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  • 2015.04.03

タネも仕掛けもありません!「恋」とは理性も冷静さも奪うもの『マジック・イン・ムーンライト』

魔法なんて一切信じない天才マジシャン・スタンリー。大富豪に大人気の占い師・ソフィの正体を暴くよう頼まれるが、その驚くべき能力に圧倒され、美しい彼女に魅了されてしまう——。ウディ・アレン監督が放つ“トリック”に満ちたラブ・ストーリー。

 誰かを好きになる時って、まるで魔法にでもかけられたみたい。
他人が「何で?」と尋ねても、自ら「どうして?」と問いかけても、答えは出てこない。

 そんな恋の“トリック”を見破ろうとした天才マジシャンがいた。
名前はスタンリー。史上最高の皮肉屋で、現実主義者の彼がなぜ、占い師・ソフィの魅力にとりつかれてしまったのか?
その答えは、実に簡単なものでした。

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Photo: Jack English (c)2014 Gravier Productions, Inc.

 数々の名作を世に送り出してきたラブコメディ映画の巨匠、ウディ・アレン監督の新作。ラブコメディとはいえ、『ミッドナイト・イン・パリ』といったロマンチック面もあれば、『ブルージャスミン』のようなダーク面もある彼の作品。今回は前者でした。

 1920年代の南フランスの美しいリゾート地を舞台に、ロマンチックな男女の恋模様が描かれます。
スタンリーを演じるのはアカデミー賞受賞作品『英国王のスピーチ』でその名を世界中に知らしめたコリン・ファース。
ソフィを『アメイジング・スパイダーマン』を始め話題作に引っ張りだこのエマ・ストーンが演じ、二人の息の合ったコンビネーションがVFXに頼らない“魔法”を生み出します。


この恋、タネも仕掛けもありません!


【簡単なあらすじ】
 1928年、中国人奇術師ウェイ・リン・スーは今日もベルリンの劇場でマジックを披露し、観客を沸かせていた。楽屋に戻り、メイクを剥ぎ捨てると白人男性に早変わり。彼の正体は天才マジシャン・スタンリー(コリン・ファース)だった。
そんな彼のもとに幼馴染のハワード(サイモン・マクバーニー)が、ある依頼を持ちかける。大富豪から絶大な支持を受ける女性占い師・ソフィの真偽を暴いてほしいという。

 現実主義者で皮肉屋のスタンリーは意気揚々とソフィの正体を見抜こうとするが、逆に彼女からウェイ・リン・スーと同一人物である秘密を暴かれてしまい、驚愕する。
次々と人智を超えた透視能力に圧倒されていくスタンリーはやがて、彼女の虜になっていることに気づく――。

男は単純、見抜くのはいつも女


 さすがウディ・アレン。単なるロマンチック映画に落ち着くはずがありません。
スタンリーとソフィのキャラクター描写が鋭い。二人は性格が真逆で、凝り固まったスタンリーの常識を解くように、ソフィの柔らかな魅力が光る。

 男は単純。これが本作の基本ルールです。
見透かそうと思ったら見透かされるし、暴こうとしていたのに暴かれる。男は魔法使いになれない。いつも魔法を見る方に回る。おとぎ話に登場する魔法使いの女性率が高い理由がよく分かります。その役目を「魔女」が担っているのです。

     
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Photo: Jack English (c)2014 Gravier Productions, Inc.

 霊能者であるソフィが交霊会で魅せた技に、現実主義者のスタンリーは負け戦だと開き直り、”対決”する意欲まで奪われているのに、今までの人生の常識を覆されたような感覚に歓びを爆発させる。ロマンチックからほど遠い彼が改心するかのようにソフィと触れ合っていく姿は、女性からみると「勝った」という快感を得られるかも?

 相変わらずウディ・アレン作品にお決まりな皮肉屋の主人公が微笑ましい。アレン監督自身が出演しない代わりにコリン・ファースがそのキャラクターを背負っていて、紳士的な佇まいのおかげか嫌味が3割減しているので非常に助かります。


恋ってこんなにオカシイものなのか!


 好きになる大した理由もないのに好きになってしまっている。根拠もなく惹かれ合うことに、タネも仕掛けもありゃしない。

 マジックや占いを通して目に見えない恋愛感情をあぶり出す。信じていなかったはずの魔法すら信じてしまう力を秘めている。今、手元にもどこにでも当たり前に存在する“恋” の可笑しさを、極めて冷静にロマンチックに描いているのが素晴らしい。

     
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Photo: Jack English (c)2014 Gravier Productions, Inc.

 この恋のトリックの唯一明快なタネは、エマ・ストーンの美しさにある。その天真爛漫なキャラクターの喋り方や仕草に、現実主義者さえ夢を見てしまうのは仕方ない。その説得力を帯びたキャスティングが見事で、スタンリーとの対比を描きながら二人をくっつける「雨宿りの天文台」シーンに彼の演出が光る。

 …などと、ウディ・アレンのロマンチストの側面が垣間見れますが、「行き着く所は結局そこかよ!」とつっこみたくなるアレン節満載のシニカルなクライマックスは必見です。

恋するっきゃない!状況までぶち壊す


 人は皆、年を追うごとに恋愛に対して捻くれていくものですが、もはや老害ともいえる厄介な頑固者のセリフが凄まじい。女性が絶対に言われたくない言葉でイリュージョンを暴いていくのもまた、リアリティってヤツなのか。スタンリーのキャラクターは男の反面教師です。
多くの女性はスタンリーの性格にイラッとするに違いない。だからこそ、最後の最後に描かれる“トリック”で決着する姿にうっとりするでしょう。

 1920年代のクラシカルな衣装。青い空と青い海に挟まれた美しいリゾート地。条件は整った。「もう恋をするっきゃない!」という状況でさえ、皮肉屋のウディ・アレンが描くとどうなるか…。
捻くれてしまった人々へ贈る“超現実”ファンタジーをお楽しみください。



4月11日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ他、全国公開

監督:ウディ・アレン
キャスト:コリン・ファース、エマ・ストーン、マーシャ・ゲイ・ハーデン
配給:ロングライド
原題:Magic in the Moonlight/2014年/アメリカ・イギリス合作映画/98分
URL:映画『マジック・イン・ムーンライト』公式サイト

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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