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  • 2014.08.09

歌も踊りもないインド映画!愛妻弁当が救ったのは見知らぬ男『めぐり逢わせのお弁当』

 愛っていつかは冷めてしまうのでしょうか。
両親を見るたびに永遠なんて存在しないと思う。この二人がかつて愛し合っていたなんて信じられない。

 この映画のイラとその夫も同じ。夫婦仲は完全に冷め切っている。仲が悪いわけじゃない。ただ、緩やかに死んでいく愛でしかない。
その行く末を食い止めるために気合いを入れて作った弁当が、イラと、孤独な男・サージャンの人生を大きく変えることになる。

 愛する気持ちが本人ではなく、見知らぬ誰かに届くことだってある。
人生酸いも甘いも噛み分けた男女にだけ許される、ささやかな希望がそこにあります。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リテーシュ・バトラ イルファン・カーン ニムラト・カウル ナワーズッディーン・シッディーキー ロングライド Dabba インド お弁当 ボリウッド 人間ドラマ
© AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm—2013

 カンヌ国際映画祭で絶賛され、インド国内のみならずドイツ、スイス、イタリア、オランダで異例の大ヒットを記録。世界中で成功を収めた『きっと、うまくいく』に負けず劣らずの人気で、世界の映画関係者を騒がしたのはムンバイ出身のリテーシュ・バトラ監督。丁寧で繊細な語り口が、男女の心の交流を静かに彩ります。

 夫との夫婦仲に悩むヒロインには、4ヶ月にも及ぶオーディションの末に選ばれた舞台出身のニムラト・カウル。その相手のサージャン役は、監督が兼ねてからイメージをしていたというイルファン・カーン。渋く味わい深い演技が見逃せません。


愛妻弁当の誤送が導いた男と女のふれあい


 【簡単なあらすじ】
 大都市ムンバイのオフィス街、昼時に弁当配達人(ダッパーワーラー)が4段重ねの手作り弁当をサージャン(イルファン・カーン)の元に届ける。しかし、彼には身に覚えのない届け物。なぜなら彼の妻は何年も前に他界し、独り身。実はこの弁当、主婦のイラ(ニムラト・カウル)が冷えきった夫婦仲を取り戻すべく夫のために腕をふるった弁当で、誤って配達されてしまった。

 イラはそれを知らず、空っぽになって戻ってきた弁当箱に喜ぶが、その弁当を食べた夫から「カリフラワー」の名が。そんなものは入れていないのに、と不審に思ったイラは弁当に手紙を忍ばせる。すると、弁当を受けとっていた見知らぬサージャンから返事が来る。
思わぬ偶然から手紙のやり取りが始まり、文通からイラとサージャンは互いの孤独を埋め合っていく——。

思わぬ偶然が、孤独な男女の愛の追求を取り戻していく


 全編、手紙のやり取りで綴られていく。メールに一切頼らない、アナログ方式の男女の交流が新鮮です。
インド映画ってボリウッドのイメージが強い。でもこの映画は誰も歌わないし、踊らない。ただ、詩のように言葉が交わされ、寂しいはずの男女は歌い、踊りたくなる気分になっていく。

 イラとサージャンの互いの背景がきちんと描かれているからこそ、一見地味な物語はドラマチックに変化する。
イラに夫婦仲や生活の知恵をアドバイスする姿なき近所のおばさん、サージャンに人懐っこく接してくる会社の後輩シャイク、それぞれが二人の手紙では伝え切れない本心を探り、観る者に伝えてくれる。

 
たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リテーシュ・バトラ イルファン・カーン ニムラト・カウル ナワーズッディーン・シッディーキー ロングライド Dabba インド お弁当 ボリウッド 人間ドラマ
© AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm—2013

 サージャンは毎朝通勤電車に乗り、事務の仕事。代わり映えのない生活と、生き甲斐をなくした人生。ただ日々を浪費していくだけの時間に、思いがけない弁当が届く。そこに綴られていたイラの手紙は失いつつあった愛の追求そのものであり、長年眠っていた人を愛する感情がサージャンの中で蘇っていく。

 イラが抱える悩みをサージャンが共有することで、互いに孤独感を薄めていく描写が胸を打ちます。


「人は間違った電車でも、正しい場所に着く」


 本作はただの“心温まる人間ドラマ”に落ち着かない。近年、急速に経済発展を続けるインドの自殺、格差、孤独といった暗部にまで迫っていく。

 母子が飛び降りた話を耳にして、すぐさまイラを思い浮かべるサージャン。孤児という逆境を生き抜いてきたシャイクに手を差し伸べる彼の周りは、いつだって社会不安がつきまとう。そういった描写が含まれていることから、この物語は決して他人事とは思えない。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと リテーシュ・バトラ イルファン・カーン ニムラト・カウル ナワーズッディーン・シッディーキー ロングライド Dabba インド お弁当 ボリウッド 人間ドラマ © AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm—2013

 結婚して幸せになったとしても、夫婦仲は冷めてしまうことがある。どちらかが先に死を迎える。この映画はいつか必ず向き合う孤独への予習勉強ができてしまうのです。

 サージャンの亡き妻が好きだったテレビ番組の録画を観た話を綴った手紙が胸に迫る。
終わりゆく夫婦と、すでに終わってしまった夫婦。この対比と、互いに学ぶことの多さがイラとサージャンを繋ぎ止めているように思える。間違って届いたはずの弁当が、彼らを正しい方向へと導いていく。

「人は間違った電車でも、正しい場所に着く」

 劇中、印象的に放たれる言葉。これは弁当に限らず、闇を抱える者にとって希望にもなる。イラとサージャンの交流がそれを証明してくれるのです。

果たして弁当はいつまで届けられるのか?


 すぐに届けて、すぐに返ってくる。そんなメールに慣れてしまうと、手紙のやり取りがもどかしく感じると思います。
でも、すぐには会えない二人の距離感こそが、心情を見つめ直すのにちょうどいいのかもしれません。

 どんどん手間と愛情が増していくお弁当。
果たして、イラはいつまで彼のために作り続けるのか?


 いずれ正しい場所に着くために、たまには間違った電車に乗ってもいいのではないでしょうか。



8月9日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

監督・脚本:リテーシュ・バトラ
キャスト:イルファン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキー
配給:ロングライド
原題:Dabba/2013年/インド=フランス=ドイツ合作映画/105分
URL:映画『めぐり逢わせのお弁当』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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