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  • 2015.06.27

新しい恋人を見つけた母は家を出て…愛を失った家族の“再生”の物語『ハッピーエンドが書けるまで』

離婚した一家で、母不在の食卓を囲む3人。母に未練がある父、愛の存在を疑う娘、意中の女の子に告白できない息子が、それぞれの一歩を踏み出していく——『きっと、星のせいじゃない。』で一躍脚光を浴びたジョシュ・ブーン監督のデビュー作

 ハッピーエンドって現実にはあるのでしょうか。
映画は都合の良いタイミングで終わるけど、現実はそうはいかない。結婚で終わると幸せの絶頂で締められる。でも、現実は続いていく。
この映画で描かれる夫婦だって幸せの時はあった。が、そんなハッピーエンドの後、離婚という変化が訪れる。

 そんな“ハッピーエンド、その後”でも、人生は書き換えられる?
失い、疑い、恐れる、家族の“再生”を描いた物語です。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リリー・コリンズ ジェニファー・コネリー ナット・ウルフ ハッピーエンドが書けるまで
(C) 2012 Writers the Movie,LLC12

『きっと、星のせいじゃない。』のジョシュ・ブーン監督の長編デビュー作にして、自伝的作品。
両親が離婚した彼自身の経験が脚本に盛り込まれ、私小説的な説得力を帯びています。

 物語の舞台となる家族は、『恋愛小説家』『リトル・ミス・サンシャイン』のグレッグ・キニアが父親を、『あと1センチの恋』やミュージシャンのフィル・コリンズの実娘で知られるリリー・コリンズが娘を、ナット・ウルフが息子を、そして離婚した母親をオスカー女優のジェニファー・コネリーが演じます。

【簡単なあらすじ】

 3年前に離婚した妻・エリカ(ジェニファー・コネリー)にいまだに未練があり、夫・ビル(グレッグ・キニア)は今でも彼女の家の周りをうろついて様子を伺っている。
大学生の娘・サマンサ(リリー・コリンズ)は新しい恋人を作った母を嫌い、3年もろくに口を聞かず、両親の離婚がきっかけで恋愛や結婚に対して疑いを持ち、他人とどこか心の距離を置くようになってしまった。

 また、息子・ラスティ(ナット・ウルフ)は学校で一人の女の子に恋をするが、臆病で気持ちを打ち明けられない。

 三者三様が“愛”について悩みを抱える家族だが、ある日勇気を出して一歩を踏み出した時に変化が訪れるーー。

リアリストの視点で描く、ロマンを求める家族の風景

 娘・サマンサの恋愛に対する見解があまりにネガティブで、彼女が吐き出すセリフが頭から離れない。

「人間は二種類。リアリストかロマンチスト。リアリストは意中の人をいい女の一人として見る。ロマンチストはその人が神の選んだ一人だと信じる。でも神なんかいない。女を抱けるのは、リアリストよ

 恋愛を重ねてきた人なら、誰でも彼女の意見に共感する部分があるかもしれないが、ここまでさっぱりとリアリストな人は少ないかもしれない。
両親の離婚を目の当たりにしてきたからこそ愛についてシビアで、人と距離を置く。その視点が本作で重要な役割を担い、彼女の冷静な助言で弟・ラスティは意中の女の子に一歩踏み出す。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リリー・コリンズ ジェニファー・コネリー ナット・ウルフ ハッピーエンドが書けるまで
(C) 2012 Writers the Movie,LLC12

 また、サマンサ自身も心から思いやる男の子が現れることで、少しずつ成長していく。

 父・ビルもまた別れた妻への未練をどう解消していくか。
有名な作家なのに、自分自身の物語は上手く描くことができない。しかし、次第に3年前からずっと停滞しているもどかしい姿から、“ハッピーエンド”に書き換えていく。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リリー・コリンズ ジェニファー・コネリー ナット・ウルフ ハッピーエンドが書けるまで
(C) 2012 Writers the Movie,LLC12

ハッピーエンドは現実でも起こりうる?

 サマンサが次第に心を打ち解けていく相手は、青年・ルイス。
ルイスが車中で何気なく「エリオット・スミス」の曲を流し、理由もなくサマンサが涙するシーンがある。

 エリオット・スミスもまた両親が離婚したミュージシャンであり、自ら選曲したジョシュ・ブーン監督自身が多感な時期に彼の音楽に身を寄せていたことが想像できる。
ある意味、サマンサもラスティも自身の青春時代を投影した人物だからこそ、まるで実在するようにリアルで体温を感じられる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リリー・コリンズ ジェニファー・コネリー ナット・ウルフ ハッピーエンドが書けるまで
(C) 2012 Writers the Movie,LLC12

 何より感動的なのは、監督自身の“ハッピーエンド、その後”の指標がきちんと示されていること。ラスティが憧れのスティーブン・キング(なんと本人出演!)と電話で会話するシーンがあるが、彼はジョシュ・ブーン自身の憧れの存在でもある。
そんな彼の次回作がスティーブン・キングの小説『ザ・スタンド』の映画化なのだから、物語だけでなく、たとえ愛を失い、疑い、恐れても、いつかハッピーエンド(に向かうまで)が書けることを現実でも証明してくれるのです。

 サマンサの冷めた視点から始まるのに、こんなに熱い気持ちにさせてくれるとは。
もし愛について悲しみに暮れていても、人と人が出会う限りその憂鬱は長くは続かない。この映画の登場人物とジュシュ・ブーン監督の人生が、観る人の背中をそっと押してくれることでしょう。


6月27日(土)、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

監督:ジョシュ・ブーン
キャスト:リリー・コリンズ、ローガン・ラーマン、グレッグ・キニア、ジェニファー・コネリー、ナット・ウルフ
配給:AMGエンタテインメント
原題:STUCK IN LOVE/2012年/アメリカ映画/97分
(C) 2012 Writers the Movie,LLC12

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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