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  • 2016.06.25

バンドをやればモテる…?「青春」すべてを封じ込めた音楽映画『シング・ストリート 未来へのうた』

14歳のコナーは家庭崩壊、不況、いじめの三重苦で冴えない日々を送っていた。そんなある日、テレビから流れてきた音楽に魅了され、モデル志望の女の子に恋をし、バンド結成を決意する——。『はじまりのうた』ジョン・カーニー監督の半自伝的青春映画。

たけうちんぐ シング・ストリート 未来へのうた ジョン・カーニー
©2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

 青春は美しいものばかりじゃない。いつも何かに悩み、苛立ち、嫌気がさしている。振り返ると身の毛もよだつ黒歴史がある。昔書いた日記は基本的に二度と読みたくない。

 14歳のコナーの青春はまさにそれ。世の中は不況の嵐で、家庭は崩壊し、学校ではいじめられる。理不尽な規則や暴力に抵抗し、どうしようもない運命を呪っていた。
そんな最低な日々でも唯一、輝きを止めないものがあった。それが彼にとって音楽であり、恋だった。
まるですべての“青春”を肯定するかのように、1980年代のブリティッシュ・サウンドの煌めきに満ちた青春映画の決定版が海の向こうからやって来る!

『ONCE ダブリンの街角で』、『はじまりのうた』で音楽映画の監督として立て続けに好評を得たジョン・カーニーが、さらなる音楽映画でとどめを刺す。
今まで以上に音楽に寄り添う、自身の青春時代を封じ込めた半自伝的作品が誕生した。
主人公の少年・コナーを演じるのは、アイルランド全土で半年間にも及ぶ数千人のオーディションから選ばれた、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ。彼をはじめ、強烈な個性を兼ね揃えたバンドメンバー全員が本作で長編デビューとなる。
ヒロイン・ラフィーナを『ミス・ポター』のルーシー・ボーイントンが演じ、初々しい面々が集うことで実体験に基づく青春映画に鮮やかな息吹をもたらす。
一言で言うと、全員冴えない。垢抜けていない。それが満たされない青春の描写に説得力を与えています。

ロンドンとの“距離”が生み出すコナーとラフィーナの想い

たけうちんぐ シング・ストリート 未来へのうた ジョン・カーニー
©2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

 青春のすべてを封じ込めるなら避けて通れない問題がある。それはイタさゆえのダサさ。
今でいう中二病的発想のオンパレードで、大人たちはそれを観て笑いながらも己自身の黒歴史を思い出すことになる。
好きな女の子を自分のバンドのミュージックビデオに出す、という暴挙はイタさを通り越して可愛らしい。

 1985年はMTVが生まれた年。ちょうど“MV元年”というべきかイメージビデオ風のミュージックビデオが流行り出した頃だという。
その初期衝動に乗っかり、好きな音楽に好きな子を絡めようとする中二的発想に鳥肌が立つ。でも、等身大よりも少し背伸びしているくらいがちょうどいい。
この世界から抜け出したい。今の自分に満足できない。それこそ青春時代にしか感じられない情熱なのだ。
コナーはもちろん、ラフィーナだって同じ。田舎町で80年代流行のメイクをばっちりキメて、物憂げそうに退屈な風景を見つめるのも結構イタいが、メイクが取れると等身大の10代の姿をしている。

 ロンドンではなく、舞台がアイルランドであることがコナーとラフィーナの想いを強くさせる。海の向こうに微かに見える世界に憧れ、その“距離”こそが本作の情熱を生み出している。
恋愛も同じ、簡単には手に入らないからこそ近づこうとする気持ちに拍車をかける。

「ロックをやるなら笑われる覚悟をしろ!」

たけうちんぐ シング・ストリート 未来へのうた ジョン・カーニー
©2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

 周囲から笑われたり、校長から怒られながら、デビッド・ボウイやザ・キュアーのロバート・スミスの髪型を真似る。
監督自身の実体験に基づいた1980年代のブリティッシュ・ロックの固有名詞を多用することで当時の臨場感が備わる。
それはフィクションとは思えない説得力があり、コナーを実在する身近な少年のように愛してしまう。

 コナーの唯一の理解者である兄は、ロックの先生のような役割を担う。そのセリフが心に残るはずだ。

「ロックをやるなら笑われる覚悟をしろ!」

 青春時代に一つや二つ、他人から理解されない情熱を周囲の目を気にして進めなかったり、あきらめたりした経験があるだろう。
が、コナーは一途に貫き通す。他人からバカにされても夢中で何かを追いかけ、強く愛したものだけが辿り着ける境地を描いている。

 アメリカのプロムを模したパーティーのギグが素晴らしい。
劇中バンドが登場する音楽映画は、決まって既存の有名アーティストの楽曲のほうが勝る。が、『シング・ストリート』の音楽はデュラン・デュランやザ・ジャム、ザ・キュアーらを掻き消すくらいに名曲揃い。
マルーン5のアダム・レヴィーンによるもので、中高生くらいの男の子たちにこんな音楽が作られるか? と、正直リアリティに欠けてしまう。
が、そこを多少犠牲にしても、青臭くてイタいコナーたちがまるで魔法をかけられたようにかっこよく見えてしまう瞬間がたまらないのです。

 何でも一途に突っ走るコナーを見て笑ってしまったら、もうすっかり大人になってしまった証なのでしょう。

 コナーは憧れのロンドンと、ラフィーナの心に辿り着けるのか?
音楽に限らず、すべての青春の初期衝動を思い出させてくれる。
たとえイタくてもダサくても、何かに夢中になることの素晴らしさをこの映画は教えてくれるはずです。

ストーリー

 1985年のアイルランド・ダブリン。大不況により父親が失業し、14歳の少年・コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は学費の節約のために転校を余儀なくされる。そこは、不良ばかりが集う荒れ果てた学校だった。
家では両親のケンカが絶えず、学校では不良に目を付けられていじめられる日々。唯一の心の拠り所は、テレビから流れてくる隣国ロンドンの音楽とそのミュージックビデオだった。
コナーはある日、街でモデル志望の女の子・ラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に出会う。大人びた美しさに一目惚れをしたコナーは、「僕のバンドのミュージックビデオに出ない?」と誘う。慌ててメンバーを集めてロックバンド『シング・ストリート』を結成した彼は、ラフィーナとともにロンドンの音楽シーンを驚かせるPV制作に励む――。

7月9日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント 他全国順次公開

監督:ジョン・カーニー
キャスト:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エイデン・ギレン、マリア・ドイル・ケネディ、ジャック・レイナー、ルーシー・ボーイントン
配給:ギャガ
原題:Sing Street/2015年/アイルランド・イギリス・アメリカ合作映画/106分
URL: 『シング・ストリート 未来へのうた』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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