• love
  • 2016.03.23

世界で初めて性別適合手術を受けた画家とその妻が愛した『リリーのすべて』

風景画家のアイナーは肖像画家の妻・ゲルダに頼まれ、女性モデルの代役をしたことを機に、自分の内側に潜む女性・リリーの存在に気づく——。本年度アカデミー賞助演女優賞を受賞! 実話に基づく、揺るぎない愛を描いたラブストーリー。

たけうちんぐ 映画 リリーのすべて エディ・レッドメイン トム・フーパー
©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 今の自分が本当の姿だと言い切れるなら、なんて幸せなことだろう。多くの人は理想と現実のギャップに苦しみ、その壁を乗り越えようと必死にもがく。

 アイナーはリリーになる決心をした。ゲルダは夫がリリーとして生きることを受け止め、生涯の愛を誓った。その壁は並大抵のものじゃない。誰もが経験したことのない決断を、二人は多くのリスクを抱えながら挑んだ。
世界で初めて性別適合手術を受けた“リリー”とその妻・ゲルダの、愛と勇気の物語です。

『博士と彼女のセオリー』でアカデミー賞主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインが主人公・リリーを演じ、その妻・ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルが本作で本年度アカデミー賞助演女優賞を受賞。
さらに監督は『英国王のスピーチ』でアカデミー賞4部門を受賞したトム・フーパーという、近年のアカデミー賞を賑わしている才能が揃い踏み。
実在したデンマーク人画家リリー・エルベの“すべて”を繊細なタッチで描き切り、80年の時を経て現代に生きる我々の心に訴えかけてきます。

“目覚めた”ではなく“気づいた”からはじまる勇気の物語

たけうちんぐ 映画 リリーのすべて エディ・レッドメイン トム・フーパー
©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 アイナーが“リリー”の存在に気づく瞬間に息を飲む。
女性モデルの代役を任され、しぶしぶとストッキングと靴を履き、白いチュチュを腰に当てる。最初は気恥ずかしさで苦笑いさえ浮かべるが、足にチュチュの柔らかい感触がまとわりつくうちに今までに感じたことのない恍惚感が彼が襲う。それが一体何なのか分からないまま――。

 急に“目覚めた”わけではなく、“気づいた”のだ。その瞬間が訪れるまで、カメラはどこかアイナーの視点に身を寄せている。女性を見る“目”に潜在的な羨望が感じ取れる。

 元々華奢で線が細いアイナーだが、その仕草や目の動きからすでにリリーの側面を匂わせるシーンが多々ある。それがすべて繊細に描かれるからこそ、リリーの性別適合手術への決断がより力強く、“勇気”の物語として胸を打たれる。

 だが、その物語はリリーだけじゃない。“彼”から“彼女”へ移りゆく夫の姿を見守る妻・ゲルダの変わらない勇気こそが、本作が描く愛の真髄と言える。

   

妻・ゲルダの揺るぎない愛が美しい

   
たけうちんぐ 映画 リリーのすべて エディ・レッドメイン トム・フーパー
©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

「私は狂っていると思う?」「狂ってないわ」

 自分に起きていることに悩み苦しむアイナーに、ゲルダはきっぱりと答える。リリーとして生きようとする夫を理解し、献身的に婦人科クリニックを探したり、リリーとしての人生を与えるにはどうすればいいか? という課題に果敢に取り組み出す。

 リリーの誕生は、かつて愛した夫・アイナーが消し去られることを意味する。その事実を飲み込み、涙を隠し、愛そうとするゲルダの勇気はただものじゃないと思ってしまう。

 しかし、ゲルダが愛を貫く理由は、アイナーとリリーに“本質的な違い”がないからというシンプルなものかもしれない。
ゲルダが愛したのは夫としてのアイナーではなく、リリーという誰よりも大切な人。そのすべてを愛した。

 二人で描いてきた風景を慈しむかのように、ゲルダがその風景の中で佇む。二人の勇気の結晶が映し出されるそのシーンが、まるで絵を描き残すかのように記憶の中に深く刻まれるのです。

 これは自分が自分らしく生きるために、自らのアイデンティティーを勝ち取るお話です。それは性別やセクシュアリティだけではなく、理想と現実のギャップに苦しむ人の心に普遍的に訴えかけ、リリーのように生きたいと願うことでしょう。
そしてゲルダの愛する人の本質を見つめ続け、懸命に寄り添う勇気に、誰もが胸を打たれるはずです。

あらすじ

 1926年のデンマーク。風景画家・アイナー(エディ・レッドメイン)は肖像画家の妻・ゲルダに女性モデルの代役を頼まれる。その際に、自分の内側にある女性・リリーの存在に気づく。
それ以来、生活の中でリリーとしての感情が溢れ、心と体の不一致に苦悩し続けるアイナー。やがて女性として生きることを決心し、ゲルダにそれを打ち明ける。
当初は困惑していたゲルダだが、夫の本質的な姿に理解を深め、“リリー”とともに人生を歩もうと決意する――。

 
全国公開中!

監督:トム・フーパー
キャスト:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、ベン・ウィショー、アンバー・ハード、マティアス・スーナールツ 他
配給:東宝東和
レイティング:R15+
原題:The Danish Girl/2015年/イギリス映画/120分
公式サイト:『リリーのすべて』

Text/たけうちんぐ

関連キーワード

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

今月の特集

AMのこぼれ話