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  • 2016.10.01

朝井リョウ『何者』映画化!本当の気持ちは140字では収まらない

拓人は演劇の夢を捨てて就職活動に乗り出し、同じく就活生の5人とともに「内定」を狙う日々に明け暮れる。理想と現実の狭間で揺れ動く中、SNSとリアルが交差することで互いの“本音”が暴かれていく——。演劇界の鬼才・三浦大輔が放つ「平成生まれのリアル」。

たけうちんぐ 何者 映画 佐藤健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生 山田孝之 朝井リョウ
©2016映画「何者」製作委員会
©2012 朝井リョウ/新潮社

 自分が一体、“何者”なのか。それは面接のアピールでもSNSの自己紹介でも明かされない。自分が“何者”であるのか、きちんと説明できる人はいるだろうか。

 Twitter、Facebook、Instagramでは日々、“頑張っているアピール”が連投されている。
「~さんと打ち合わせ終了!」、「もう二日間まともに寝てない…」、「今日は先輩と呑み! 仕事について考えさせられた夜でした」
別に言わなくてもいいことが次々とスクロールされていく。同調と、嫉妬と、裏切り。ネットでの本音とリアルでの建前が入り乱れる現代において、ここまでポジティブにもネガティブにも共感してしまう作品が生まれるなんて。

 平成生まれの作家・朝井リョウの直木賞受賞作品『何者』が、『愛の渦』などで知られる演劇界の鬼才・三浦大輔によって映画化。佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生といった平成生まれの俳優・女優たちが一堂に会し、まるで本物の就活生のような“本音”がたくさん練り込まれた生々しいタッチで描かれる。

「いるいる」就活生のオンパレード

たけうちんぐ 何者 映画 佐藤健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生 山田孝之 朝井リョウ
©2016映画「何者」製作委員会
©2012 朝井リョウ/新潮社

 就職活動の経験がある人なら誰もが身に覚えあるだろう。筆記試験のペンが紙を叩く音。集団ディスカッションの緊張感。仲の良い友人の内定も素直に喜べない。まるで自分が世間から認められていないような錯覚に陥る。と、生々しい心理描写が続く。
「内定」――この言葉に左右されて、人間性や社会性のすべてが決められる気がしてしまう。もちろん就活生でなくても他人事とは思えない。“自分を偽って生きる”ことにおいての悲喜交々に満ちている。

 冷静分析系男子・拓人に佐藤健、地道素直系女子・瑞月に有村架純、意識高い系女子・理香に二階堂ふみ、天真爛漫系男子・光太郎に菅田将暉、空想クリエイター系男子・隆良に岡田将生と、“平成生まれ”の等身大な俳優たちだからこそ演じられる、「いるいる」ってキャラクターばかり。そして何者にも“系”でカテゴライズする時代がしっぺ返しを食らう。人間はそんな容易く分別できない。それぞれがもがき苦しみ、その苦しみを誤魔化し、誤魔化したSNSで他人を苛立たせる。
Twitterでの誰に向けているか分からない頑張っているアピールと、それに唾を吐くように苛立つジェラシー。そんなSNSが生む“もう一つの顔”が、恋愛、友情、就活を引っ括めた大きな問題を引き起こしていく。

全員がリアルとネットで「演じている」

たけうちんぐ 何者 映画 佐藤健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生 山田孝之 朝井リョウ
©2016映画「何者」製作委員会
©2012 朝井リョウ/新潮社

 本作の舞台は三つに分かれている。就職活動の現実、逃避する先のSNS、そして拓人がいまだ捨てきれない“夢”の演劇。
登場人物たちがそれぞれに別の顔を持っていても、どれも共通していることは「演じている」ということ。ここに、演劇出身の三浦大輔監督が本作を手掛ける理由が大いにある。

 トランプのように、当たりと見せかけてジョーカーを引かせる。その逆も然り、面接におけるたった1分間の自己アピールでいかに自分を良く見せるか。Twitterの140文字でいかに自分を演出するか。演劇でいかに自分を表現するか。どれも“嘘”であることは間違いないのに、そこで流す汗が全く違うのは何故だろう。

 他人を分析してばかりで、どこか冷めた目で友人たちを見てしまう拓人。彼が演劇に熱中していた頃に流していたのが良い汗なら、就職活動で流すのは冷や汗だ。他人を蔑むことで自分を保とうとする姿から、まるで体温を感じない。無様になりたくないのだ。ダサくならないように客観的に生きる姿がここまでダサいことを、本人は全く気づかない。

たけうちんぐ 何者 映画 佐藤健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生 山田孝之 朝井リョウ
©2016映画「何者」製作委員会
©2012 朝井リョウ/新潮社

 これから就活を控えている人。すでに就活が遠い過去になってしまった人。『何者』は現代を生きる何者にも自分らしく生きることについて問いかけてくる。ダサくてもいいじゃないか。そこに本音がちゃんとあるならば。そんなメッセージが優しく背中を押してくれる。

 いまだ捨てきれない演劇の夢を、拓人はどうするのか。
誰にとってもその存在が何かに当てはめられるように、拓人がひたすら口の中のデキモノのように妬んでいる、かつての演劇仲間「烏丸ギンジ」の顔はっきりと映らない。
一生懸命に生きる人をバカにしてしまったら、本当にその人が間違えているのか、自分が正しいのか。ほんの少し疑ってみてもいいのかも知れない。

ストーリー

 就職活動の情報交換のために一つの部屋に集まった大学生5人。

 演劇サークルに全力を注いでいた拓人(佐藤健)、光太郎のかつての彼女でひたむきに就活に明け暮れる瑞月(有村架純)、瑞月の友人で海外ボランティアの経験を面接に生かす理香(二階堂ふみ)、バンド活動を引退して出版社の内定を狙う光太郎(菅田将暉)、理香と同棲する彼氏で“個”を重んじる隆良(岡田将生)。それぞれが自分が「何者」であるか模索する中、SNSで発信することでいつしか互いに嫌悪感を持ち、苛立ちを覚えるようになる。

 演劇の夢から遠ざかれない拓人は、かつて一緒に演劇を作っていたライバル「烏丸ギンジ」の活動を心の中でバカにしていた。自分だけ内定が貰えない日々でもがき苦しみ、やがて嫉妬や本音が剥き出しになっていく――。

10月15日(土)、全国東宝系にてロードショー

監督・脚本:三浦大輔
原作:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊)
キャスト:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之
配給:東宝
2016年/日本映画/98分
URL:『何者』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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