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  • 2014.11.28

グザヴィエ・ドラン監督最新作!亡き息子の恋人は男…遺族からの反発に下した決断とは『トム・アット・ザ・ファーム』

映画ライターたけうちんぐさんによる最新作を徹底レビュー!今回は天才グザヴィエ・ドラン監督による、“性”と死をめぐるサスペンス・スリラーです。

 愛する人を失ったら、その感情はどこに向かうのか?
日々繰り返すように舞い込んでくる悲しい事件とそのニュースの中では、その感情の行方なんて知らされない。

 死体には墓場があるが、愛する気持ちの墓場はない。
主人公・トムもそれにもがき、苦しんでいる。愛する人を失った悲しみの果てに、彼が恐怖におののき、恋い焦がれるものとは一体?
そこで、本当の意味の“サスペンス・スリラー”を知ってしまうかもしれない。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと トム・アット・ザ・ファーム グザヴィエ・ドラン アップリンク 性 暴力 田舎 愛 サスペンス
© 2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinéma ©Clara Palardy

『胸騒ぎの恋人』『わたしはロランス』など全く新しいスタイルで映画の切り口を増やしていく、新鋭監督グザヴィエ・ドラン。世界中の映画ファンが注目する最新作の舞台は、なんと片田舎。音楽に溢れた今までの作品と違い、極力音楽を抑えて心理描写に徹する新しい試みに挑戦しています。

 本作ではグザヴィエ・ドラン自身が主演をこなし、その映画監督らしかぬ(?)イケメンフェイス+金髪で魅了される人は続出でしょう。
ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュとともに、他では見られないドラン・ワールドを形成しています。


愛の喪失感があぶり出す感情


 【簡単なあらすじ】
 トム(グザヴィエ・ドラン)は恋人・ギョームを亡くし、途方に暮れていた。彼の葬儀のためにケベック州の片田舎にやって来たトムは、そこで実家の母親とギョームの兄・フランシスに出会う。母親はギョームには女性の恋人がいると思い込んでおり、フランシスはトムに嘘をつくように強要する。
無理矢理暴力で言い聞かそうとするフランシスに抵抗するトムだったが、喪失感で落ち込む母親を思いやり、ギョームの友人として振舞う。

 やがてトムは嘘の恋人役として同僚のサラ(エヴリーヌ・ブロシュ)を呼び、フランシスに言われるがまま身分を偽り続ける。
しかし、いつしかフランシスにギョームの姿を重ねていくようになり、彼の知られざる過去にたどり着いてしまう――。

トムの悲しみは“嘘”に消えていく


 度重なる嘘と、それに反するかのごとくこぼれ出す本音。真実を知らないのは母親だけ。トムはギョームを失った悲しみに暮れる暇もなく、かつての関係を否定する日々に苦しみ続ける。

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© 2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinéma ©Clara Palardy

 都会の閉塞感を謳った作品はありふれている。でも、田舎の広大な風景を空撮で映して、それがどんよりと息苦しい表現でみせる作品はあまりない。あるとしたら『悪魔のいけにえ』くらい。
血が大量に流れ出すこともなく、凶器が振りかざされることはない。でも、見えない凶器がそこら中にうようよしている。

 恋人である彼を失い、その知られざる過去を知っていくトムの孤独と、“ある事件”で母親からも、周囲の住民からも距離を置かれたフランシスの孤独。
フランシスにとっては、弟の名誉を守り、母親の心を救うことだけが生きがいなのでしょう。しかし、この組み合わせは悪い。嫌な予感しかしない。暴力を受ける側・与える側の関係で、小屋でダンスを踊る二人の危うさといったら。これほどシュールでスリリングなダンスは見たことがない。


愛を失った人々が行き着く先は


 本作が全編に漂わせているのは、愛の喪失。
トムはギョームを失った。ギョームの母親は息子を失った。フランシスは過去の事件ですべての愛を失っている。それぞれがありもしない亡骸を追い求めて、何もない田舎道を彷徨っている。
まだ都会のように人がいて、店があって、出来事があればいい。だが、ケベック州の片田舎はひっかかる物がなく、人々は自身と向き合って生きている。

   
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© 2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinéma ©Clara Palardy

 世に言う「サスペンス映画」は誰かが犯罪に手を染めたり、身の危険が迫ったり、物理的なスリルが観る者の心を落ち着かせない。でも、この映画はトムの心が落ち着かない。“性”と死の狭間で揺れ動くトムを見ているうちに、不安感が煽られる。

「私の中に愛する気持ちはあるのか、失っていないか?」

 自らの過去を暴くように、田舎道が凶器となって襲いかかってくる。
トムが途方に暮れるように、観る者も過去の愛を探る旅に出ずにはいられません。

愛の喪失感の先にあるものとは?


 重苦しいテーマでもどこか軽やかに切り取り、演出で盛り立てるセンスはさすがグザヴィエ・ドランです。
トムはフランシスから逃れて、一体どこに向かうのか?

 愛の喪失感を田舎町が救うとは思えない。その旅路の行き先に待ち構えているものは、愛すれば愛するほどそれを失った時の悲しみを育てている我々が見たくない、グロテスクな感情なのかもしれません。


新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、テアトル梅田ほか、全国順次公開

監督:グザヴィエ・ドラン
キャスト:グザヴィエ・ドラン、ピエール=イブ・カルディナル、リズ・ロウ、エブリーヌ・ブロシュ、マニュエル・タドロス
配給:アップリンク
原題:Tom a la ferme/2013年/カナダ・フランス合作映画/100分
URL:映画『トム・アット・ザ・ファーム』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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