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  • 2014.11.08

愛なんて性欲が簡単に食いつぶす!“色情狂”の女が行き着く果てとは?『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』

 ヤッてもヤッてもまたヤリたくなる。
ビッチだろうがアバズレだろうが、彼女には罵り言葉にもならない。ただそこに男がいれば性器が反応し、気がつけば行為に及んでいる。

 本能に誘われるがまま、人生をすべて“セックス”に捧げてしまっている。
セックス=愛なんて誰が決めた? 主人公・ジョーは問いかける。
愛と性衝動の関係性を今一度、確認してみましょう。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ニンフォマニアック ラース・フォン・トリア シャルロット・ゲンズブール ステラン・スカルスガルド ブロードメディア・スタジオ NYMPHOMANIAC セックス 愛 性
© 2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINÉMA

 鬼才ラース・フォン・トリアー監督の最新作。この監督から過去作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル プレミアム・エディション』などどんよりとした気分にさせる映画をイメージすると思いますが、本作はその予想をひっくり返す娯楽作。「こんなに笑うとは思わなかった」と、観る人の感想が容易に想像できます。

 主人公のジョーをシャルロット・ゲンズブール、彼女の過去の姿をステイシー・マーティン、彼女を介抱する紳士をステラン・スカルスガルドが演じ、『トランスフォーマー』でお馴染みのシャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレイター、ユマ・サーマン、ウィレム・デフォーといった多彩なキャストが脇を固め、“ニンフォマニアック=色情狂”の過去と現在を毒々しく彩ります。


人生をセックスに捧げた女


 【簡単なあらすじ】
 雪が降り注ぐ路地にジョー(シャルロット・ゲンズブール)が倒れていた。通りすがりの独身の男・セリグマン(ステラン・スカルスガルド)は彼女を介抱し、彼の家のベッドで目覚めたジョーは自らの過去を語り始める。

 2歳の頃から性に目覚めたジョーは、いつも森に連れてきて木や葉の話をしてくれる父(クリスチャン・スレイター)のことが好きだった。
15歳の頃、若者J(シャイア・ラブーフ)と初体験を果たす。その際に乱暴に3回突かれ、後ろから5回突かれた「3+5」の数字が後に忌々しい記憶として残り、その後Jと印刷会社で奇跡的に再会する。

 やがてジョーは以前より多くの男性と肉体関係を持つようになり、自身のセックス依存症を自覚し始める。父が心を病んで入院し、彼の死に際でさえ体のあそこが濡れていたことに気づく。ますます性欲に溺れるようになった彼女だが、いつしか性器が麻痺してしまい、感じられない身体になってしまったーー。

     

向かう先にセックスあり。その快楽の先にあるものとは?


 これは全8章に分かれた壮大な「セックス叙事詩」。どのチャプターも一つの短編として成り立っていて、単独で観ても楽しめる。ラース・フォン・トリアー監督のかつての作品とは思いもよらない、乾いた笑いに満ち溢れた娯楽性にまず驚く。

 Jとの初体験の際、忌まわしい数字「3+5」のテロップが突如繰り出される。シリアスに見せかけて、いきなりバラエティ感満載の演出が組み込まれる。
特にチャプター3の『H夫人』は爆笑モノ。サスペンスにコメディ要素が入り混じる。不倫現場をまるでコントのような緊張感溢れる笑いが込み上げて、ある意味監督の新境地なのかもしれない。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ニンフォマニアック ラース・フォン・トリア シャルロット・ゲンズブール ステラン・スカルスガルド ブロードメディア・スタジオ NYMPHOMANIAC セックス 愛 性
© 2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINÉMA

 Vol.1は性に奔放な日々を描き、Vol.2はその代償を容赦なく切り取る。
ジョーは一時の快楽を積み重ねて、確実に何かに麻痺していく。それが性器の麻痺に繋がる。知的で冷静なセリグマンと自身の過去を語ることで、そのセックス放浪記がより一層テーマを明確にさせる。

 回想劇スタイルはいわば“エロいフォレスト・ガンプ”。ジョーは走る道を選ばず、ヤる道を選んでしまった。回想の中で、ジョーは過去と現在を自由に行き来する。そこでセリグマンとの時間は確実に流れていて、単なる回想劇でないことを後半で思い知らせる。
ジョーの“20XX年セックスの旅”に果てがなく、地続きである事が描かれるのです。


     

ジョーの存在は、倫理観・社会性を一切排除した“結果”


 ジョーの行き場のない性欲はやがて、彼女を非合法のセックス・セラピーに通わせることになる。
我が子との時間を犠牲にしても、不気味なサディスト・Kに縄で縛られて乗馬用の鞭で叩かれることに興奮する。救いようのない欲望が人生を破壊し、彼女はやがて犯罪に手を染めることになる。

「自業自得じゃん」って簡単に片付けられない。「性欲に倫理観・社会性をすべて排除し、本能のまま生きていたらこうなる」というある意味実験のような物語は、観る者の性欲に問いかける。

     
たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ニンフォマニアック ラース・フォン・トリア シャルロット・ゲンズブール ステラン・スカルスガルド ブロードメディア・スタジオ NYMPHOMANIAC セックス 愛 性
© 2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINÉMA

「私は色情狂よ。そういう自分が好き!」
セックス依存症が集う会で、ジョーは自らを肯定する。何がいけないのか、悪いのか。変態と犯罪の道に走っていく彼女でも、どこか女の逞しさを感じてしまう。

 全編セックス尽くしであるが、ジョーがのたうち回る原因となる満たされないものに対する渇望感は、あらゆるものに置き換えられる。お腹がすいたらご飯を食べるように、愛を失った彼女はセックスする。でも、そこで欲求は満たされるのか。セリグマンとの掛け合いは時折自問自答になる。
彼女が愛を手に入れるかどうかは、この映画を観る者の性欲に答えがあるのかもしれません。

性欲に支配された先に残る感情は?


 「性欲」は子孫繁栄の美しい側面と、人間関係と自らを破壊する悲しい側面を持っている。
ジョーが麻痺したのは性器だけだとしたら、この物語は呆気ない。
感情に脂肪がつく前に、愛に麻痺する前に、あなたのそばにいる“セリグマン”と対話してみてはいかがでしょうか。

Vol.1、Vol.2ともに、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
キャスト:シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレイター
配給::ブロードメディア・スタジオ
原題:NYMPHOMANIAC/2013年/デンマーク=ドイツ=フランス=ベルギー=イギリス映画/Vol.1=117分、Vol.2=123分
URL:映画『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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