愛する人の顔が思い出せない…若年性アルツハイマー病と向き合う一人の女性の決意『アリスのままで』

 今や、“思い出”は何でも記録として書き記される時代。
美味しいご飯も楽しかった旅行も、インスタグラムやFacebookで簡単に振り返られる。とはいえ、生活の全てをアップしたいとは思えない。胸に秘めた想いや大切にしたい思い出は、記憶にそっと閉じていたい。
しかし、それが許されない人たちがいる。

 愛する人の顔が思い出せない。言葉が出てこない。過去も現在も、ただ一瞬で過ぎ去っていく。
そんな若年性アルツハイマー病にかかった女性が、自分の人生とどう向き合うか。
“運命”について、作品の内と外から正々堂々と向き合った力強い作品が『アリスのままで』です。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと アリスのままで ジュリアン・ムーア ( c )2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

 本年度のアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞といった世界三大映画祭で主演女優賞を受賞したことで話題の本作は、主人公・アリスを演じるジュリアン・ムーアが圧倒的な存在感を放っています。

 しかし、それは彼女の演技力だけじゃなく、その姿を映し出した、他の誰でもない、監督のリチャード・グラッツァーがアリスの心境に寄り添っていたからでしょう。なぜなら彼自身もALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘病中で、過酷な運命と向き合っていました。
そして共同監督のウォッシュ・ウェストモアランドの力添えもあって、本作はムーアに念願の女優賞をもたらし、グラッツァーの輝くべき遺作になりました。

【簡単なあらすじ】

 ニューヨークのコロンビア大学で教鞭をとる言語学者・アリス(ジュリアン・ムーア)は50歳の誕生日を迎え、愛する夫・ジョン(アレック・ボールドウィン)と3人の子どもたちに祝福され、生活・仕事ともに順風満帆な日々を送っていた。

 ところが、思いもよらぬ病魔が彼女に歩み寄る。
日常で使っている言葉が出てこない。いつものランニングの道で迷ってしまう。息子の恋人の顔を忘れる。やがて神経科で脳の検査に訪れたアリスは、“若年性アルツハイマー病”と診断される。

 次々と記憶を失くしていくアリスは、「人生を捧げて作り上げてきたことが何もかも消える」とジョンに打ち明ける。
「何があっても僕がついている」と励まされ、家族の支えもあって病気と向き合っていく決意を固めていくーー。