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  • 2016.03.29

岩井俊二監督×黒木華!嘘に溢れた現代で騙されながら生きる幸せ『リップヴァンウィンクルの花嫁』

七海はSNSで知り合った鉄也と結婚することになり、結婚式の代理出席をなんでも屋の安室に依頼する。やがて鉄也の浮気が発覚するが、逆に浮気の罪を被せられ、七海は家を追い出されることに——。岩井俊二監督が約12年ぶりに手がける長編実写作品。

たけうちんぐ 映画 岩井俊二 黒木華 綾野剛 Cocco 原日出子 地曵豪 リップヴァンウィンクルの花嫁 代理 結婚 浮気 嘘 SNS
©RVWフィルムパートナーズ

「嘘つきは泥棒の始まり」

  そんなことを親や先生に教えられて、幼い頃は嘘をつかず正直に生きようなんてことも思っていた。
なのに、大人になると嘘まみれ。怒っていても笑顔で取り繕い、嫌っていても「いいね!」を押す。四方八方見渡しても誰かが本音を隠し、誰かが誰かを欺く。まぁ別にそれでいいや、と諦めている。

 それでも、そこで幸せを感じることは確実にある。嘘の中で本当の気持ちに気づくことだってある。そんな嘘に溢れた現代で健気に生きる女性の、寓話とも現実とも受け取れる“嘘のような”物語です。

『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した黒木華を主演に迎え、『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』などの岩井俊二が約12年ぶりに長編実写作品のメガホンを取る。

 ただでさえ最強なこのタッグに加え、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、りりィなどといった個性的な面々が名を連ねる。まるで実在する人物のようにその世界に溶け込み、役者のセリフもセリフと感じさせない自然な喋り方の演出がさすが。
アッと驚くカメオ出演も見所の一つで、意外な有名人があらゆるシーンに登場するのも見逃せません。

まるで鏡を見てるような七海の“喜怒哀楽”

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©RVWフィルムパートナーズ

 黒木華の魅力が眩しい。一見どこにでもいそうな出で立ちなのに、それだからこそ現代に生きる普遍的な女性を体現しているようにスクリーンに映る。

 とにかく残酷な話だ。声が小さくて、人の群れに馴染めない。目立つことを恐れて、陰でひっそりと生きている。このような害が一つもない女性に、ここまでの仕打ちがあっていいものか。
浮気の濡れ衣を着せられて行く宛もなく彷徨い、心苦しくてもがく姿が痛々しい。七海は鳥かごの中で、かごを揺らされる鳥のように、安室の手によっていとも簡単に喜怒哀楽を操られ、人生の天と地の津々浦々をさまよう。

 七海がひたすら可哀想だ。でもそのせいか、観客との心の距離が近くなる。彼女が泣けば自然とこちらも目が潤み、笑うと思わず顔が綻ぶ。まるで鏡を見ているように共感し、心の底から応援したくなる。

 鉄也の浮気を知った時の「あちゃ~」や、自分を裏切った者に対する「ちくしょ~」といったセリフがなんとも愛おしく、その親しみやすさで重苦しいムードから逃れ、全編を温かい雰囲気が包み込む。
これまでに様々な女優を魅力的に描いてきた岩井俊二監督が選んだだけある、黒木華の唯一無二の逸材っぷりが本作でたっぷり堪能できる。

たとえ嘘でも幸せを感じたならそれでいい?

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©RVWフィルムパートナーズ

 興味深いのは安室のキャラクターだ。ひたすら人を欺く。憎めない人あたりの良さでいとも簡単に騙す。
七海はその嘘を知らない。絶望と幸福を行き来し、常に安室に翻弄される。それでも彼のおかげで、“嘘”の姉役・真白と出会い、人との繋がりに温もりを感じる。

 安室が仕切る結婚式の代理出席もまさに嘘が作り出した幸せで、バイトで出席する人も新郎新婦本人も、誰も不幸にならない。
安室のキャラクターは、まるで現代におけるSNSが果たす役割を具現化しているように感じられる。

 七海があっさり手に入れた結婚のように、SNSを使えば手取り早く幸せを掴むことができる。だが、その幸せには実態がない。いくらでも取り繕える文字や写真だけで構成されたものが、現代人の心の拠り所の象徴にも見えてくる。
それでも幸せを感じるなら、まぁ別にそれでいい。そんな本音を、結婚式の代理出席で七海の父親役を演じるおじさんがふと口走る。

「なんだか不思議なもので、本当の家族のように思えてきました」

 代理出席で出会った“嘘”の家族と仲睦まじく飲み、その満面の笑みに何の偽りがあるのか。嘘だと分かっていても、そこに幸福を感じることができたらそれでいいのかもしれない。
騙されながらも幸せに気づく七海の姿が、現代に生きる我々を励ましてくれるかのように健気に映るのです。

 よく映画で描かれる“真実の愛”というものに憧れるけど、現実は皆どこか本当の気持ちを隠しがちで、仮面を付けて日々をやり過ごす。真実の愛なんてフィクションの中だけに存在し、それこそ人を欺いているように思える。

 ここで描かれる“花嫁”が得る愛のほうがよっぽど現実的で、だからこそその笑顔に救われる。
たとえ嘘であっても、幸せになってほしい人が笑ってくれたらそれで十分なのかもしれません。

ストーリー

 東京で派遣教員をしている七海(黒木華)はSNSでいとも簡単に見つけた鉄也(地曵豪)と結婚することに。式に出席してくれる友人が少ないことから、七海はSNSがきっかけで知った「なんでも屋」の安室(綾野剛)に代理出席を依頼する。
やがて新婚早々、鉄也の浮気が彼の浮気相手の夫と名乗る者から知らされるが、逆に鉄也の母・カヤ子(原日出子)に浮気の罪を被せられ、家を追い出されてしまうことになる。

 行き場のなくなった七海に、安室は結婚式の代理出席のバイトを斡旋する。そこで知り合った“嘘”の家族の姉役・真白(Cocco)と仲良くなり、その後、安室に紹介された大屋敷の住み込みメイドの仕事でも一緒になる。
七海と真白の二人の奇妙な共同生活が始まるが、役者の仕事に情熱を燃やす真白は体調が優れず、日に日に痩せこけていく――。

全国公開中!

監督・脚本・原作:岩井俊二
キャスト:黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪
配給:東映
原作/ 岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)
2016年/日本映画/180分
公式サイト:『リップヴァンウィンクルの花嫁』

Text/たけうちんぐ


ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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