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  • 2015.05.01

全編セリフもBGMもなし!『ザ・トライブ』は一切言葉を発しない怒りと憎しみに満ちた愛を描く

聾唖者専門の寄宿学校に入学したセルゲイは、そこで犯罪グループ(ザ・トライブ)の洗礼を受ける。盗みや売春に加担していくうちに、彼は組織のリーダーの愛人・アナに惹かれ、執着していく——。世界各国の映画祭で大絶賛!ウクライナの新鋭監督が放つ「愛」と「憎しみ」の問題作。

  ガツンと頭を殴られるような衝撃が走る。予想を裏切る。言葉をなくす。実際、この映画に言葉はなく、字幕もない。映像のみを辿り、その怒涛の描写に目を覆いたくなる。

 まるで半端なラブ・ストーリーを金属バットで叩き割るように、人が人を傷つける音がスクリーンから響き渡る。
醜い。恐ろしい。気持ち悪い。でも、これが一つの愛の形なのだと、『ザ・トライブ』は“静かに”教えてくれるのです。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと マシュー・ウォーチャス ビル・ナイ イメルダ・スタウントン アンドリュー・スコット ドミニク・ウェスト パディ・コンシダイン ジョージ・マッケイ セテラ・インターナショナル パレードへようこそ 炭坑労働者 同性愛者 LGSM パレード プライド
© GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 © UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014

 本作が長編映画初監督となるミロスラヴ・スラボシュビツキーは、とてつもなく野心的な手法を世界に放った。

“サイレント映画へのオマージュ”と監督は言う。その通り、サイレント=セリフがない物語の中にプロの役者ではない本物の聾唖者をキャストに起用している。
聾唖者で結成される犯罪グループ(ザ・トライブ)に翻弄されていく青年をグレゴリー・フェセンコ、彼が虜になるグループの愛人の少女をヤナ・ノヴィコァヴァが演じる。二人とももちろん初の映画出演。

 カンヌ国際映画祭批評家週間グランブリなど世界中の映画祭で話題になったのも頷ける、異質すぎるラブ・ストーリーがついに日本上陸です。


愛の正体を見破るときにあまりの衝撃に言葉を失う!


【簡単なあらすじ】
 聾唖者専門の寄宿学校に入学したセルゲイ(グレゴリー・フェセンコ)は、犯罪や売春を行う悪の組織“ザ・トライブ”のヒエラルキーに巻き込まれる。手洗い洗礼を受け、殴り合いを強要され、そこで強さが認められた彼は次第に組織の中心人物になっていく。

“ザ・トライブ”のリーダーの愛人・アナ(ヤナ・ノヴィコァヴァ)は、イタリアに旅立つ夢のために売春を繰り返す。セルゲイは彼女の送迎をするうちに恋心を抱くようになり、やがて恐喝で得た金を組織に上納せず、アナに貢ぐようになる。

 度々身体を重ねていく二人だが、アナの夢と組織の暴力が二人の関係を引き裂く。泥にまみれたセルゲイの一方的な愛情は、怒りと憎しみに満ち溢れていく――。


沈黙を打ち破る、暴力とセックスに満ち溢れたラブ・ストーリー


「全編セリフなし、BGMなし」
それを知った時、一抹の不安を抱いたことを反省する。劇場の薄暗い空間でずっと静かな映像を見るなんて、睡魔との戦いだと思っていた。
結果、全然違った。予想をはるかに裏切る、凄まじい映像の連続だったのだ。

 身振り素振りで鳴らす服の擦れる音、手と足で風を切る音が豪快に鳴る。常に映像に意識を留めてしまう。字幕がない分映る絵に集中し、そこに浮かび上がるバイオレンスとセックスの数々に緊張感で身を縛られる。

   
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© GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 © UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014

 聾唖者を描いた映画、なんて聞くと下世話なヒューマニズムを誰もが思い浮かべることだろう。でも、この映画はそれを真っ向から否定する。

 セルゲイは拳で金品を巻き上げ、アナはセックスで夢を叶えようとする。レンガ造りの寄宿舎がその閉塞感をより深め、安っぽい人情味をすべてビール瓶で叩き割る。まるで、沈黙を打ち破るように。


映画、人間、愛…
すべての正体を暴く演技とカメラワーク


 言葉を話すより雄弁で、音楽を鳴らすより劇的。そうさせているのは紛れもなく、素人同然の役者とカメラワークである。
ミロスラヴ・スラボシュビツキー監督は映像の力を信じている。まるで“映画”というものの原点のさらに原点を追求しているようだ。

 映画の歴史はサイレントから始まった。セリフがない代わりに、文字と音楽で作品を盛り立てていた。『ザ・トライブ』はそれ以前の形態をしている。文字にも音楽にも頼らないし、プロの役者にも頼らない。ただ、長回しによる巧妙なカメラワークが登場人物たちを“監視”し、スクリーンを観る我々は“観察”している。
お節介なほど執拗に彼らの悪事を追って、誰かの肛門の中まで探るように、見てはいけないものを見せてくれる。

     
たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ミロスラヴ・スラボシュピツキー グレゴリー・フェセンコ ヤナ・ノヴィコヴァ ミモザフィルム 彩プロ the tribe ウクライナ 聾唖者 セックス 愛 ザ・トライブ
© GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 © UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014

 誤解を招く言い方になるが、言葉を発しないセルゲイとアナのセックスはまるで動物の交尾のようだ。映画の原点が連続写真であるように、人間がそもそも動物であることであることを思い出させてくれる。

 一見素朴な容姿のヤナ・ノヴィコァヴァが、その華奢な身体からは想像もつかない存在感を放つ。登場人物が繰り出す手話の迫力が、音がなくても絶叫に聞こえてくる。こちらが声を上げてしまうくらい、聾唖者たちの演技にただただ驚かされるのです。


愛の正体は…?


 道に横転している破壊された車、四方八方コンクリートで敷かれた廊下、辺り一面曇天模様の空。どこを切り取っても殺風景だ。
ウクライナという国が一体どんな世界なのか、こんな風景が実在するのか、他の映画では抱かない興味さえ湧いてくる。

 映画の正体は連続写真。人間の正体は動物。そして愛の正体は…?
無駄なものを一切排除した結果、それらの正体が真正面から描かれる衝撃に、まさに“言葉を失くす”ことになるでしよう。


絶賛公開中!

監督・脚本:ミロスラヴ・スラボシュピツキー
キャスト:グレゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ
配給:ミモザフィルム/彩プロ
原題:the tribe/2014年/ウクライナ映画/132分
URL:映画『ザ・トライブ』公式サイト

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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