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  • 2016.11.15

日本の女の子にとって転換期になるような作品を『溺れるナイフ』山戸結希監督インタビュー

いま、話題の女優・小松菜奈と俳優・菅田将暉が紡ぎだす青春を描いた映画『溺れるナイフ』。そのメガホンを持ったのは、『女の子たちを魅了する作品』を世に送り出している、いま最も注目されている山戸結希監督。そんな山戸監督がAMだけに語った特別インタビューです。

「少女映画の黎明期に突入する」――『溺れるナイフ』を観た直後はそんな予感に囚われた。女の子が主人公の従来の映画を間違いなく拡張し、空の青さも海も青さも脅かすような、青すぎる“青”春がそこに描かれていた。

『あの娘が海辺で踊ってる』で鮮烈なデビューを果たした後、『おとぎ話みたい』『5つ数えれば君の夢』と立て続けに女の子たちを魅了する作品を世に送り出す山戸結希監督。その作品は決して甘くはない。時に深く傷を付けてくる。それは、少女なら誰もが思春期に受けた心の傷なのかも知れない。

 そんな“少女映画”の旗手を担う彼女が今回、スクリーンから新たな“ナイフ”を差し出す。魅力的な役者をどのように演出したか、また本作がもたらす今後の展望について伺った。

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「何かを死ぬほど望んだり願ったりする女の子を主人公にしたかった」

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山戸結希監督

――小松菜々さんが演じる「夏芽」のキャラクターは、都会と田舎の狭間でもがく、これまでの山戸監督の作品に共通する印象を受けました。少女の恋愛の衝動的な欲求を含めて、その主人公の存在から観客に何を伝えたいですか?

 ちゃんと何かを望んだり願ったり、欲望する主体として夏芽を撮りたかったんです。今までずっと、女の子は欲望される側の被写体として映画の中で描かれてきたからこそ。それはもちろん誰が悪いとかではなく、そういう歴史のほうが長い、という現状のセッティングを前にして、その歴史の転換期になるような作品にしなければいけないなと。

 日本の若い女の子が、「あっ、私と同じように何かを死ぬほど望んだりする女の子が、初めて主人公になる映画なんだ」って思ってくれるような映画にしたいなと思っていました。人生の主人公は、醜い感情だってかけがえなく孕んでいるはずで、それが光ってこそ映画になる。そんな主人公を、物語の水準までせり上がらせて、スクリーンに呼び込みたかった。そんな夏芽を、小松さんを通して撮らせてもらいました。

――小松さんを演出する上で気を付けた点は?

 小松さんは、いつだって長い手足を持て余してしまう、哀しい存在感みたいなものが美しいなと思っていました。女の子が思春期に抱く、「自分の身体はどこに行っちゃうんだろう?」って持て余す感覚が、彼女が立つその画と重なって。彼女の長い手足があるのはそのためなんだなぁって心から思えて、その生身の光る手足の一挙手一投足、日本中の女の子のために跳ねたり踊ったり走ったりするものにしたいと思ったんです。

 ただ棒立ちしていてもお人形さんみたいに美しく撮れる人だからこそ、彼女が本当に人形だったら壊れちゃうくらい、お人形さんとしては生きていられない人間の魂ごと撮りたいなって思いました。

――小松さんの相手となる菅田将暉さん演じる航一朗が、強烈な印象を残す存在でした。菅田さんの演出で特に意識した部分を教えてください。

 菅田さんは「何色にもなれて何の役でもできる」、それは確かに真実で、実際にもそうなのですが、それに甘えてしまうと、彼を代替可能な人物として映しかねない。いま女の子が本当に惹かれているのは、菅田さんご自身が代わりが効かない程発光しているからで、菅田さんの一番美しい部分というか、美味しい部分ってどの映画でも捉えきれていないと勝手に感じていたんです。

 でもそういう、役自体では捉えきれない部分で輝いていて、女の子に熱狂をもたらしている人だからこそ、それを役に持ち込むというのは一枚壁があるんだなとも感じながら。だから、役のほうに菅田さんを寄せるのではなく、菅田さん自体の魅力が輝くように撮るっていう気持ちは自分の中では強く意識していました。絶対どの映画よりも魅力的な菅田さんを撮りたかった、これだけ重ねて撮られている人だからこそ。

――一方、航一朗とは正反対な重岡大毅さんが演じる「大友」との違いについて、演出ではどんなことを考えましたか?

 重岡さんと菅田さんが目の前にいたときに、存在として全然離れ過ぎていて。こちらが意識するまでもなく、アイドルの畑から登場した男の子と日本映画で連続的に撮られている男の子というお二人の映画に対する距離も違いますし。

 性別だけが一緒というだけで、こちらが描き分けなどしなくても、その発色をちゃんと見逃さなければ、すごく自然な存在として違いが出るだろうなと。

「物語や映画のほうがきっと人生を狂わせてしまう致命傷になる」

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山戸結希監督

――初めての"原作モノ"を手がけたことで最も意識した点、また、原作者であるジョージ朝倉さんが描かれている世界観で特に大切にした部分はどこでしょうか?

 ジョージ先生は、過去の少女マンガを流用して描いている感じが全くしない方なんです。もちろん教養としてはしっかりお持ちだと思うのですが、それを超えた自分だけの眼差しでキャッチした風景を描き出しているところが、本当に波紋みたいにしっかり伝わってきます。だから、私も過去の記録の積み重ねよりも、今生々しく生まれている記憶の爆発を、新しい聖典を作るつもりで、じゃないですけど、自分の目で見たものを映画にしようと思っていました。

「女の子向けの映画はこういうものだから」ではなくて、今目の前に生きる二人が、どう動いたら一番新しくて、人の心が動くだろうか。そういう問いとジョージ先生はずっと戦ってこられたのだと、たった一人の世界で、彼女自身を神様として。それが、撮りながら思うことでした。

――この作品の登場から、「少女映画の黎明期」に突入すると思いました。以前から掲示する“少女映画”という役割と、それが今の時代に在る意味はなんだと思いますか? また、その旗手としての自覚について聞かせてください。

 自覚というと、この一年間女の子たちのそわそわワクワクする声をネットで読んで、“少女映画”が初めて全国の地方の少女に届くんだってすごく実感させてもらいました。結局、教育とか政治的施策よりも、物語や映画のほうが、人生に濃く関わって、きっと人生を狂わせてしまう致命傷になるんですよね。この教育効果や洗脳作用って、ティーン映画に関わるみんなは気付いているのかなぁって。
今、女の子たちが自分のお金で自分の身体を使って足を運んでいるなんて物凄いことで、有り難いことで、ここから起こせる大きいインパクトが確実にあるんですよね。それはもう、未来ごと生まれ変わってしまうような。

 撮り終わって、映画が発表されて、これが女の子たちに伝わっちゃうことで、ひとりひとりの未来をどうしようもなく変えられるんだって、宣伝活動の反響の渦の中で、その希望が強く湧き上がるみたいにあって…。そこに関与できることは絶対まだまだあるんだなって信じています。

 だから、今リアルタイムで少女期の地獄を生きている女の子たちが、「これは生まれて初めて、自分に向けられた映画なんだ」ってやっと初めて思えるような、映画館で気が狂わされちゃうようなものを差し出すことは絶対にやりたいなって思っていて。それと同時に、少女期のあの地獄って、思春期が終わったら女性から切り離される問題というわけではなくて、身体がある限り永遠に追いかけてくる地獄なんですよね。主人公が思春期の女の子なのか、20代か30代かアラフォーなのかによっても違ってくると思うんですけど、結局表面的な年齢が何歳であっても、地獄巡りみたいに同じ問いをずっと回っている。

 そう思うと自分自身の年代も、自分が経ていく年齢の映画も、"少女”を拡張するような気持ちで、今後も“少女映画”として撮っていくのではないかという気がしています。

――それでは、今後も“少女映画”というジャンルを確立していくのでしょうか?

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山戸結希監督

 ジャンルの名前は、その都度その都度、たけうちんぐさん(インタビュアー)にキャッチーに呼んでいただけたら嬉しいです(笑)。何でも良い、“妙齢女性映画”でも、“子育て映画”でも、“女性自立映画”でも。ライオットガールのジャパンウェーブでも。呼び名がどうあっても、「女の人が生きてゆくための映画を拡張していくんだろうなぁ」って思っていますね。“少女映画”だって、言葉ですもんね。容易に言葉にするには困難な普遍の生き地獄が、きっとすべての女性に共通してあって。それは、きっと男の人と添い遂げても、子どもを産んでお母さんになっても、消滅せずに並行世界としてずっとある地獄なんじゃないのかなって予感として響きながら。

――監督が生み出す作品で、女の子たちを地獄巡りから救いたいですか? それとも、それを共有したいですか?

 女の子といっぱい映画を作っても、女性のアイドルさんや女優さんを近い距離で撮っても、女性同士特有の繋がれなさがあるというか、本来的にホモソーシャルな生き物ではないから、その連帯できなさとか、結局は散り散りになることが決められている刹那的な感覚にさせられて。やっぱり分かりやすく恋愛として成就されることがない、関係の発展する先に出口がないから、男の人に対するような癒着的な関係を望めないんですけど、でもだからこそ、出会えたその一瞬の時間の中で、一緒に文化を作れる喜びがあるんだなあと、鮮烈に思いますね。

 恋愛っていう逃げ口がないからこそ、女の人と女の人が繋がるというのはほんとにカルチャーの切迫面でしかないんです。やっぱり思春期の地獄って一番仲が良い子とも、もしかしたら共有なんてできなくて、それでも週末に同じ映画を、暗闇を見上げることができたら、個人戦ではあるけれど、確かに今同じ地獄でたしかに闘っているなって感じられたら、変わっていける気がするんです。一緒に天国に手を伸ばす気持ちだけでも、共鳴できたら、お互いの美しさを認め合うことができるのかもしれません。そうありたいですね。自分の映画で起こしたいです。諦めながらも、認め合いたいと思っている心を。

「好きな男の子がスターになるところを撮ってやる
っていう監督がでてきてほしい」

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山戸結希監督

――長回しのシーンが幾つか見られて、そこに夏芽と航一朗の距離や関係性が感じられました。おとぎ話「COSMOS」のMVも長回しだからこその表現があったと思いますが、そこに意図したものはありますか?

 正直に言うと、その日の気分ですね(笑)。でも海とか池とかって、前の日に雨が降ったり、潤ったり渇いたり、コンディションも全然違うから。その日に見て生きたものとしての風景に当て書きする感覚があるのかな。その海や池を見て、その波紋を感じると、ここは長回しのほうがいけるなっていう気分になる。結果的に水のシーンの長回しが多い気がします。波とかは、カットしないほうが静かな時と波打つ時と違いがあって、そういうものを感じていたからかもしれないです。世界が呼吸してる感覚を、映画に生かしたいですね。

――そこで思いがけない効果が得られたりしましたか?

 自分が撮る側だからこそ、みずみずしい長回しと、つまらない長回しの違いって何なんだろう? ってよく思うんです。この作品の場合は、心象風景としての長回しがあるのが常なのかも知れないですね。役者さんの身体が走っていても、走り出せない心がずっとそこに在るままだと、カメラが動かなかったり。そういうシーンの心の重さとカメラの動かなさはすごく共通しているんだろうな。

 どれだけ小松さん自身が笑っても、生きているのが哀しいって感じがすごくします、彼女が生きてる限り。そういう裏腹さというか。思春期の身体はめっちゃ動き回るんだけど、どれだけ動いても動いても、抜け出せなくて引っ張られるものがあるなぁって。「長回しやっている」って思ってやった部分は一つもなくて、ああ、ここは動けないなぁ、だって心はどこにも向かえないんだねっていうカメラでしたね。

――全体を通して醸し出すムードが大島渚監督の青春映画のような、揺れたり不安定なズームなどの撮り方がいい意味で荒っぽくて、メジャー映画ではなかなか感じられない衝動的な部分が多々ありました。

 今まで、衝動的なものを作ろうとしたことは全然なくて。でも結果、そうなっちゃってますもんね(笑)。きっと初期衝動とかを出そうと意識して撮ったら、また違った“上手い衝動”の感じが出たと思うんです。そうするとすごく二次的なもの、衝動をきれいに模したものが生まれたと思うんですけど、この作品の場合はほんとに生の傷が映って、それだからこそ輝いて、不思議ですよね。

 それはすごく不思議で、ベテランのカメラマンの柴主(高秀)さんですら揺らぎながら、あの現場の熱の中に居たんだなぁって。もちろん現場でモニターを見ているんですけど、波でも熱でもそういう風に撮れてしまうというか撮ってしまったというか、事後的な衝撃感がすごくある撮影でしたね。でも傷だらけだからこそ、何度見てもフレッシュに蘇るんでしょうね。人間が作ったっていう証拠だから、傷は。そうやって芸術は愛されてきたのかもしれません。一点の曇りもない物だけが美なんじゃなくて、曇り空だって、人の心を揺さぶりますよね。

――最後に、この作品で観客に何を感じてもらいたいですか?

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山戸結希監督

 宣伝部さんも宣伝をとっても頑張ってくださって、小松菜々ちゃんも菅田将暉くんも大人気で、きっと若い子に愛して観てもらえるし、それがすごく楽しみである一方、これを観て初期衝動とかを触られて「自分もクリエイションしよう」っていう子が出てきてくれるのを信じています。そういう期待感がありつつ、ほんとに予期せぬことこそ起きてほしいです。それが最悪な事態でもいいんです。

 『溺れるナイフ』では、もう何が起きてもいいって思っているので、それくらいの熱量で伝わってほしいですね。星5つつける映画じゃなくても全然いいから、一週間経っても一ヶ月経っても学校でプリプリ怒れるような。日曜日にプリクラ撮っても次の週には観たことを忘れちゃうような映画じゃなくて、「なんなんだよ!」ってずっと怒ってもらうような映画になってほしいですね。自分事として、インパクトとして届いて欲しい。映画が生まれるって、それくらいの事件だと思うから。

 今日(取材日の10月18日は一般試写会)も早くから券を交換するために並んでくれている女の子の顔を見ると、泣けてきます。そういう根性があったら映画監督って全然なれちゃうとも感じます。しかも女の子が監督になるのは狙い目ですよ、キャッチーな感じで(笑)。大好きな男の子がスターになるところを撮ってやるって、そういう下心を持った子が出てきてくれたらほんと最高だなって思いますね。そんな夢みたいなことがあったら、この先何があっても大丈夫なんだと思いますね。

―――――

 “地獄巡り”というキーワードにハッとなった。たしかに見かけは瑞々しい少女でも、山戸監督の作品に登場する女の子はいつだってもがいている。その地獄を味わった人なら、監督が語るように夏芽が「生きているだけで哀しい」存在として身に沁みて感じられるだろう。

 少女の生の傷が色濃く記録される。意図せぬ衝動がスクリーンから沸いて出る。この作品から新しい扉を叩く。そんな野心が感じられる。全国の地方の何者でもない女の子たちの表情が、この作品を境に変わるかも知れない。監督が願う「予期せぬ出来事」は決して最悪な事態ではなく、最良の方向へ進む予感しかしない。

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11月5日(土)TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー

監督:山戸結希
脚本:井土紀州、山戸結希
原作:ジョージ朝倉『溺れるナイフ』 (講談社「別冊フレンドKC」刊) 
キャスト:小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅(ジャニーズWEST)、上白石萌音、志磨遼平(ドレスコーズ)
配給:ギャガ
2016年/日本映画/111分

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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