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  • 2015.09.15

たった3ヶ月で1600kmを歩いた女性の実話!絶望から逃れるための「自分探しの旅」に終わりはあるのか?『わたしに会うまでの1600キロ』

最愛の母の死と、自暴自棄の末の離婚。その現実から逃避するために始めた1600キロの旅に、本当の《わたし》はいるのか——ベストセラーの自伝をリース・ウィザースプーン主演で映画化

 嫌なことを忘れる時ってだいたい酒に走るか、友達と遊ぶか、旅に出るか。
それでもふとした瞬間に記憶が蘇り、「あーーーっ!」ってなることがある。誰かがたまたま放った言葉や、誰かの顔が忘れたいあの人の顔に見えたり。トラウマ再生装置が街の至る場所にあり、現実逃避ってなかなか難しい。

 今作の主人公、シェリルなんて1600キロの自然道を歩いているのに、そう簡単に現実から抜け出せない。結局、どこに抜け道があるのか。これは無謀な旅に出る突飛な女性の話ではなく、誰もが抱える《人生の迷路》のお話です。

たけうちんぐ わたしに会うまでの1600キロ 映画
( c )2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 オスカー女優にして『ゴーン・ガール』などを世に送り出した名プロデューサーでもある、リース・ウィザースプーンが1600キロの距離を3ヶ月かけて歩き通した女性を演じます。原作はシェリル・ストレイドのベストセラーの自伝で、現在までに30カ国以上に翻訳されているんです。

 監督は『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ、脚本は『17歳の肖像』『アバウト・ア・ボーイ』のニック・ホーンヴィが担当。苦しい現実から逃れるため旅に出る女性の道程に、過去の経緯をフラッシュバックさせ、一人の女性の人生そのものを炙り出す。とはいえあまり重々しくならないテンポの良い編集のおかげで、絶妙なバランス感覚の作品仕に上がっています。

【簡単なあらすじ】

 1600キロのパシフィック・クレスト・トレイルの旅に出る前、シェリル(リース・ウィザースプーン)は最低な日々を送っていた。母・ボビー(ローラ・ダーン)をガンで亡くし、その孤独感から自暴自棄になって優しい夫・ポール(トーマス・サドスキー)を不倫やクスリで裏切るような行為を続けていた。

 ついに結婚生活が破綻し、シェリルは人生の再出発のために旅を決意。しかし、スタート間もなく「行くんじゃなかった」と後悔する。極寒の雪山、酷暑の砂漠、尽きる食料に、明日への不安。過酷な状況の中でも過去の記憶が蘇り、母との思い出、夫への反省の念がシェリルに歩み寄る。果たして、彼女はこの旅に出口を見つけることができるのかーー。

最初は感じ悪い女だと思っていたのに……。

 ロードムービーなんて山ほどある。だいたいは目的や行き先が決まっていて、そこにたどり着くまでの過程が描かれる。だが、この映画にはそれがない。さらに言うと、旅を始めてすぐに「バカなことをした」と後悔する。もっと言うと、オープニングから靴を岩山から投げ出す……ってマジかよ、おい!(笑)

 1600キロの1キロを歩いた時点でくたばるシェリル。ここで彼女がどこにでもいる普通の女性であることが分かる。何のトレーニングもせず、経験もない。衝動的に現実から抜け出そうとする姿に、観る者誰もが「何があったの?」と興味が湧く。

 自分の身丈より大きなバックを背負うと、そのままのけぞって後ろに倒れてしまう。「バカなことをした」と旅を後悔する彼女に、観る者も「バカすぎる」と笑ってしまう。しかし、そこからフラッシュバックする過去が全く笑えない。シェリルがいかに母を想い、心の拠り所にしていたか。そして母を亡くした喪失感が、いかに苦しいものか。

たけうちんぐ わたしに会うまでの1600キロ 映画
( c )2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 正直、映画の序盤でのシェリルの好感度が悪すぎた。夫は裏切るし、自分勝手だし。それでも、物語が進むにつれてどんどん感情移入し、最終的には好きになってしまう。

本当の《わたし》なんかいない。新しい《わたし》だけがいる。

 1600キロなんて過去を忘れるには十分な距離に思えるが、シェリルは結局過去から抜け出せない。

 現実逃避するつもりが現実に直面し、旅のふとした瞬間に思い出が蘇る。夫と同じ柄を彫ったタトゥーで結婚生活を思い出し、突然現れた狐に「行かないで!」と叫ぶと亡き母を思い出す。
つまるところ、現実逃避なんてこの世に存在しないのかもしれない。

たけうちんぐ わたしに会うまでの1600キロ 映画
( c )2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 しかし、この距離が立証するかのごとく、出口のない旅がある一つの明確な答えにたどり着く。《人生そのものが旅》である。

 本当の《わたし》なんか見つからないし、もうそれでいい。ただ、そこで新しい《わたし》を見つけられるのかも知れない。

 今作は、決して「私も旅に出よう」と無謀な旅を促す物語ではありません。
この先ずっと行く宛のない逃避行を続けるのなら、まずこの映画を見てあなたが何から逃げようとしているのかしっかりと向き合ってみませんか。


8月28日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

監督:ジャン=マルク・バレ
キャスト:リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン、トーマス・サドスキー、ミキール・ハースマン、ギャビー・ホフマン
配給:20世紀フォックス映画
原題:Wild/2014年/アメリカ映画/116分
( c )2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
URL:『わたしに会うまでの1600キロ』

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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