• love
  • 2015.02.27

最期の夜を巡って3人の女が火花を散らす!愛に翻弄された人生の結論『愛して飲んで歌って』

友人ジョルジュの余命がわずかだと知った三組の夫婦は一致団結するが、女たちはそれぞれジョルジュとただならぬ関係を持っていた。嘘と真実に振り回される男たち。季節が変わりゆく中で初老男女の新たな“駆け引き”が始まろうとしている——。 フランスの巨匠アラン・レネ監督の遺作は、いい意味で地味で愛情に溢れた人間ドラマ。

 男女の関係が落ち着くタイミングってどこにあるのでしょう。
付き合った。結婚した。子どもが産まれた。それぞれ人生のイベントの節々はゴールでもあり、スタートでもある。でも、何一つ落ち着くことなんてない。

 歳を取れば落ち着くなんて誰が決めた?
それは、ジョルジュを巡って火花を散らす男女6人を見れば一目瞭然。いつまでも経っても変わらない“男女の愛を巡る駆け引き“、これが世界の巨匠が最後に選んだ物語(テーマ)だなんて。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと アラン・レネ サビーヌ・アゼマ イポリット・ジラルド カロリーヌ・シオール ミシェル・ヴュイエルモーズ サンドリーヌ・キベルラン クレストインターナショナル フランス 嫉妬 駆け引き 巨匠
© 2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINÉMA – SOLIVAGUS

 2014年3月に息を引き取ったフランスの映画監督アラン・レネ。享年91才の彼はこれまでにナチスのアウシュビッツ刑務所の内部を初めて撮影したドキュメンタリー『夜と霧』や、『二十四時間の情事』『去年マリエンバートで』など数々の作品で世界中に衝撃を与えてきました。

 そんな彼が最後に遺した本作は、2014年ベルリン国際映画祭で「アルフレッド・バウアー賞」を受賞。この賞は本来革新的な若手映画監督に与えられる賞ですが、作品を生み出すごとに新境地を開拓してきたアラン・レネへの最高の賛辞として与えられました。
今までに観たことのない手法に挑戦することで若々しさがありながら、味わい深いメッセージを遺しています。


人生の最期に見出した“男女の人間模様”


【簡単なあらすじ】長年来の友人・ジョルジュの死期が迫ったことを知った3組のカップルは、彼の残りの人生を良いものにしようと一致団結する。しかし、最期の夜を誰が一緒に過ごすかで、それぞれ友人以上の関係であったと暴かれていく女たちは、火花を散らすことになる。

 生真面目な性格のコリン(イボリット・ジラルド)は、その妻カトリーヌ(サビーヌ・アゼマ)が若い頃にジョルジュと付き合っていたなんて知る由もない。ジョルジュと友人以上の関係だった女たちに、男たちは右往左往してしまう。
ジョルジュの死期を知って途方に暮れていたはずの男女は、その後思いもよらぬ展開へ――。

     

ジョルジュは“忘れられない男”の象徴?


 アラン・レネ監督が最後に残した作品は、いい意味で地味で親しみやすい。世界で初めてアウシュビッツでの大量虐殺を告発したドキュメンタリー『夜と霧』から約60年、彼が辿り着いた先の“結論”に心温まる。

 正直、これが巨匠の最後の作品?と目を疑った。かつての戦争映画から遠く離れ、世界のありとあらゆる地で長い年月をかけて渡り歩いてきたレネが描き出す男女の姿。そこに所謂巨匠が生み出すような“重くて深くて難解”みたいなめんどくささはなく、分かりやすくて楽しい人間ドラマがあった。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと アラン・レネ サビーヌ・アゼマ イポリット・ジラルド カロリーヌ・シオール ミシェル・ヴュイエルモーズ サンドリーヌ・キベルラン クレストインターナショナル フランス 嫉妬 駆け引き 巨匠
© 2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINÉMA – SOLIVAGUS

 物語の発端となるジョルジュは一切姿を現さない。元恋人のカトリーヌ、元妻のモニカ、素人演劇でラブシーンを演じるタマラ。3人の女を死期が迫ってもなお翻弄させる彼のカリスマ性は、ご想像にお任せって感じか。男女の会話から見えてくる彼の輪郭。姿形が見えないからこそ、女が求める“忘れられない男”の象徴が浮かび上がってくる。

 女はやがて誰かの妻になり、母になる。しかしその心は、誰かに掴まれたわけではない。
彼女たちの夫3人が滑稽に見えてくるが、男というものは年老いても結局マヌケなままなんだろうか。これがアラン・レネの出した“結論”だとしたら、「はい、そうですか」と項垂れながら従うしかありません。


人間は常に演技をしているのかもしれない


 この映画は全編奇妙なムードに取り憑かれている。登場人物はそれぞれ舞台セットの中を生きていて、虚構に満ちた壁紙のそばで苦悩する。激怒する。爆笑する。ロケの撮影は一切なく、全てが演劇の舞台のような空間で撮影されているのです。

 全てが嘘のようで、作り物みたい。まるで人間はいつも演技をしていて、あらかじめ用意されたセリフを放っているかのよう。
男女の駆け引きを茶化したかのような演出は、まるで新進気鋭の若手監督が繰り出す“攻め”のようだ。これがベルリン国際映画祭で「アルフレッド・バウアー賞」を受賞した大きな理由だろう。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと アラン・レネ サビーヌ・アゼマ イポリット・ジラルド カロリーヌ・シオール ミシェル・ヴュイエルモーズ サンドリーヌ・キベルラン クレストインターナショナル フランス 嫉妬 駆け引き 巨匠
© 2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINÉMA – SOLIVAGUS

 素人演劇の芝居でジュルジュとラブシーンをするタマラと、それにヤキモキする夫のジャック。彼はジョルジュと10代の頃からの大親友で、死を告げられた時は号泣していたはずなのに、今にも「死ね!」と言わんばかりの嫉妬を吐き出す。

 生と死を前にしているのに、なんと情けなくて愉快な人間模様なのか。アラン・レネはこのような人々を滑稽に、そして優しさたっぷりに描くために、演劇の舞台セットに立たせたのかもしれない。
「人生は案外、マヌケでオカシイもの」とでも言っているかのようだ。
だから、レネが先に辿り着いた最期の時まで、「愛して、飲んで、歌って」楽しみたいと思えてくる。

男女の駆け引きに絶望?希望?


 イラスト、写真、演劇。映画という形式にこだわらない自由なスタイルの本作は、カラフルで美しい色彩に溺れてみるのがいいでしょう。
まるで青春映画のように、いくつになっても変わらない男女の駆け引きに、絶望を覚えるか、はたまた希望を抱くか。
世界の巨匠の最期の贈り物は、どうしようもないくらい愛らしい人生賛歌なのでした。


岩波ホールほか全国公開中!

監督:アラン・レネ
キャスト:サビーヌ・アゼマ、イポリット・ジラルド、カロリーヌ・シオール、ミシェル・ヴュイエルモーズ、サンドリーヌ・キベルラン
配給:クレストインターナショナル
原題:Aimer, boire et chanter/2014年/フランス映画/108分
URL:映画『愛して飲んで歌って』公式サイト

Text/たけうちんぐ

関連キーワード

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

今月の特集

AMのこぼれ話