男は身体だけを求め、女はそれを愛と思い込む。現役女子高生が描いた衝撃作『海を感じる時』

 10代の男子は目の前に裸の女性が差し出されたら、答えは一つ。
この映画の洋もその男子の中の一人。ときめきもポエムも感傷もすべて言い訳で、ただ抱きたい、触りたいだけで恵美子に近づく。それを恵美子が受け入れ、満たされない心を刹那的に埋めていく。

 男はヤリたい。女は埋めたい。まるで生き物図鑑のように男女が“恋”を言い訳にして、欲望に翻弄されていく。
これは約35年前に現役女子高生が描いた物語。
時を経ても色あせず、すぐ傍から恵美子の息づかいが聞こえてくる。少女から大人の女性へ成長する物語です。

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 1978年に作家の中沢けいが当時18歳で発表した本作は、現役女子高生が書いたスキャンダラスな作品として話題を呼びました。
「第21回群像新人賞」を受賞し、あらゆる映画化の話があったにも関わらず、約35年の時を経て初めて映画化されました。

 主演は市川由衣。これまでのイメージを一新し、少女から女へ姿を変える恵美子を大胆な演技で体現。池松壮亮演じる洋に求められるがまま裸体をさらけ出し、本作に懸ける情熱が伺えます。
監督は『blue』『僕は妹に恋をする』の安藤尋。
少女を描くことに定評のある安藤監督の繊細な演出で、恵美子と洋が実在の人物のように浮き上がり、恋愛そのものについて問いかけてきます。

愛した人は、愛のない正直な人

 【簡単なあらすじ】
 二人は高校の新聞部の部室で出会った。恵美子(市川由衣)は洋(池松壮亮)に突然キスを迫られるが、洋は「決して君が好きな訳じゃない。女の人の体に興味があっただけ」と恵美子を拒絶する。

 幼い頃に父を亡くし、厳格な母のもとで育った恵美子は愛を知らず、洋に体を包まれるたびにそこに愛を見出さそうとする。決して愛されていない寂しさを募らせながらも、少女から“女”に目覚めていく。

 やがて進学のため上京した洋を追って、恵美子も東京の花屋で働き始める。たとえ愛がなくても洋と離れたくない恵美子は、傷つきながらも寄り添い続けていく——。