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  • 2016.06.18

笑わない二階堂ふみが死んだはずの母と過ごす夏『ふきげんな過去』

毎日が死ぬほど退屈な女子高生・果子は母親・未来子と再会しても、図々しく居候する未来子に苛立ちを隠せない。だが、彼女の出現によって果子の夏が特別なものに変わっていく——。二階堂ふみ×小泉今日子が母娘を演じる、前田司郎監督の最新作。

たけうちんぐ 映画 ふきげんな過去 前田司郎 小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴
©2016「ふきげんな過去」製作委員会

「私があんたの本当の母親よ」
「あーやっぱり?」
「……えっ?」

 完全に冷え切っている。普通なら抱き合ったり泣き合うシーンになるはずが、絶妙な低い温度で交わす。
そもそも“普通”って何だろう。《女子高生のひと夏の冒険》と聞くと、友だちと旅行したり恋愛したりとキラキラしたものを想像する。
が、主人公・果子は違う。北品川の都会と下町を行ったり来たり。豆をむいたり。運河を眺め続けたり。爆弾を作ったり。……爆弾?!
日常と非日常が入り交じる、一風変わった“夏休み映画”がここにあります。

 劇団「五反田団」の主宰であり、『横道世之助』の脚本で知られる前田司郎が『ジ、エクストリーム、スキヤキ』に続く監督2作目を放つ。
『私の男』の二階堂ふみが終始冷めた目で物事を見つめる女子高生・果子を、『グーグーだって猫である』の小泉今日子が18年前に死んだはずの叔母(のちに果子の母親だと分かる)・未来子を演じる。
謎の男を高良健吾、過去の父親を板尾創路が演じ、冷めた人間模様と独特のセリフ回しでシュールに捻った世界観に誘われます。

「見えるものなんて見えてもしょうがない」

たけうちんぐ 映画 ふきげんな過去 前田司郎 小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴
©2016「ふきげんな過去」製作委員会

 果子(二階堂ふみ)が運河を見つめるのは、ここではないどこかへ流れていきたい心情ゆえか。
ずっとブスーッとしている。他人と同調しない。愛想笑いなんてしない。未来なんてたかが知れている。
「私には未来が見える」と言い放ち、何周かして可愛く思えてくる。

 とにかく冷めている。未来子(小泉今日子)が人間の本質的な孤独について遠い目をして語っても果子はキレるし、実の母と発覚して抱き合うはずの場面でもとんでもない言葉を投げつける。
この絶妙な交わし方がたまらない。家族で豆をむきながら会話するシーンも、カット割りが一切ないままに繰り広げられるセリフ回しのスピード感が物凄い。
一見何の変哲のない夏の風景でも、ほんの少しでも非日常が入ると劇的にその世界観は変わってしまう。

 本作には「見えるものなんて見えてもしょうがない」というセリフが何度か登場する。
果子と未来子は心を通わせないが、これが唯一共通する心情と言える。
二人とも退屈を打ち砕こうと、日常の中で刺激的な物語を模索する。
それはあながち特別でもなく、案外誰しもが心の奥底で望んでいることなのかもしれない。

ワニ、人さらい、爆弾…物騒な非日常が溶け込む

たけうちんぐ 映画 ふきげんな過去 前田司郎 小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴
©2016「ふきげんな過去」製作委員会

 突如として日常が壊れていく危うさはどこかファンタジックな匂いを漂わすが、魔法使いや奇想天外な生き物が出てくるわけではない。ワニ、人さらい、爆弾。出てくるものがすべて物騒だ。
サスペンス要素たっぷりなファンタジーでも、それがつまらない日常に刺激的な非日常として溶け込む。
現実から逃げ出したい果子は、そこに希望を見出す。

 本編中、果子は二回しか笑わない。
そのタイミングとなる笑いの沸点が一体どこなのか…母親との再会にも揺らがない果子のテンションが動く瞬間は見逃せない。
それは一言で言うと“毒”だ。他の作品が当たり前のように描く青春は、本当はもっと冷めているものかもしれない、と。

 これは絆を描いた作品ではない。
甘酸っぱい恋愛や固く結ばれた家族なんて、どこにでもあるわけではない。
そこに馴染めない人なら「つまらない」が口癖の果子の気持ちに寄り添い、笑いも泣きも強要しない毒味たっぷりな本作に心を通わせるはずです。

 果子(過去)と未来子(未来)がほんの少しでも気持ちを共有した瞬間、夏の景色ががらりと変わる。
終始冷めたムードでも、登場人物一人一人に人間味が溢れているのが本作の最大の魅力。
日常はそんなに熱くない。でも、温もりはどこかにある。
そこから果子の本当の意味での夏の冒険が始まるのかもしれない。

ストーリー

 北品川の運河をつまらなさそうに睨んでいる女子高生の果子(二階堂ふみ)は、毎日を死ぬほど退屈に思っている。そんなある日、果子たち家族の前に18年前に死んだはずの叔母・未来子(小泉今日子)が姿を現わす。
古びれた食堂を営む家族は未来子との再会に慌てふためくが、果子と小学生のいとこ・カナ(山田望叶)はともに冷めた目で見つめる。
過去に爆弾事件を起こしたことで前科となり、死んだはずだった未来子は果子の実の母であることを打ち明ける。
図々しく居候する未来子に苛立っていた果子だが、未来子との出会いがつまらない夏を少しずつ変えていくことになる――。

6月25日(土)テアトル新宿他全国ロードショー

監督・脚本:前田司郎
キャスト:小泉今日子、二階堂ふみ、高良健吾、山田望叶、兵藤公美 山田裕貴
配給:東京テアトル(創立70周年記念作品)
2016年/日本映画/120分

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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