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  • 2015.05.03

よしもとばなな同名小説を映画化!不倫の閉塞感から逃れるように眠り続ける女『白河夜船』

植物人間状態の妻を持つ岩永と不倫関係の寺子。大切な友人の死を告げられず、彼とはどうしようも進展できずに、変わらない日々を過ごしていく——。安藤サクラ×井浦新が、よしもとばななの同名小説を映画化。

 愛すれば愛するほど不毛な運命が待ち受けている。
そんな状況に直面したら現実逃避したい。それが眠ることで逃れられても、その夢から覚めた時はどんな感情に包まれるんだろう。本当に好きなら、一晩寝ても忘れない、夢から覚めることはないのに。

 不倫の行く末に何があるのか。このカップルの“夢”はぼんやりと蜃気楼のごとく掴めない。そんな閉塞感に似た堕落と葛藤の日々が、この映画には詰まっています。

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©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員

 よしもとばななが1989年に発表した同名小説を、俳優や女優の写真を多く手がけるフォトグラファー・若木信吾監督が映画化。
『百円の恋』の演技で日本映画界の賞賛を浴びた安藤サクラが主演を務め、『かぞくのくに』で安藤と兄妹役を演じた井浦新が、今度は不倫カップルの相手役で再共演しています。

 ここで描かれているのは愛することの痛々しいまでの切なさと、ほんの僅かな喜び。監督自身が撮影を担い、被写体に限界まで迫ることで、主人公と観客の心の境界線を失わせます。


なぜ彼女は眠ることを選んだのか?


【簡単なあらすじ】
 植物人間状態の妻を持つ岩永(井浦新)と不倫の交際を続ける寺子(安藤サクラ)は、仕事もろくにせず、毎日家で眠り続け、彼からの電話を待つ。

 ある日、寺子の親しい友人・しおり(谷村美月)が死んでしまう。どんなことでも話せた友人の死を、なぜか岩永に告げることができず、彼女との日々を思い出すたびに寺子はますます眠ることが増え、次第に夢と現実の境目で彷徨い続ける。
しまいには岩永からの電話にも気付かなくなり、深い眠りに陥っていく――。


無感情を抱く主人公の深い眠り


 眠くなる映画だ。と言うと語弊を生むが、α波のような心地よい眠気が全編を包み込んでいる。それだけ主人公の目線を共有し、彼女の見る“夢”の中へ誘われる。

 まるで寺子の重たい瞼のように、渋谷の街並みも、部屋の中も、どことなく閉塞感が漂っている。目を閉じても岩永の姿が浮かび、不倫という発展のない恋心の切なさが身にしみてくる。

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©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員

 何度も身体を重ねる二人。身も心も預けるように岩永を愛する寺子だが、本質的な部分を捧げられていない。誰よりも仲が良いしおりの死が告げられず、何かに取り憑かれたように深い眠りに陥る姿が悲しさも、切なさも、嬉しさも感じない。無感情が彼女をまとっている。そんな空虚な雰囲気が独特でクセになる。

 下着姿で、時折上半身裸で、自然に佇む安藤サクラの演技力を信じきった演出で、思わず「目が離せないのに微睡みたくなる」という不思議な感覚に陥ってしまう。


     

“夢”から覚めない女の倦怠感とは


 平日の昼間に目覚めてしまった時の後ろめたさにも似た不倫が、誰を傷つけるわけでもなく、心を痛めることでもなく、ただ時間だけを蝕んでいく。寝たきり状態の岩永の妻の身代わりになるように、寺子は深い眠りから覚めない。

“夢”という言葉が二つの意味を抱えるように、寺子は夢の中で岩永との夢を見る。布団の中で恋人からの電話に目覚めるが、まだ“夢の中”にいる。全編ライカカメラで撮影されたという柔らかな映像もあいまって、寺子の倦怠感を観る側も共有する。

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© GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 © UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014

 なぜ彼女は眠ることを選んだのか?しおりも、岩永の妻も、行方知れずの愛も、解決できない全てから逃れるためだろうか?

 その眠りに薄っすらと“死”が思い浮かぶ。とはいえ絶望には至っていない。そんな柔らかな“自殺”が、彼女の倦怠感を逐一リセットしているかのようです。


愛に後ろめたさと倦怠感を感じたら?


 その愛に後ろめたさと、限りない倦怠感を感じたら?
映画が終わってもまだ彼女の夢の中にいるような、劇場を出て外の光に立ち眩むような、限りなく現実的なのに幻想感のある時間を過ごすことでしょう。


絶賛公開中!

監督・撮影:若木信吾
原作:よしもとばなな
キャスト:安藤サクラ、谷村美月、高橋義明、紅甘、竹厚綾、伊沢麿紀、井浦新
配給:コピアポア・フィルム
2015年/日本映画/91分
URL:映画『白河夜船』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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