• love
  • 2013.06.29

運命の人はいつ、どんなときも同じ人『3人のアンヌ』

 人生は一度きり。運命的な恋なんて一回きりどころか、やって来ない場合もある。
それだと困る。できるなら何度も恋を楽しみたい。運命の人と何度も出会いたい。
一人分の恋なんて、たかが知れている。二人分、三人分、出会いを体験できたらどれほど素晴らしいのだろう。
それを叶えてくれるのが、この映画。
ホン・サンスの描くパラレルワールドが、一人の女性のちょっとした恋バナを三倍に盛ってくれるのです。

3人のアンヌ ホン・サンス イザベル・ユペール ユ・ジュンサン チョン・ユミ ユン・ヨジュン ムン・ソリ ビターズ・エンド

 ジャン=リュック・ゴダール、マイケル・チミノ、ミヒャエル・ハネケといったあらゆる名監督の映画に華を飾ってきた、フランスの演技派女優イザベル・ユペール。彼女が一人三役をこなす贅沢なラブストーリーを体験できるのは、この映画だけ。

 三人の“アンヌ”がそれぞれ一人の男と出会っていく。
この斬新なストーリーを描くのは韓国の鬼才ホン・サンス監督です。
世界的に評価される彼の演出力が細部にまで行き届き、どこにでもある些細な恋愛をタダ事ではないラブストーリーに仕立てあげています。

ストーリー

 青いシャツのアンヌ(イザベル・ユペール)は、成功した映画監督。
バカンスでやってきた韓国の海辺の街で、ライフガード(ユ・ジュンサン)に出会い、彼のテントで“アンヌの歌”をプレゼントされる。しかしその夜、アンヌの友人の映画監督ジョンスとライフガードが些細なことで口論になってしまう。
赤いワンピースのアンヌは、愛人の映画監督スーと海辺の町にやって来た。
アンヌはひょんなことからライフガードと出会い、海辺で会話を弾ませる。それにスーが激しく嫉妬をして、ケンカになってしまう。
緑のワンピースのアンヌは、夫と離婚したばかり。
傷心を癒そうとお寺で拝むが、気分は一向に晴れない。そんな中、ライフガードに出会い、ともに焼酎を飲みあう。やがて酔っ払った二人はテントに入り、そこで――。


まるで前世の記憶を辿るかのように、一人の男と何度も出会ってしまう

3人のアンヌ ホン・サンス イザベル・ユペール ユ・ジュンサン チョン・ユミ ユン・ヨジュン ムン・ソリ ビターズ・エンド

 郵便配達は二度ベルを鳴らすが、アンヌは三度ライフガードに出会う。
と、かの名作『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を文字ってみました。
その通り。アンヌは二度どころか三度、同じシチュエーションを繰り返すのです。

 それぞれのアンヌには共通点は無い。だけど、周囲の登場人物は同じ設定で彼女を取り囲む。
そして決定的に同じなのは、彼女がライフガードに出会うこと。
まるで生まれ変わったように次第に彼と距離を縮めていく。だから物語が淡々としていない。
どんどんアンヌの気持ちが盛り上がり、ライフガードは彼女を受け入れていくようになる。

 それはまるで前世の記憶を辿るかのようで、どんな人間に生まれ変わっても結局出会うのはこの男。
そんなどうしようもなく避けられない事実が、他の恋愛映画にはない男女の出会いの味わい深さを与えてくれるのです。

自分が一人きりとは限らない
また別の”自分”が何人も存在する

3人のアンヌ ホン・サンス イザベル・ユペール ユ・ジュンサン チョン・ユミ ユン・ヨジュン ムン・ソリ ビターズ・エンド

 アンヌは各エピソードで、それぞれファッションを変えて登場する。その都度、人間のタイプも違っている。
青いシャツの彼女はクールで、赤いワンピースでは情熱的で、緑のワンピースはちょっぴりセンチメンタル。それぞれが全くの別人として描かれている。

 だけど、なぜかどれも同じ女性に思えてくる。
それは名前がアンヌだからではなく、もっと深い意味で三人ともシンクロしていくのです。

 人は、日によって気分が変わる。身に纏う服によってタイプが変わる。
これは別人格と呼ばれるほどではないにしろ、一人の女性なら誰もが持ち合わせている多面性ではないだろうか。
決して、一人分の気持ちだけで生きていない。二人分、三人分の感情が、三人のアンヌに分散されているように感じる。

 ライフガードに対する印象も一つではない。
たった一つの角度から男性を見ることなんて、まずないでしょう。色んな角度から物事を見て、判断し、行動する。その一つが恋に発展する。
こういった描写には、ある種の恋愛の真髄が描かれており、ホン・サンスの鋭い人間観察眼が込められているように思えるのです。
女性は一筋縄ではいかない。三筋縄ではいくのかも。それは、誰もが心のどこかで自覚していることではないでしょうか。


人生と恋は繰り返すことができない

 人生と恋は繰り返すことができない。
生きていく中で決して許されない願望は、すべて映画によって叶えられる。

とても素朴で、ある意味地味な作品だけど、その分映画の可能性を静かな風景から感じさせることにグッと心を掴まれてしまう。

 三人のアンヌはそれぞれが出会うことができない。
無意識の中で拡散された人格は、お互いが出会うのではなく、それぞれが向かうべき愛=ライフガードに出会えばいいのです。

 今日のアンヌはどんな服を着て、どんな気持ちで海辺を歩くのだろう。
それは、観る人の心が決めるのかも知れません。

 


6月15日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!

監督・脚本:ホン・サンス
キャスト:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ユン・ヨジュン、ムン・ソリ
配給:ビターズ・エンド
原題:In Another Country/2012年/韓国映画/89分
URL:映画『3人のアンヌ』公式サイト


Text/たけうちんぐ

あわせて読みたい

新作映画
映画3選まとめ

関連キーワード

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

今月の特集

AMのこぼれ話