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  • 2013.06.15

少女の赤裸々だった感受性を、もう一度/『イノセント・ガーデン』

 18歳の頃、どこでどうしていただろう。
何を見て、何を感じ、何の音を聞いていたのか。見えないものに憧れて、傍にあるものに嫌悪した日々。
置かれた環境と状況では満ち足りず、妄想に寄り添うように生きてきたなら、この少女の瞳の奥に光る狂気を、記憶の中に探し出せるはず。

 映像と音の表現の可能性を追求する、韓国映画界の鬼才パク・チャヌク監督の最新作。
その次から次へと繰り出される狂気の映像世界に、えっ、もうそんな、無理、ちょ、無理だから。あっ、でもすごく、気持ちイイ。って、なんかヤラシイことしているような、後ろめたさと抗えない快感が同時に押し寄せる。

イノセント・ガーデン パク・チャヌク ミア・ワシコウスカ ニコール・キッドマン マシュー・グード 20世紀フォックス映画
©2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 18歳の少女の物語は、こんなにも繊細に激しく狂っていた。
血を流し、自らを慰め、無作為に凶器をかまえる少女は決して“美しい”だけではないのです。

『JSA』で当時の韓国歴代最高の興行成績を記録し、『復讐者に憐れみを』、『オールドボーイ』、『親切なクムジャさん』といった“復讐三部作”で狂乱の映像センスを発揮。多くの熱狂的ファンが待ち望んだパク・チャヌク監督の新作は、なんとアメリカ映画!
『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ、ハリウッドを代表するトップ女優二コール・キッドマン、マシュー・グードといった贅沢なキャスティング。
韓国からアメリカへ舞台を移したパク監督が見せるのは、復讐より色濃くて煮えたぎる感情。
そして感性が鋭い少女の、目を離した隙にぶっ壊れてしまいそうな一触即発の物語なのです


ストーリー

 18歳のインディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)は、繊細で感覚が研ぎ澄まされた女の子。
誕生日に最愛の父は不審な死を遂げ、その真相をひそひそと噂する声が彼女の耳に聞こえてくる。学校では孤立し、母のエヴィ(二コール・キッドマン)とも心を通わせず、誕生日に手に入れた謎めいた鍵だけが彼女の手元にある。
やがて、長年行方不明だった叔父のチャーリー(マシュー・グード)とともに暮らし始めるインディアとエヴィ。その後、周りで次々と人が消えていく不可解な事件が起きていく――。


感性が鋭いのは得か、損か…
少女の限りない五感に、血と暴力の影が忍び寄る

イノセント・ガーデン パク・チャヌク ミア・ワシコウスカ ニコール・キッドマン マシュー・グード 20世紀フォックス映画
©2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 先に申し上げておくと、この映画には甘酸っぱい恋どころかトキメキのトの字も存在しない。
それどころかインディアが劣悪な男の欲望によって危険に晒され、自分が少女であることを呪う。

 チャーリーは何を企み、インディアに接近するのか――。
謎が一つずつ明るみになっていくスリルの中で、インディアは恐ろしいほどに表情を変えない。それでも心の動きは目とセリフと行動で示され、その一挙一動に目が離せない。

 物事に鋭く感じるインディアの姿に、かつて少女だった頃に抱いていた感情を思い出すだろう。
だけど、彼女は繊細であっても決して弱くはない。学校で男子にちょっかいを出されても動じず、家で母とまともに会話ができなくても、どこかたくましさを感じる。
内気で周囲に馴染めず、常に居場所を探していた女の子なら誰もが見覚えのあるシーンがたくさん。
その中でインディアは真っ直ぐに一枚の絵を描くように前を見つめ、健気に生きている。その姿には妙な憧れすら抱くかも知れない。

 そして終盤に差し迫る頃、ある事件が起きる。
その固まった表情が一気に崩れ、感情が爆発する。それが一発の銃声に集約されたとき、観る者が今の今まで大事に温めていた繊細な記憶すら、粉々に吹っ飛ばされてしまうのです。

異常なまでに“音”にこだわった、少女のインナーワールドの映像化

イノセント・ガーデン パク・チャヌク ミア・ワシコウスカ ニコール・キッドマン マシュー・グード 20世紀フォックス映画
©2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 蜘蛛が地を這う音なんて、聞いたことがあるだろうか。
本作ではあらゆる場面で音の演出が効果的に使われ、インディアの心理状態を巧妙に描いているのです。

 普段、映画の外で生活していてもスプーンと皿がぶつかり合う音や、激しくドアが閉まる音、誰かの吐息に敏感に反応してしまうことがある。それは、感覚が研ぎ澄まされる深夜、失恋した時、号泣した後、そして思春期。

 何度も聞いたことがある音でも、場面によっては全然違う音に聞こえた覚えがあるなら、この映画のインディアが聴く音に共感を覚えるに違いない。
“音に共感”だなんて、パク・チャヌクが初めて教えてくれるわけですよ。全身を凍り付かせるほど強調した音の数々に、思わず戦慄を覚えてしまう。

 オープニングの連続するストップモーション。
誕生日プレゼントで贈られる箱に囲まれたインディア。
殺害シーンと交互に繰り出されるシャワーシーン。

 音とともに、暴力にも似た挑発的な映像の編集が凄まじい。
観始めた頃は断片的な映像の連続で、全体が見えづらいかも知れない。
だけど、やがてパズルのようにピースがはまっていく。
その欠片がぼんやりとした風景ではなく、エヴィやチャーリーなど登場人物の明確な表情が映し出されたときに、映画の面白さは一気に加速する。

 映像と音の無限の表現力を秘めた本作。女の子の脳内は、まだ映像で開拓する余地があるということだろう。
それほどまで無限の妄想力を秘めた感性に、「女子ってめんどくさいなあ」とも思えるし、神秘的にすら感じる。
女に生まれたことを呪うか、祝うかは観る者が決めるのです。


あの頃に聞こえた“音”は、今でも聞こえるだろうか

 感情が露になり、気持ちが高ぶっているときは、どうして音に敏感になるんだろう。
ケンカして険悪になった母がドアを閉める音、失恋したての頃に鳴る携帯の着信音、眠れない夜のカラスの鳴き声、そして自分の溜息。

 それらの“音”が物語へと引きずり込むとき、かつて少女だった頃の自分に戻るかもしれない。
インディアの耳に鳴る音が、あらゆる人の成長期と思春期と現在を刺激するはずです。

 大人へ背伸びし、男の子を怖れ、性に嫌悪する。
が、それでも大人にはなれず、男を愛してしまい、性に恋焦がれていく少女時代の面影がすべて映し出される。 そしてその庭に、18歳の少女の瞳に、パク・チャヌク監督の狂気が宿っているのです。

 映像表現の可能性を模索し続ける韓国映画界の巨匠のこのハリウッドデビュー作で、少女の本性を体感してもらいたいです。


5月31日(金)TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他 全国ロードショー

監督:パク・チャヌク
キャスト:ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード
配給:20世紀フォックス映画
2012年/アメリカ映画/99分/PG12
URL:映画『イノセント・ガーデン』公式サイト


Text/たけうちんぐ

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