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  • 2013.05.18

『秒速5センチメートル』監督の最新作! 年下男子との淡い恋物語『言の葉の庭』

 アニメーションってこんな表現ができるのか……。
天気、季節、恋。それらは人がどう抗っても変化し続けるもの。その日の気分によって景色がまるで変わってしまう経験は誰にでもあるでしょう。好きな人に褒められた喜びで雨が止む。嫌われた悲しみで雪が降る。ケンカをすれば豪雨になる。と、アニメは景色を自由自在に変えてくれます。
実写では表現できない恋愛描写を、あっさりと実現させてしまう映画がここにあります。

言の葉の庭 新海誠 入野自由 花澤香菜 東宝映像事業部
©Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

 監督は『秒速5センチメートル』で国内外にて高い評価を得た新海誠。
男女の繊細な心の動きを鮮烈な色彩感覚で描き、痛いくらい心に染み入るセリフの量に圧巻です。
声の出演にタカオ役は入野自由、ユキノ役は花澤香菜を迎え入れ、現代の東京を舞台に万葉集にちなんだ“恋=孤悲(こい)”を描きます。

エンディングに鳴り響くのは秦基博による大江千里の名曲『Rain』のカバー。
まるで本作のためにあったのかと思えるほど、タカオとユキノの心情を丁寧に切り取る歌詞が印象的です。

ストーリー

 高校生のタカオ(声・入野自由)は靴職人を目指している。雨が降ると学校をさぼり、公園に駆け込んで靴のスケッチを描く。そこで年上の女性のユキノ(声・花澤香菜)に出会う。彼女は何かに逃げるように、公園でひたすら缶ビールを飲んでいる。
謎めいたユキノにタカオは惹かれ、雨の日が続くたびに二人は会い、互いに心を通わせていく。
ユキノは人生がうまくいかず、路頭に迷っていた。タカオは彼女がうまく歩けるように靴を作り、やがて気持ちを打ち明けるが――。


恋は景色を一変させ、人をポエマーにさせる

 本作の最大の特徴は映像美。もう、最初から最後まで驚きの連続です。
恋の舞台は新宿御苑。『秒速5センチメートル』でも小田急線の豪徳寺駅を劇的に変えてくれましたが、今回の作品は普段見慣れた新宿の景色が一変。二人の感情によって地雨から夕立、小雨から豪雨へと空の機嫌が変化するけれど、その天気はまるで恋みたい。心に傘を持ち合わせていないから、タカオもユキノもズブ濡れの号泣状態になってしまうのです。

 クライマックスで二人が感情を吐露しあう場面。これにはとにかく心が揺さぶられます。
激しい雨のように互いの言葉が降り落ちる。感情を表に出さない者同士がぶつかるとき、頬を伝う液体はもはや雨ではない。雨上がり、大きな水溜りは涙となる。と、ちょっぴりクサイことを平気で言わせてしまうキケンな映画だ。

 叙情的な映像美は観る者をポエマーにさせます。
夢と恋に没頭するタカオのナレーションなんて完全にポエマー。正直恥ずかしいくらい。でも恋はちょっとイタイくらいがちょうどいい。虹なんか出たらもう完全にノックアウトです。
映画を観た帰り道はポエマーになり、ブログやツイッターはポエムで埋まるはず。気をつけてください!

あなたは「大人」って言い張れる?

 15歳のタカオからしてみたら、27歳のユキノは明らかに大人。
だけど真っ昼間から彼女の左手にはビール、右手にはチョコレート。まるで、左手がおっさんみたいで、右手が女の子のよう。そんな大人と子どもの境界線上を、ユキノはふらふらとうまく歩けていない。

 あなたは自分をはっきりと「大人」って言い張れますか?
大人なんて何かしら試験を受けて合格して成ったわけじゃない。人生に行き詰まり、ユキノのように部屋でうずくまって、子どものように泣いていませんか。大人の悩みに子どもの涙ってやつです。
仕事で心を病み、元彼に相談してしまい、自分をダメな奴だと毎日叱責する。挙げ句の果てには会社をサボって公園へ。「あーあ、私の人生ってこんなつもりじゃなかったのに」って、後悔を繰り返していませんか。
でもほんの一息くらい、雨宿りしてもいいかも知れない。人生にも恋にもうまく歩けなくなったら、ビールとチョコレートを持ってこの公園に休みに行ってもいいんです。
そこにタカオがいるかは分からないけど、靴なんて作ってもらえないと思うけど、映画みたいに天気と季節が味方してくれるかも知れません。

 恋の季語が一斉に終結し、美しいピアノの旋律をバックにリズミカルに割られる新緑のカット。日本庭園の草木にたくさんの雨の雫が垂れる音。そのすべてが日本特有の季節を賞賛しています。
考えてみれば、雨は人と人との距離を縮めてくれます。タケオとユキノが座るベンチは相合い傘のような効果をもたらし、新しい出会いを作ったのです。
雨が鬱陶しいなんて誰が決めたのでしょう? 
ほら、もうすぐ6月。湿気こそが恋の予感かも知れない。そこには心地よい梅雨が待っているはずです。

言の葉の庭 新海誠 入野自由 花澤香菜 東宝映像事業部
©Makoto Shinkai/CoMix Wave Films


『言の葉の庭』
5月31日 新緑の季節ロードショー

原作・脚本・監督:新海誠
キャスト(声):入野自由、花澤香菜
配給:東宝映像事業部
2013年/日本映画/46分
URL:映画『言の葉の庭』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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たけうちんぐ
ライター/映像作家

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