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  • 2013.08.27

アンジー初監督作品!レイプや暴力…女性への支配にノーを主張『最愛の大地』

 普通に生きていて、愛する人との関係を引き裂かれることなんて滅多にない。
恋敵がいたとしても、別に命の危険に晒されることはない。ロミオとジュリエットみたいなこともない。親に反対されても、死に至る事態ではない。
でも、この映画に出てくる男女は常に死と隣り合わせ。ある日突然、敵同士になる。性暴力と支配に脅えながら愛し合うなんて、現実にあり得るのでしょうか?
でも、このような悲劇がたった約20年前に実際にあったのです。

 
トゥ・ザ・ワンダー テレンス・マリック ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム ロングライド
©2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

 ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争で敵同士になってしまった男女を描くのは、今回が長編映画初監督となる女優のアンジェリーナ・ジョリー。 売れっ子でナイスバディ、しかもブラッド・ピットの妻。誰もが羨むようなセレブの彼女ですが、過去に壮絶な日々を送ってきたことは意外と知られていません。
両親の離婚、鬱、自殺未遂、二度の離婚、そして人道支援活動。そういった経験がすべて映画に反映され、女としての尊厳と強さを訴えかけてきます。
紛争を真正面から描くことで、この映画は彼女が命を懸けて取り組んでいる活動の延長線上にあることが伺えます。


ストーリー

 1992年、ボスニア・ヘルツェゴビナ。画家のアイラ(ザーナ・マリアノビッチ)は警官のダニエル(ゴラン・コスティック)と交際を始めた。愛し合い、抱き合う二人。だが、ライブバーでダンスを楽しんでいると突然爆発が起きる。二人は奇跡的に助かるが、店ごと吹き飛び、大勢の人の命が奪われてしまう。
4ヵ月後、ムスリム人の女たちはひたすらレイプをされ続け、支配に脅えていた。アイラも敵対するセルビア人の兵士に捕まえられる。そこで助けてくれたのは、セルビア系ボスニア軍の将校になったダニエルだった。ダニエルから肖像画を描く任務を与えられたアイラは一時的に解放され、再び彼との愛の日々を取り戻す。しかし、紛争が激化する中、異なる民族の二人には過酷な運命が待ち構えていた――。

世界は結局、男と女でできている

トゥ・ザ・ワンダー テレンス・マリック ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム ロングライド
©2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

 ふたりが愛しあう日常は突然店ごと爆発し、それから数ヶ月で敵対する関係に…。
普段、恋愛でこんな経験はありえない。いや、敵対することはあるかもしれないけど、まさか殺し合う関係になるなんて。ありえないことを平気で実現させるのが、民族間の紛争。それを痛感させる、目を背けたくなるような残酷な描写が容赦なく現れる。
愛しているはずのダニエルを、アイラが激しく拒絶するセリフがある。

「君は僕の所有物だと言ってあるから、大丈夫だ」

 こんなの、百年の恋も醒めてしまうでしょう。男の所有欲と独占欲、身に覚えのある人が多いはず。そこに民族間の争いが挟まれると、男のエゴはより一層明確に描かれる。
国家権力の支配から解放してくれるはずの彼氏が支配をしてくる。この絶望は計り知れない。紛争を描きながら、そこにありふれた男女の姿を描いているから感情移入できる。アイラは女の象徴として描かれ、そして彼女が“女の武器”を用いて自ら動き出すと、他の映画とは一味も二味も違う壮絶な展開が始まってしまう。

 すべては結局、男と女でできている。その真実は、ダニエルの欲求とアイラの願望との食い違いから受け取れる。
男女の生み出す感情が戦争を左右してしまい、また逆に戦争によって左右されてしまうのです。


この映画の『空白』に、観る者は何を描く?

トゥ・ザ・ワンダー テレンス・マリック ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム ロングライド
Photo Credit Dean Semler. (c) 2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

 主人公の男女二人は、互いの気持ちの多くを語らない。どれほど想いを募らせ、苦しみを耐え抜いてきたのかをセリフでは言い表さず、観る者に想像させる。
その証拠に劇中、アイラとダニエルが薄暗い部屋に飾られる絵画を見回るシーンがあり、そこに一部分が空白になっている絵が登場する。

「空白を強調しているのよ。あえて描かないことで」

 意味深なアイラのセリフ。これは映画自体に言えることでもあるのです。
反戦を訴えかける映画は「戦争は絶対にやってはいけない!」なんて口に出さない。芸術作品に込められたメッセージはいつだって、観客がその空白の中から汲み取り、イメージする。それは映画を飛び越える。
この先の現実の未来と、女が女としての尊厳を保ち、平和に生きていける世界への想像。それが決して空想でないことを祈りたい。

 性暴力と支配に溢れた日々の中、アイラとダニエルはどのように愛し合ったのか。なぜ、アンジェリーナ・ジョリーはこの映画を作ろうとしたのか。それを想像することで、現実を少しでも変えられるかもしれない。
そんな希望が、本作の絵画の『空白』の中に描かれているのでしょう。

アンジェリーナ・ジョリーの“女の武器”とは

トゥ・ザ・ワンダー テレンス・マリック ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム ロングライド
©2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

 アイラの目から滲む涙が、アンジェリーナ・ジョリー監督の涙でもある。
名実ともにトップの女優が「監督業もやってみようかしら」と軽く手を出すような余裕なんて、この映画には一切感じられないのです。

 多くの女性が戦争で直面する問題に対し、切実に訴えかけてくる。アイラの強さはアンジェリーナ・ジョリーの強さでもある。
それぞれ、絵画と映画の存在は“表現者”の立場においてなんら変わりないと思います。なぜなら、表現で世界に訴えかける彼女らにとって、作品こそが“女の武器”なのでしょうから。


8月10日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー

監督・脚本:アンジェリーナ・ジョリー
キャスト:レイド・セルベッジア、ザーナ・マリアノヴィッチ、ゴラン・コスティック 他
配給:彩プロ
原題:In the Land of Blood & Honey /2011年/アメリカ映画/127分/ R-15
URL:映画『最愛の大地』公式サイト


Text/たけうちんぐ


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たけうちんぐ
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