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  • 2016.08.13

『君の名は。』とんでもない傑作!「運命」を描き切る、男女入れ替わりの青春物語

田舎町で都会に憧れる女子高校生・三葉と都会で暮らす男子高校生・瀧が、それぞれ夢の中で姿が入れ替わる——。『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』の新海誠監督の新作。

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝
©2016「君の名は。」製作委員会

 とんでもない傑作が生まれた。現代人の孤立する心と、時代を超える心象風景と、フィクションに救済を求める人々。今の時代を象徴するようで、古くから続く伝統芸能のようでもある。
“ロマンチック”という言葉をこの作品のためにずっと取っておきたかった。

 携帯電話は遠く離れた場所でもいとも簡単に人と人を出会わせてくれる。でも、遠く離れた時間だけは繋げられない。その画面の中の自分はどれだけ盛れても、別の人に生まれ変わることは絶対にできない。
ただし、瀧と三葉を除いては。

 決して出会うはずのない都会の男の子と田舎の女の子が、夢の中で入れ替わる? そんな奇想天外なファンタジーと青春ラブコメを織り交ぜるのは、『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などで国内外ともに高い評価を得るアニメーション監督・新海誠。
神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子といった豪華な声の出演陣を迎えた日本のアニメーションの未来を担う新作は、言葉では言い表せない“運命”というものが一体何なのかを美しく描き切る。

どこにでもいる普通の男子/女子に心を通わせる

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝
©2016「君の名は。」製作委員会

 全く新しいタイプのラブコメだ。時間と場所を飛び越えて巡り逢うロマンチックな物語が、千年ぶりの彗星の来訪によってサスペンス調に変わっていく。ただのラブストーリーでは済まない。一度に何本もの作品を味わえるかのよう。安易な青春モノに落ち着かない意欲的な作品に仕上がっている。

 会ったことのない二人が夢の中で入れ替わる。瀧は三葉の髪型も気にせずに女子としての振る舞いを無視するし、三葉は瀧が好意を寄せている年上の女性へ勝手にアプローチを続ける。「勝手なことをするな!」と互いに「バカ」「あほ」と自らの頬に書き残すことで不満をぶつけ合う描写が新しい。

「男の子と女の子の姿が入れ替わる」これは大林宣彦監督の名作『転校生』と同じ。でも、決定的に違うのは二人が「出会っていない」。互いに携帯に日記を書き記すことが唯一のコミュニケーション手段なのが極めて現代的で、異性との距離感や友人との関係など同世代の少年少女からの共感が得やすい描写が重なる。

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝
©2016「君の名は。」製作委員会

 瀧が女の子の姿になったファーストインパクトとして、まず胸を触る。大正解。これは男として絶対に避けられない。そこをクリアすることで主人公に親近感を得る。どうでもいいことのようでも、これは重要なこと。どこにでもいる普通の男子、普通の女子であることで、都会/田舎で暮らす等身大の瀧と三葉に感情移入させていく。

“運命”という言葉に逃げない、強靭なロマンチック描写

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝
©2016「君の名は。」製作委員会

 ある日、なぜか突然入れ替わりが途絶えたことで、瀧は漠然とした風景の絵を頼りに三葉に会いに行く。そこで待ち受ける意外な真実から、物語にサスペンス要素が加わっていく。

 どうして、自分でもない人の気持ちになって涙を流すのか。瀧と三葉はある朝、鏡の前で理由も分からず涙する。これは作品を観て感情移入する我々の気持ちに近いのかも知れない。フィクションに心の安らぎを求め、本来流すはずの涙を誰かの姿を借りて流す。人々が「泣ける映画」を求める理由はこういうところから来ているのだろうか。

 誰かを嫌いであることには理由がある。でも、好きになることにははっきりとした理由が見つからない時がある。上手く言い表せない時は“運命”という言葉に逃げる。でも、この作品は言葉で逃げようとしない。
瀧と三葉が互いに合いの手のようにセリフを挟み合う。そのポエトリーなセンスが全くクサくないのは、誰かの原風景のように一枚一枚の景色が美しく描かれているからだろう。

 新海誠監督の作品は空が印象的だ。雲の造形とそのコントラストが美しい。澄み切った空がすべてじゃない。雲が浮かんでないとその空の広さや高さが分からない。障害がないと希望も絶望も知らないのだ。
瀧と三葉が手繰る糸は絡まり合い、時に美しい形も無様な形にもなる。それが二人の涙となり、その涙が観る者の心を揺さぶってくる。誰をもポエマーにさせる威力を持つ。そして、鏡の中の自分を改めて見つめ直させてくれる。

たけうちんぐ 君の名は。 神木隆之介 上白石萌音 新海誠 東宝
©2016「君の名は。」製作委員会

 空に描かれる黄昏と、黒板に書かれた「誰そ彼」。それは「誰ですか、あなたは」という意味を持つ。
自分以上に他人のことを想うことや、他人以上に自分自身を知らないことがこの世にある限り、『君の名は。』は名前がまだ知られていない感情を、出会ってもいない感情を呼び覚ますように、いつまでも揺さぶり続けるだろう。

ストーリー

 千年ぶりとなる彗星の来訪を一ヶ月後に控えた日本で、田舎町に暮らす女子高生・三葉(声:上白石萌音)は都会に憧れを抱いていた。そんなある日、彼女は自分がなぜか男の子になる夢を見る。
一方、東京で暮らす男子高校生・瀧(声:神木隆之介)も、行ったこともない田舎町の女子高校生になる夢を見ていた。

 二人は所々で記憶が抜け落ちていることを知り、知らない間に誰かが自分の姿として生きていることに気づく。
「私/俺たち、入れ替わってる?!」
出会ったこともない相手と、互いに記憶を共有し合うために携帯に日記を付けることになる。時にケンカをして、時に励まし合って、出会ったことのないはずでも心を通わせていく。

 しかし、気持ちが打ち解けてきた矢先、突然入れ替わりが途絶えてしまう。三葉に会いに行こうとした瀧は、その旅先で思いがけない真実に直面してしまう-―。

8月26日(金)全国ロードショー

監督・脚本:新海誠
キャスト(声):神木隆之介、上白石萌音
配給:東宝
2016年/日本映画/106分
URL:「君の名は。」公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は《大竹しのぶが怪演!老人の金を狙う天才詐欺師が手に入れられなかったもの『後妻業の女』》です。

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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