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  • 2015.01.23

ティム・バートンが愛したアンチ・ファンタジー!本当にあった怖い“文化系DV”『ビッグ・アイズ』

1960年代、アメリカで一大ブームを巻き起こした絵画〈ビッグ・アイズ〉の作家ウォルター・キーンは一躍時の人となる。しかし、その絵画はすべて妻のマーガレットが描いたものだった——。ファンタジー映画の巨匠ティム・バートン監督が贈る、世界を揺るがした斬新すぎる実録・DV復讐劇。

 許しがたいDV被害が、約50年前にアメリカで発生しました。
「殴る」「蹴る」「突き飛ばす」
暴力で女性の立場を踏みにじり、精神的に追い詰めるDV。その種類は数多くあれど、こんなDVは聞いたことがありません。

「描かせる」
……これは一体どういうことでしょうか?


 アメリカのアート界の話題を独占した“本当にあった怖い文化系DV”と、それに打ち勝つ奥さんの爽快な復讐劇です。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ティム・バートン エイミー・アダムス クリストフ・ヴァルツ ダニー・ヒューストン ジョン・ポリト クリステン・リッター ギャガ BIG EYES ビッグ・アイズ DV 夫婦
© Big Eyes SPV, LLC. All Rights Reserved.

『シザーハンズ』、『アリス・イン・ワンダーランド』、『チャーリーとチョコレート工場』と数々の“毒”を含んだファンタジーで世界中を虜にするティム・バートン監督。
今回、彼が選んだ題材は自身も夢中になった絵画〈ビッグ・アイズ〉を巡る“毒”しかない実話。ファンタジーとは真逆の物語です。

 言葉巧みに人々をだまし続け、嫁を軟禁状態にする夫・ウォルターを演じるのは『イングロリアス・バスターズ』のクリストフ・ヴァルツ。
内気な性格のため、夫に従うまま絵を描き続ける妻・マーガレットを『アメリカン・ハッスル』のエイミー・アダムスが演じ、彼女は本作で第72回ゴールデン・グローブ賞を受賞しました。

「描かせる」という前代未聞のDVに、奥さんは一体どう打ち勝つのか?
そこはさすがのティム・バートン。重暗くさせることなく、笑いも交えて軽やかに物語を運んでくれます。


新感覚“文化系DV”に立ち向かう術とは?


 【簡単なあらすじ】
 バツイチのマーガレット(エイミー・アダムス)は幼い娘の手を引いて、絵で生計を立てようとカリフォルニアにやって来た。似顔絵を描き始めた彼女が出会ったのは、パリの美術学校に通っていたというウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)。自信家の彼に惹かれ、二人は出会って間もなく結婚する。
やがてナイトクラブにキーン夫婦の絵が飾られると、そこで思いがけない事件が起きる。

 絵を見るためクラブに殺到する人々が注目したはマーガレットの絵画〈ビッグ・アイズ〉。だが、作者が誰か尋ねられると、ウォルターは堂々と「僕です。」と答える。

 やがて人気アーティストとしてアート界を席巻するウォルターだが、世間は本当の作者を知らない。彼に無理強いされるがままに、自室にこもって絵を描かされ続けているマーガレットの存在を。
怒鳴られる。脅される。自由を奪われる。耐えかねたマーガレットはついに、ラジオで真実を打ち明けるが――。

最低最悪な旦那でも憎めない理由


「俺がお前の絵を売るから、お前は絵を描いていればいい」

 これだけ聞くと、まるでプロデューサーとアーティストの関係です。でも、実態はまるで違う。夫と妻という関係を利用し、アーティストの権利を支配し、世間を欺く。社会的にも家庭的にも極悪。
来る日も来る日も絵を描かせることで、精神的に追い詰めていく。やがてマーガレットは自分の描く大きな目にも恐怖を感じ、ノイローゼになっていく。

「描かせる」という新手のDVで、世の女性を全員敵にまわすウォルター。だからこそ、彼の嘘がどんどんバレていく様は痛快です。
いくら絵が好きとはいえ、その才能と情熱を利用するなんて許しがたい行為。それでも、どこか憎めないのはクリストフ・ヴァルツのせいです。

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『イングロリアス・バスターズ』『グリーン・ホーネット』『おとなのけんか』などで彼が演じるキャラクターは毎回腹立たしいけど、どれもピュアな欲望に掻き立てられている。
悪意がないとまで言わないが、成功するために手段を選ばない。“デキる男”であることには間違いない。
そんなカリスマ性にマーガレットが惹かれてしまったのが運の尽き。自分が軟禁される分、世間は自分の絵に拍手喝采する。動き出してしまったストーリーに歯向かえない。

 夫の嘘に翻弄されていく世間の恐ろしさと、それに従わざるをえない自分。
マーガレットはどのように立場を逆転させるのでしょうか。そこに多くの女性の共感を生み、反旗を翻す彼女に「もっとやれ!」とついていきたくなるはずです。


嘘で真実が塗り替えられる“新しいファンタジー映画”


 この実録DVのストーリーは、ティム・バートン作品なのにファンタジーもクソもない。
『シザーハンズ』のシザー部分だけがグサリとマーガレットの心を突き刺して、毎分毎秒延々とえぐり出す。
『チャーリーとチョコレート工場』のチャーリーもチョコレートもない、ただ量産していくだけの“工場”と化した彼女の苦悩が実話だなんて。想像するだけで息苦しくなる。

 この映画に唯一ファンタジーを探るとしたら、それは〈ビッグ・アイズ〉に魅せられた人々の心に宿るものかもしれない。
ウォルターの嘘が真実を歪める。人々を扇動する。景色を変えていく。ある意味、VFXに頼らない“新しいファンタジー映画”と言える。

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 冒頭、〈ビッグ・アイズ〉が何枚もコピーされていく印刷工場を映し出す。それは幾多にも重ねられる嘘が、その数によって説得力を増していく恐怖にすら思える。
ウォルターが名声を利用して、真実を打ち明けるマーガレットに「彼女は正気を失っている」と語るのがまた恐ろしい。

 真実=原画がどこにあるのか、〈ビッグ・アイズ〉の大きな瞳がそれを見極めてくれるのか。
マーガレットが劇中に語る、「目は感情をもっともよく表現する」とは一体どういうことか。

 言葉で嘘がつけるとしても、絵で嘘はつけない。文化は文化で制する。これが“文化系DV”に決着をつける、唯一の手段なのかもしれません。

<ビッグ・アイズ>の瞳に何を感じるか


 自らの解放のために一歩踏み出すマーガレットの勇気は、多くの女性の背中を押してくれるに違いありません。そしてエイミー・アダムスのおしとやかな佇まいが、より愛されるキャラクターに描かれています。

 新しいDVを描いた映画の結末には、新しい感動が必ず待っているはず。観終わる前と後で、その絵画の印象はまるで違います。
〈ビッグ・アイズ〉の大きな瞳に何を感じるのか。それはウォルターでも世間でもなく、あなたの目が決めることでしょう。


2015年1月23日(金)TOHOシネマズ 有楽座他 全国順次ロードショー

監督:ティム・バートン
キャスト:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、ジョン・ポリト、クリステン・リッター
配給:ギャガ
原題:BIG EYES/2014年/アメリカ映画/106分
URL:映画『ビッグ・アイズ』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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たけうちんぐ
ライター/映像作家

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