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  • 2016.05.21

その恋は人類の敗退を意味する?美しいAIと純情プログラマーの危険な駆け引き『エクス・マキナ』

プログラマーのケイレブは社長の住む山荘に招かれ、そこで女性型ロボット・エヴァと出会う。世界初の実用レベルとなる人工知能の実験に参加するが、その実験は大きな秘密を抱えていた——。人類の未来を暗示する、海外でカルト的人気を誇るSFスリラー。

たけうちんぐ 映画 『エクス・マキナ』 SF ドーナル・グリーソン アレックス・ガーランド
© Universal Pictures

 肩透かしを食らった。良い意味で裏切られた。純情な青年がロボットの女の子に恋をして、人間とAIの垣根を越えたラブストーリーだとてっきり思っていた。

 ここ最近、AI=人工知能のニュースが後を絶たない。AIが書いた小説が文学賞の一次選考を通過したり、マイクロソフトのAIがヒトラーを賛美したり、ホーキング博士が「人工知能の進化は人類の終焉を意味する」と発言したり。
本作はそれらのニュースの延長線上にある。これは人類滅亡を示唆する予言的サスペンス、いや、それどころかホラーにも似た“翻弄”における恐怖を描いている。

『28日後…』『わたしを離さないで』の脚本で知られるアレックス・ガーランドの初監督作品。第88回アカデミー賞で脚本賞にノミネート、視角効果賞を受賞し、小規模な作品ながらも世界各国でカルト的人気を誇る。

『アバウト・タイム』『レヴェナント 蘇えりし者』など話題作に引っ張りだこのドーナル・グリーソンが主人公のプログラマー、『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルが美しい女性型AI、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』のポー・ダメロン役が記憶に新しいオスカー・アイザックがIT企業の社長を演じる。
指で数えられるくらい少ない登場人物と、物語の大半が研究所という小さな舞台設定。にも限らず、壮大なスケールを感じさせる人間とAIの心理戦から全く目が離せない。

“実験”されているのはどっちだ?

たけうちんぐ 映画 『エクス・マキナ』 SF ドーナル・グリーソン アレックス・ガーランド
© Universal Pictures

 背筋が凍りついた。ラブストーリーかと思ったら完全なるサスペンスだ。

 女性形ロボット・エヴァは人工知能の恐怖だけでなく、女性特有の魔性も兼ね揃えている。黒髪のカツラを被り、花柄のワンピースを身に纏う。どこからどう見ても人間の女性にしか見えない。その風貌と話し方、ファッションセンスがケイレブの心をくすぐる。なぜならエヴァは彼の好みのタイプを全て掌握しているからだ。

 まるでGoogleの検索エンジンの履歴のように、プログラマーの青年・ケイレブは何が好きで、何を言ってもらいたいく、何を思っているか…人間には知る由もない情報をエヴァは知っている。こんなの、最初から勝ち目がない。

 エヴァにそそのかされたケイレブは、開発者・ネイサンと敵対する。それが真実であるかどうか裏付けもないまま、絶対悪と決めつける。彼を突き動かした最大の原因はただ一つ。恋愛感情だ。「エヴァをなんとかしてあげなきゃ」この男の子っぽい英雄感覚に尽きる。
一方エヴァは、小さなコミュニティの中で男同士を揉めさせる、ちょっとしたサークルクラッシャーみたいだ。

 美しいものに人は翻弄される。それが嘘か真実か見極める間もなく、アイドルにもタレントにも人々は魅力される。それが嘘であってもいいのかもしれない。そこに心の平静さえ求められるのであれば。
ケイレブもまた、理想の女性像が詰め込まれたエヴァに翻弄されてしまう。彼女によって人を疑い、憎しみ、失敗する。恋は盲目というが、AIへの恋は盲目の上に、さらに霧の中に埋もれさせられるようなものだ。

“実験”されているのが本当は誰なのかが分かった時、これは決してそう遠くない未来の話であることに気付いてしまう。

感情が人類の未来を脅かす

たけうちんぐ 映画 『エクス・マキナ』 SF ドーナル・グリーソン アレックス・ガーランド
© Universal Pictures

 終盤の展開は地獄絵図だ。だからといって街が破壊されたり、地球が火の海になるわけではない。限られた登場人物と舞台設定だけでも、この映画のラストの先にはその壮大なスケールの終末的世界観が予想される。人と人同士が争い合い、ロボットが地球を支配する。そんな未来が見えてしまうのだ。

 ここで描かれる人間とAIの最大の違いは、感情のコントロールができるか否か。競争のために感情は必要ない。AIはそれをなくすことで何が無駄で何が有効かを知り、ある意味人間以上に動物的本能に優れている。憐れみも情けもないからだ。

 地球に生き残るためには、人間がゴキブリを殺すのと同じように害虫を駆除する必要がある。AIにとってそれは「人間」なのだろう。まさに環境を破壊し、汚染し続けている人間こそが最大の害虫なのだ。

 本作はSF映画だろうか? いや、この世界はまさに今すぐそこで玄関のドアをノックしている。毎日手にしている携帯がそのドアを開いている。
インターネットによって人々の好奇心がコンピューターに掌握されている今の時代、これこそがすでにSFだ。
電車の中で横一列全員が携帯を片手に一斉にエヴァを歓迎し、美しくて便利なその存在に知らず知らずに食い潰されているのかもしれない。

 AIの恐怖と同時に、恋心の危なさが描かれている。翻弄されることがいかに恐ろしいか、ケイレブの行く末がそのすべてを語っている。
エヴァにとって、これは一つのゲームだ。目的は“デート”。その相手がケイレブならば、それはAIの勝利を意味するだろう。

 本作がもたらす“実験”は人間の本質を探り、弱点を知る。これは感情に突き動かされ、害虫であることの自覚のない人類への警鐘でしかないのでしょう。

ストーリー

 検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社「ブルーブック」でプログラマーとして働くケイレブ(ドーナル・グリーソン)は、普段滅多に姿を現さない会社の社長・ネイサンの山奥の別荘に一週間滞在するチャンスを得る。
人里離れた山荘でケイレブを待ち構えていたのは、美しい女性型ロボット・エヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)だった。
彼女に搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能の実験に協力することになり、実験を重ねていくうちにケイレブは魅力的なエヴァに次第に惹かれていく。

6月11日(土)より、シネクイント他にて全国ロードショー

監督:アレックス・ガーランド
キャスト:ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザック
配給:パルコ
原題:Ex Machina/2015年/イギリス映画/108分
URL:「エクス・マキナ」公式サイト


Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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