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  • 2013.05.16

【ムカつくけど愛しちゃうダメ男】ウディ・アレンに学ぶ恋愛映画まとめ

 70歳を超えた今も精力的に恋愛映画を撮り続けている、巨匠ウディ・アレン。
おじいちゃんがラブコメ作るってどうなの。若干狂気じみたその創作意欲は一体どこから来ているのでしょうか。
1970年代から近年の作品まで、彼の映画に登場する三人の“どうしようもない男”にスポットを当てました。みんなイラッとさせてくれるけど、なぜか愛せる男たちなのです。

神経質な男は、不器用ながらも女を愛し続ける
『アニー・ホール』

 一本目は、1977年にアカデミー賞作品賞を受賞した恋愛映画の金字塔。ウディ・アレン映画の原点とも言える、神経質で鬱陶しい主人公を自ら演じた彼の人生観や恋愛観が詰まった作品です。

アニー・ホール
©2012 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

ストーリー

 スタンダップ・コメディアンのアルビー(ウディ・アレン)は離婚経験を経て、美女のアニー(ダイアン・キートン)と出会う。意気投合した二人はたちまち恋に落ちるが、相手の嫌な部分が見えてきて次第に距離が生まれる。やがてアニーは人気歌手から誘いの声がかかり、二人は離れ離れに――。

ユニークな演出表現で描かれる、男女の恋愛観

 演出がとにかく面白い。時折カメラ目線になり、恋愛のあらゆる場面で「こういうとき、どうします?」と観客に女々しくいちいち尋ねてくる。わたしゃあんたのカウンセラーなのかよって言わんばかりに。しかし、これによって物語と観客との壁は破られ、まるで映画の中に入り込んだような感覚に陥ってしまうのです。
アルビーとアニーの出会いの場面では互いの心の声が文字に表れます。芸術論を語り合いながら、アニーは心の中で「バカに思われたくない」と呟き、一方、アルビーは「裸にしてみたい」って呟く。ほんと最低です。こんな感じで男と女の違いが顕著に表れ、大胆な手法にいちいちギョッとさせられます。

アルビーの場合:自分を入会させてくれるクラブには入りたくない

 神経質で頑固なアルビーは、女性からの好意を「自分を入会させてくれるクラブには入りたくない」と拒む。もったいないですね、何様なのかと。アニーに対しては独占欲が膨らみ、幾度となく衝突する姿はとにかく情けない。
それでも、アニーと別れてからずっと立ち直れないのは、不器用ながらも本当にアニーを愛していたから。二人が愛し合っていた頃のアルビーの「ただのラブでは言葉が弱い。“ラァーブ”だ」というセリフは、いきなり可愛くてドキッとする。ロマンチックな夜景を背景にしたこの素直な告白に、グッときてしまう人も少なくはないはず。 

アニー・ホール

『アニー・ホール』DVD
2012年11月16日発売(発売中)
2002年7月5日レンタル開始(レンタル中)
価格:1,490円(税込)
社名:20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン

自意識過剰な男は、本当に愛すべき人を捨ててしまう
『ギター弾きの恋』

 次に紹介するのは、一人の才能溢れるミュージシャンの恋の物語。1930年代を舞台にこれまた面倒くさい男が登場し、なぜか女性たちを虜にします。

ギター弾きの恋
©1999 Sweetland Films B.V. and Magnolia Productions, Inc. All Rights Reserved.

ストーリー

 ジプシージャズの天才ギタリスト・エメット(ショーン・ペン)はいつも女遊びが盛ん。自堕落的な生活を送っていた彼はある日、口のきけない小柄な女性ハッティ(サマンサ・モートン)と出会う。横暴な態度をとりながらも次第に彼女を愛するようになるが、上流階級のブランチ(ユマ・サーマン)と恋に落ち、彼女との結婚を決意する――。

汚れた男が奏でる、ギターの美しい音色

 エメットは心優しいハッティに辛く当たるひどい性格だけど、奏でるギターは一級品。ダメな人間性を弁護するかのごとく美しいギターの音色は、思わずその足でサントラを買いに行きたくなるほどです。
ウディ・アレン監督をはじめとする識者がエメットについて語るカットが随所に挿入され、ドキュメンタリータッチで綴られています。でもこれ、実は完全なるフィクション。エメットをあたかも実在する人物として描き、リアリティを持たせる演出がとにかくニクい。こんな人ほんとにいるの? ってなると、物語に一気に引き込まれてしまうから。

エメットの場合:失って初めて気づく愛に大号泣

 派手好きで自意識過剰。ミュージシャンとして活動する傍ら娼婦の元締めをし、隙あれば物を盗み、変な趣味に女性を付き合わせる。そんな目立ちたがりの性格から、地味なハッティを捨てて美女のブランチに乗り換える。とにかく最低なエメットだけど、映画の終盤で柄にもなく泣き崩れるのです。
自分を愛してくれる女を愛せない。これは『アニー・ホール』のアルビーにも共通します。
その涙に、どうしようもない男の哀愁を感じずにはいられないのは、愛すべき人を愛せないというバカな男の性でしょうか。それがギターの優しい音色で包まれたとき、エメットに同情に近い愛情を感じてしまうのです。ほんと悔しいくらいにエメットが好きになる。だけど、こうして女たちも彼に騙されてしまったんですよね……。

ギター弾きの恋

『ギター弾きの恋』DVD ―デジタル・レストア・バージョン―
価格:1,890円(税込)
発売元:角川書店
販売元:角川書店

夢見がちな男は、結婚を目前に憧れの時代へタイムスリップ
『ミッドナイト・イン・パリ』

 最後に紹介するのは、昨年アカデミー賞脚本賞を受賞したヒット作。
誰もが憧れるパリの街を舞台に、独りよがりな男の妄想が現実世界の恋をチクチクと刺激します。

ミッドナイト・イン・パリ
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

ストーリー

 ギル(オーウェン・ウィルソン)は婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とともにパリを訪れる。ある晩、酒に酔った彼は1920年代へタイムスリップ。憧れの時代でヘミングウェイやピカソなど著名な芸術家に出会い、美しき女性・アドリアナ(マリオン・コティヤール)と惹かれ合う――。

夢が現実を動かす、画期的な脚本

 ワンパターンで面白みのない娯楽映画の脚本執筆の仕事に飽きていたギルは、小説家に転身しようとノスタルジー・ショップで働く男を主人公にした処女小説に取り掛かる。それはどことなく、ノスタルジーに浸りがちな彼自身を描いているように見えるのが巧妙なのです。
1920年代に生きる芸術家からの小説への助言が、現代に生きる彼の物語を動かしてしまう可笑しさ。アレン特有の皮肉が炸裂していて、そりゃあ世界的に評価されるわけです。ギルの面白みのない脚本とは違い、このような面白みのあるウディ・アレン流恋愛映画の脚本は、昨年のアカデミー賞にも輝きました。

ギルの場合:小説は事実よりも奇なり

 憧れの時代から抜け出せないギルと、結婚を目前にした彼に現実を見てほしいイネズ。男はどうしても現実とは程遠い、夢や理想に寄り添ってしまいがち。そんなギルに苛立つけど、彼の思い描く妄想は実に煌びやか。1920年代のパリの街が非常に美しく映っており、ギルと同じくその世界に入り浸りたい気持ちにさせられるので、ちょっとばかりの夢を見るのも悪くないと思ってしまいます。苛立つどころか、むしろ賞賛。こんなにもパリと叶うかもしれない夢を美しく見せてくれてありがとう。
時代にも、夢にも、そして恋にも気まぐれなパリの街。それは、一つのことで思い悩んでしまうすべての人にとっての希望にもなるのです。

ミッドナイト・イン・パリ

『ミッドナイト・イン・パリ』DVD
価格:3,990円(税込)
発売元: 角川書店
販売元:角川書店

 これらの作品はすべて恋の始まりと終わりを描いています。
どうしようもない男なのに憎めない…。ウディ・アレン作品の根底にあるのはやっぱり人間愛。立派な人間を描こうとはしていません。みんなダメダメでボロボロだけど、誰かに恋をして誰かを愛する権利はある。彼のラブストーリーは、なんだかんだで優しさに満ちています。

 アレンは『アニー・ホール』のダイアン・キートンと実生活でも付き合っており、別れてからも何度も彼女を映画に出演させていました。恋が終わっても映画の恋は続いている…。これって結構ロマンチックじゃありませんか? 
黒ぶちメガネのちっこいおじいちゃん。ウディ・アレンは頭でっかちで面倒くさいけど、その正体は恋のことなら何でも知っている“恋愛反面教師”なんです。

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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