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  • 2013.11.27

スタジオジブリ最新作!美しき姫が犯した残酷な「罪と罰」の正体を考える『かぐや姫の物語』

 たとえば、5人の男たちから一斉にプロポーズされたとする。全員が金持ちで、社会的身分は高く、今後の人生に安心が約束されている。
こんなの、誰もが飛びつく案件です。手で掴んだ瞬間に覚めてしまう夢のような話で、誰もが憧れる“お姫様”の立場。まさに“幸せ”を絵に描いたような世界です。

 それなのに、これらのプロポーズを全て断った姫がいた。彼女の名はかぐや姫。
なぜ、彼女は“幸せ”の常識を覆す判断をしたのか? その理由と、彼女の背負った罪と、科せられた罰とは何か? アニメーションの新境地を開拓するこの絵巻物に、その答えは載っています。

たけうちんぐ たけうちんぐ 高畑勲 朝倉あき 高良健吾 地井武男 宮本信子 高畑淳子 東宝 かぐや姫の物語 罪 罰 結婚 女 幸せ 人間らしさ ジブリ 翁 媼 姫
©2013 畑事務所・GNDHDDTK

『火垂るの墓』から『となりの山田くん』まで幅広い作風で知られる高畑勲監督。彼が新たに挑むのは、日本最古の物語『竹取物語』の映画化です。主人公・かぐや姫がなぜ月から地球に降り立つことになったのか、そこで何があったか、どのように葛藤をしていたかを描きます。

 声の出演は、かぐや姫役に新進女優の朝倉あき。彼女の育ての親となる翁役を昨年他界した地井武男、その妻・媼役をNHK朝ドラ『あまちゃん』が記憶に新しい宮本信子が演じます。他にも高良健吾、田畑智子、高畑淳子といった個性的でバラエティに富んだ出演陣が、独特で愛らしいキャラクターに命を吹き込みます。


美しさに裏打ちされた残酷な現実とは?

 【簡単なあらすじ】
 その昔、貧しい村の竹取・翁(声:地井武男)は竹やぶで光る竹を見つける。そこからわずか三寸ほどの女の子(朝倉あき)が生まれ、家内の媼(宮本信子)に手渡すとその女の子は見る見る大きくなり、人間の赤ん坊の大きさに。

「これは天からの恵み。しっかりと育てよう」

 二人は女の子を娘のように育て、彼女は捨丸(高良健吾)らの仲間とともに鳥を捕まえ、草をむしり、貧しい暮らしながら楽しい日々を送っていた。
そんなある日、翁が竹やぶから大量の金を見つけ、その金で都に行くことを決意する。女の子を姫にし、豊かな暮らしを与えようとする。女の子は“かぐや姫”と名付けられ、高貴で美しい姫として名を馳せる。その噂を聞きつけた男たちが一斉にかぐや姫に求婚するが、彼女は無理難題を突きつけて追い返す。それでも懲りず、姫にアプローチをかける5人。

「どうして、私はここまで不自由で、人を不幸せにしまうのか……」

 かぐや姫は自らの身分を呪い、激しく苦悩する。そして、衝撃的な事実を翁と媼に打ち明ける。

「私は、月から来たのです」

 彼女は自分が罰として地球に降り立たされ、罪を償っていることを告げるのだった――。

常識とは何か? かぐや姫は“幸せ”の価値を追い求める

たけうちんぐ 高畑勲 朝倉あき 高良健吾 地井武男 宮本信子 高畑淳子 東宝 かぐや姫の物語 罪 罰 結婚 女 幸せ 人間らしさ ジブリ 翁 媼 姫
©2013 畑事務所・GNDHDDTK

 一枚一枚が絵画のように繊細で美しく、静と動が混在する表現の数々にただただ唖然とする。今までに観たことのないアニメーションです。

 それは従来のジブリのスタジオでは実現できない技術を要し、新たなスタジオを開設してまで臨んだ革新的な手法。それでいて草木、動物、季節の描写が丁寧で、日本の風土に沿ったかぐや姫の心の変化を感じさせてくれます。そして“幸せ”とは何か。かぐや姫の選択が現代に生きる人の胸を打つのです。

 普通、5人の高貴な殿方にプロポーズされたら心が動くでしょう。これが“常識”の考え方。
だけど、かぐや姫の心の中にはいつだって貧しい村での暮らしがあり、捨丸ら仲間と遊んだ草木が生い茂る愛おしい場所がある。都に出てからも、庭であの頃の住処を再現し、記憶に思いを馳せる彼女の姿には切なくなります。

 翁は父親的存在であると同時に、とても俗っぽい考えを持つキャラクター。かぐや姫のツッコミ役みたいな立場で、最も現代人の感性に近いと言えます。そんな翁はかぐや姫に幸せになってほしいために、世間一般では“常識”とされる「結婚」を促す。だけど、その“常識”がかぐや姫の心を蝕みます。それは彼女が望む幸せではないから。求婚を断り続ける彼女は自責を繰り返してしまう。

「なぜ、私はその常識の中で人の心を踏みにじり、不自由な生活を強いられるのか?」

 それが月から下された“罰”であるならば、私たち地球人はすでに牢獄で生きているのかもしれません。
“常識”に囚われている限りは。


“人間らしさ”と“女らしさ”の檻の中で

たけうちんぐ 高畑勲 朝倉あき 高良健吾 地井武男 宮本信子 高畑淳子 東宝 かぐや姫の物語 罪 罰 結婚 女 幸せ 人間らしさ ジブリ 翁 媼 姫
©2013 畑事務所・GNDHDDTK

 かぐや姫は“女らしさ”の檻の中でもがき、罰を下されたように苦しむ。

「女はおしとやかにするべき」「女はこういう人と結婚するべき」「女は……」

 溢れる「べき」の数々。かぐや姫の決断は、世に蔓延るハウ・トゥへのアンチテーゼにも受け取れてしまう。 彼女は姫としての“しきたり”(お歯黒と高貴な衣)を嫌い、自由で人間らしい生き方を望んでいる。

 果たして、現代に生きる私たちは本当に“人間らしい”生活をしているのでしょうか?
毎日スマホでTwitterのタイムラインをチェックし、Facebookでいいね!をつけなきゃならない強迫観念にかられる。率直に思ったことを口にすると電子上の友達が減ってしまい、嫌われることを恐れて動き出せない。電子の光に包まれて、太陽の光を浴びていない。これが人間の暮らしと言えるのでしょうか。

 かぐや姫の気持ちは“花鳥風月”という言葉に寄り添っている。それは、“花”を愛し、桜舞い散る木の下で子どものようにはしゃぐ。“鳥”に恋し、自由に飛び回りたいと願う。“風景”に思いを馳せ、故郷の村を懐かしむ。そして“月”に憧れ、まだ見ぬ未来を恐れつつも、そこに向かう。
古き日本人の趣きを捉えた四字熟語に、かぐや姫の言う“人間らしさ”が詰まっているのかもしれません。

高畑監督が提示した“罪と罰”

 クライマックスは軽快な音楽とともに、かぐや姫だけでなく観る者の感情までさらっていく。それは涙で還元されなくても、溜息と手の震えとなって表面化される。
月の裏側を見たような、見たことのない世界。そして知られざる感情。その出会いに、胸の鼓動が応えるのです。

 ジブリはアニメーションの新境地を探る。『風立ちぬ』が空に憧れるならば、『かぐや姫の物語』はさらにその上、月に恋焦がれる。物語というものの限界を貫く挑戦は、日本最古の物語で行なう。その最前線にかぐや姫が立っているのです。

 高畑監督が提示した“罪と罰”。地球に降ろされたことが“罰”なのでしょうか?
かぐや姫が地球で知ったのは、その片隅にひっそりと光るもの。それは、捨丸らとの日々と、森の中を走った記憶と、皆で鍋をつつこうとした平凡な生活。とてつもなく愛おしい。
まるでそれが“罪”なほど美しい高貴な姫にとって、その日々は“罰”には程遠い唯一無二の幸せなのです。

 常識は時に人をがんじがらめにする。幸せはどこにあるのか、それを探すだけの自由は欲しいものです。この世に生を授かった限りは、花のように美しく、鳥のように自由で、風景に馴染み、月を眺めていたいもの。
人間らしさを今一度追い求め、他人が求める“女らしさ”を改めて考えてみましょう。そうするといつかはかぐや姫のように、何枚にも重ねられた衣を脱ぐことができるはずです。
そして、真っ黒な歯ではなく、真っ白な歯で笑えるように。


 

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たけうちんぐ
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