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  • 2015.07.10

不倫を繰り返すエロい人妻と不倫を監視する隣人…『ボヴァリー夫人とパン屋』

ノルマンディーの小さな村でパン屋を営む文学好きの中年・マルタンの隣に、彼が愛する小説『ボヴァリー夫人』と同じ名前の若妻・ボヴァリー夫人が住み始める。若い男と不倫をする彼女に、マルタンは小説さながらの物語を妄想していく——女性監督が官能的に描く、ブラックユーモアに溢れたフランス映画

 不倫愛を描いた映画は山ほどある。
しかし、本作はその数多くある作品とは全く違う。なぜなら、結婚しても満足できず、新たな愛を探すボヴァリー夫人に一抹の不安を覚え、“監視”を続ける文学好きの中年・マルタンの存在があるからだ。

 インテリ中年男の妄想と、不倫愛を続ける若妻の現実。この二つがファンタジックに交差し、なんとも黒い笑いに満ち溢れた作品になっている。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋
(C) 2014 - Albertine Productions - Cine-@ - Gaumont - Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

『ココ・アヴァン・シャネル』などフランスで活躍する、アンヌ・フォンティーヌ監督が、名作『ボヴァリー夫人』をモチーフにした絵本作家ポージー・シモンズのグラフィック・ノベルを映画化。

 監督した前作『美しい絵の崩壊』では、年の離れた若い男から愛される女性の戸惑いを、女性監督ならではの感性で描いたが、本作は、中年男の完全なる一人称の視点。

 主人公を演じるのは、エリック・ロメール監督作品常連の名優、ファブリス・ルキーニ。
インテリでチャーミングな瞳のせいか、その語り口はユーモラス。彼が妄想に囚われる官能的な若妻・ボヴァリーをジェマ・アータートンが演じ、二人の対照的なキャラクターがとんでもない展開に巻き込んでいきます。

【簡単なあらすじ】

 長年勤めていた出版社を辞めて故郷の村である、フランス西部・ノルマンディーに戻り、父の遺したパン屋を継いだマルタン(ファブリス・ルキーニ)。彼は、家族とともに平穏な日々を送れると思っていた。

 しかし、彼の隣に引っ越してきたイギリス人のボヴァリー(ジェマ・アータートン)とその夫がそうはさせない。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋
(C) 2014 - Albertine Productions - Cine-@ - Gaumont - Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

 マルタンが愛読するギュスターヴ・フローベールの名作『ボヴァリー夫人』の世界とボヴァリーの人生を重ねてしまい、小説と同じように若い男と不倫をする彼女がやがて自殺するのではないかと恐れ、“監視”を始める。

 だが、現実は、マルタンの妄想とはかけ離れた展開に。果たしてリアル・ボヴァリー夫人の行く末はいかにーー。

中年男の妄想 VS 不倫女の現実

 フランス映画と聞くと、美しい情景と高貴なキャラクターを思い浮かべる。が、本作は、残念ながら良い意味で期待を裏切ってくる。

 若妻を“監視”するマルタンは、はっきり言ってしまえば、ただの変態。
といっても気持ち悪さはない。奥さんと息子に若干飽きられながら、好きな小説と現実の女性を重ね合わせてしまう、そんな中年男の姿がどこか愛おしい。まるで十代の少年のようにボヴァリーを見続け、その官能的な魅力に囚われる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋
(C) 2014 - Albertine Productions - Cine-@ - Gaumont - Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

 監視=凶器じみたキャラクターを想像するが、彼の語り口は優しい。
なぜなら、彼は、彼女の人生が素晴らしいものになるよう願っているからだ。決して『ボヴァリー夫人』のように服毒自殺する結末を求めていない。
だからこそ、穏やかな性格のマルタンが、ボヴァリーがネズミを退治するための薬品を買おうとすると、言葉を荒くして止めに入る。その様子が、とても微笑ましいのだ。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋
(C) 2014 - Albertine Productions - Cine-@ - Gaumont - Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

 少しでも小説に近づかせないようにするマルタンと、小説を読んだことがないボヴァリー。
この二人の心のすれ違いが、ブラックユーモアを交えつつ、おもしろおかしく描かれ、「男の妄想がいかに愛に生きる女の現実と噛み合わないか」力説されているように感じる。

“フランス版ウディ・アレン”と呼べる、シニカルな結末とは

 マルタンの想像とはかけ離れて、ボヴァリーはただ愛を欲している。絶望に打ちひしがれることもなく、ひたすら優雅に新しい愛を求めている。それはアバズレ女としてではなく、純粋な愛の衝動として。

 彼女が自殺するか否か。それはマルタンの妄想通りになるか否かであるが、「事実は小説よりも奇なり」。
まさにこの言葉が該当し、誰もが驚く結末が待ち構えている。条件や環境が整ったせいで男の妄想はますます肥大し、黒い笑いに溢れた結末に度肝を抜く。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ボヴァリー夫人とパン屋
(C) 2014 - Albertine Productions - Cine-@ - Gaumont - Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

 乱暴に言い表すと“フランス版ウディ・アレン”
妄想も想像も遥かに越えたシニカルな展開に、ため息まじりに笑うしかない。

 ボヴァリーと同じく、マルタンも心のどこかで愛を求めているのかも知れない。
平穏な日々は素晴らしいように見えて、とても退屈。誰でも生活の中に小説のようなドラマを求める。

 しかし、小説のような切なくて甘い恋物語を期待すると、マルタンのように壮絶な最後を迎えてしまうのかもしれません。


7月上旬、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

監督:アンヌ・フォンテーヌ
キャスト:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、ジェイソン・フレミング、ニール・シュナイダー、イザベル・カンディエ
配給:クロックワークス
原題:Gemma Bovery/2014年/フランス映画/99分
(C) 2014 - Albertine Productions - Cine-@ - Gaumont - Cinefrance 1888 - France 2 Cinema - British Film Institute

Text/たけうちんぐ

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たけうちんぐ
ライター/映像作家

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