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  • 2013.07.26

まるで処女と童貞! 熟年カップルが再びセックスに奮闘する『31年目の夫婦げんか』

 お父さんとお母さんは、二人とも元気ですか? セックスしていますか?

 なんて尋ねると、ギョッとすると思います。でも、この映画はそういうお話。
互いに向き合えなくなった60代の夫婦が、とにかくセックスしようと頑張る映画なのです。

31年目の夫婦げんか デヴィッド・フランケル メリル・ストリープ トミー・リー・ジョーンズ スティーブ・カレル ギャガ
©2012 GHS PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.

 かつて二人が愛し合っていたなんて想像できない夫婦と、できる夫婦。どちらが目指すべき結婚でしょうか。
どこか見覚えのある、だけどこれから成るべき夫婦の姿が映っている。
二人が互いに向き合う勇気と、幸せを求める切実の想いをスルーするわけにはいかないのです。

 前作『プラダを着た悪魔』で一躍有名になったデヴィッド・フランケル監督の最新作は、本作でもメリル・ストリープを起用。あの冷徹な女上司から一転、どこにでもいそうな温厚な妻を演じています。
夫役にはトミー・リー・ジョーンズ。近年では『ノーカントリー』『リンカーン』などで渋い演技を見せ、サントリーの缶コーヒーBOSSのCMで宇宙人役としても親しみ深い彼です。
妻は変化を求め、夫は変化を恐れるという攻防戦アカデミー賞受賞俳優二人の演技対決は、この映画の大きな見どころと言えます。

ストーリー

 寝るのは別室。会話はいつも同じ。結婚31年目にして変化のない生活に焦りを感じていた妻のケイ(メリル・ストリープ)は、夫のアーノルド(トミー・リー・ジョーンズ)を連れて、夫婦の関係を修復するために一週間の滞在型カウンセリングに向かう。
そこで医師のバーナード(スティーヴ・カレル)の指導のもと、溜めていた感情を吐き出していくケイとアーノルド。
バーナードから課せられる“宿題”は、「今晩、抱き合ってみてください」といった二人にとってハードなものばかり。
果たして、熟年カップルは互いに向き合うことができるのか――。


アカデミー賞俳優二人が“口でする”に奮闘する

31年目の夫婦げんか デヴィッド・フランケル メリル・ストリープ トミー・リー・ジョーンズ スティーブ・カレル ギャガ
©2012 GHS PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.

 結婚31年目のはずなのに、ケイとアーノルドはまるで処女と童貞
互いに見つめ合うことができないし、手も触れられない。抱き合ってみても、その触り方があまりにもぎこちない。かつて愛し合っていたことがウソのように、60代の夫婦はベッドの上では10代の少年少女。
そんな二人がどんどんオトナになっていく様がスリリングで、バーナード医師によって積年の欲求と願望が告白されていくカウンセリングは、ある種の羞恥プレイです。

「最後にセックスしたのは?」
「普段、オナニーはする?」


 …やめてあげて! と言ってしまいたくなるくらい質問が容赦ない。
でも、カップルの赤裸々な性事情を覗き見しているようで、正直な話、ちょっとドキドキしてしまいます。

 挙げ句の果てに、アーノルドの願望を叶えるため“宿題”として “口でする”ことを実践する二人
 アカデミー賞受賞のベテラン俳優二人に何させてんねん! とも思うけど、“口でする”ためにハウツー本を手に入れて、練習のためにバナナを買い込むケイに噴出しつつも、幸せな夫婦を目指すために一喜一憂するその健気さに心打たれてしまうのです。

ソファに座る距離こそが、心の距離

31年目の夫婦げんか デヴィッド・フランケル メリル・ストリープ トミー・リー・ジョーンズ スティーブ・カレル ギャガ
©2012 GHS PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.

 カウンセリング中、ケイとアーノルドが座るソファ。
最初は端と端に座り、他人のように白々しい二人。“宿題”を実践していくうちに、その座る位置の距離がどんどん縮まる。また離れる。で、近づく。
それはまるで心の距離を表しているかのようで、視覚的にセラピーの成果が見られる。

 このもどかしさは存分に笑えるはずなのに、どこか笑えない。それは、二人が真剣だから。どこにでもいそうな夫婦だから。
心も身体も分かち合おうと妻が努力しても、夫は完全にシャットアウト。バーナード医師に対しても疑いの目でかかり、そこに“愛”なんて存在しない。いや、させたくないのかもしれない。
変化に対して頑固な男と、愛に対して誠実な女が、そこら中にゴマンといる男女の姿に思えるからです。

 本作のタイトル通り、“31年目の夫婦げんか”をしたときに初めてアーノルドがケイの気持ちを知る。それからの変化は劇的。
まるで童貞だったアーノルドがオシャレなジャケットを羽織り、いつもゴルフ番組にしか熱中しなかった彼がケイに夢中になる姿は、ちょっとズルイ。ギャップがかっこよすぎる。もはやソファがひっくり返るほど、夫婦の間に希望の光が差し込むのです。

 それぞれの心と身体の距離が縮まることが重要に描かれている。
決して“口でする”ことやセックスが目的地ではない。
思うことと、実行すること。この一致こそが感動を呼ぶのです。


結婚≠目的地 夫婦の新しいカタチ

 アーノルドとケイの行く先は、誰もが望む結婚生活なのかもしれません。
二人は60代にして“二度目の結婚”を目指すために、離れたりくっついたり。まるで10代の恋みたい。それこそ、童貞と処女のように初々しいのです。

 結婚が一度限りと思うから、上手くいかないのかも。目的地に辿り着けば、あとはそこに居座るだけ。
でも、まだまだ次の段階がある。結婚は目的地ではないと思えたら……。
この映画は、そういった新しい夫婦の形を提示しているようにも思えます。

 31年間の愛情と不満を一週間に凝縮したハードなカウンセリングに、テキパキと応えられる男女はいるのでしょうか。
どれほど愛し合っていても、いつか互いに向き合えない日が来るかもしれない。
そのときには、バーナード医師の代わりにこの映画が必要になるのかも?


7月26日(金) TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ他全国順次公開

監督:デヴィッド・フランケル
キャスト:メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ、スティーブ・カレル
配給:ギャガ
原題:Hope Springs/2012年/アメリカ映画/100分
URL:映画『31年目の夫婦げんか』公式サイト


Text/たけうちんぐ


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たけうちんぐ
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