど、映画では語ることができるし、人々に伝えられる。

 セロン自身も壮絶な過去を持っている。10代の頃、母親が父親を射殺した。それは酒に酔って暴力を奮う父に耐えかね、正当防衛のために起きた出来事です。
殺人なんて無縁の行為だと思うでしょう。だけど、環境と状況によっては誰にでもその可能性はある。アイリーンも父親の暴力を受け続けていた。アイリーンのようにレイプ犯が目の前にいて、そこにピストルがあったら? 

 本作で描かれるのは“とてつもなく長い正当防衛”なのかもしれません。幼少期から大人まで、アイリーンは常に正当防衛の名のもとに殺人を続ける。彼女が正しいのか、世の中が間違っているのか。“完全悪”と見なすのは想像力があまりにも乏しい。
彼女の目から零れる涙をセロンは身体ごと表現し、やむを得ず“悪”の道に逸れてしまった女の人生を切なく描いているのです。


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『モンスター』DVD
価格:3,990円

イタすぎるアラフォー女の帰省はカン違い連続
『ヤング≒アダルト』


 最後に紹介するのはテーマが重い前二作とは打って変わり、アラフォー女の珍道中を描いた『ヤング≒アダルト』。いつまで経っても成長できない女の話です。
しかし、テーマが軽いからといって気楽に観られるとは限らない……。

スタンドアップ モンスター ヤング≒アダルト シャーリーズ・セロン 女優 アカデミー賞 セクハラ 社会派 たけうちんぐ 映画
© 2011 Paramount Pictures Corporation and Mercury Productions, LLC. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright ©2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

【簡単なあらすじ】
37歳のメイビス(シャーリーズ・セロン)はバツイチで、彼氏ナシ。自称・作家。本当はゴーストライター。唯一の楽しみはアルコールと愛犬。そんな彼女にある日、高校時代に付き合っていた元恋人の妻からメールが届く。
パーティーに招待されたメイビスは故郷・ミネソタに戻る。なぜかそこで元恋人とヨリを戻そうと企み、あの手この手でオトそうとする。
かつて故郷の学園のマドンナだったメイビスだが、すでに20年近くの月日が流れているのに気付いていない。唯一心を開けるのは、かつて学校でゲイと噂されていたオタクのみ。
故郷を「魚臭い町」と罵り、「自分は特別」だと思い込んでいるメイビスに幸せは訪れるのか――?


この女、何考えてんねん……。

スタンドアップ モンスター ヤング≒アダルト シャーリーズ・セロン 女優 アカデミー賞 セクハラ 社会派 たけうちんぐ 映画
© 2011 Paramount Pictures Corporation and Mercury Productions, LLC. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright © 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 とてもじゃないけど、メイビスについていけません。
元恋人をオトすためにカン違い行為を連発する。胸元パックリ開いたドレス。悪女を匂わすセクシーなメイク。ネイルサロン通いに余念がない。

 でも、そこは田舎町のレストラン。言うなれば、地元の白木屋に六本木のクラブに行く格好で登場する場違い感。ある意味新しいタイプの居酒屋です。しかも、妻子ある元恋人を狙うなんて……。
いまだ自分はヒロインで、みんなの天使で、イケてるとカン違いしている。

 シャーリーズ・セロンは誰がどう見ても美人だから、この映画は厄介。たしかにメイビスはキレイだから、一見ちょっとクールな女性のお話なのかなって思ってしまう。だけど、次第にどんどんメッキが剥がれてボロが出てくる。何かおかしいぞ? 
……あっ、こいつイタイ! 

 このスリルは、あまり他の映画では味わえません。
映画の冒頭、車の中でティーンエイジ・ファンクラブの曲を再生するのはなぜかテープ。MDでもCDでもiPodでもない。いつの時代のオープニングなんだよ! と、次第にメイビスの“ズレ”を感じていくのです。 


イタイって、自分では分かりづらい?

 自分自身をカン違いって自覚するタイミングって?
メイビスは本編の約8割が終わった段階で、ようやく真実を目の当たりにする。だけど、現実ではどうでしょう。一体何人のイタイ女が、いつ自分がイタイことに気付くのでしょうか?

 メイビスはただの分かりやすいイタイ女ではない。実はその分かりやすいイタイ女って意外と少なくて、むしろ分かりづらいイタイ女のほうが多いのかもしれません。外見はそこそこオシャレだから誤魔化せる。だけど、目に見えない内面がそれに伴っていないからこそ“ズレ”を感じる。

 セロンが演じるのはいつまでも過去の栄光にしがみ付き、変化する勇気がない女。『スタンドアップ』とは真逆のキャラクターです。
ずっと時間が止まっている。学生時代に激しいイジメを受けて身体に障害を持ち、やむを得ず時間を止めることになったオタク。そんな彼とかつて学園のマドンナだったメイビスが心を通わせることになる。二人だけは永遠に10代。こういった皮肉な描写が本作の毒であり、笑えるけど笑えないのです。

 セロンは本作ではある意味、美しさの無駄遣い。でも、その無駄な部分が、観る者すべてに訴えかけてくる。この美しさは腐ることなく、無駄にしてはいけないと思えるからです。

スタンドアップ モンスター ヤング≒アダルト シャーリーズ・セロン 女優 アカデミー賞 セクハラ 社会派 たけうちんぐ 映画

『ヤング≒アダルト』DVD
価格:1,500円(税込)
発売元:パラマウント ジャパン


 以上、女優縛りの三本でした。
 ここまで幅広い顔を持つ女優は少ないと思います。シャーリーズ・セロンは元々CGのように美しいですが、もはやまるでCGのように変幻自在にその顔を操ります。
レンタルビデオ屋は女優ごとにコーナーが区切られていないところもある。この三本は「ドラマ」、「サスペンス」、「ドラマ」と大雑把にジャンル分けされていて、見つかりづらい。女優ごとに作品を見比べてみても面白いです。
勝手に「シャーリーズ・セロン」ってコーナーを作りたくなります。

 ちょっと魔がさしたらすぐに甘いものに手を伸ばしてしまうすべての女性に、この女優を知ってもらいたいです。
13kg太る勇気と13kg痩せる努力は、女優じゃなくても尊敬しちゃうものかと……。


Text/たけうちんぐ

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