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  • 2014.07.23

70歳の知識で20歳に戻れたら…若返ったおばあちゃんの傑作ラブコメディ『怪しい彼女』

 キュートでパワフルな彼女は何でも知っている。
美味しいご飯の作り方も、赤ん坊のあやし方も、男の性質も何でも。生きていく中で必要な知恵を蓄えている。相談事にも強い。Yahoo!知恵袋なんて必要ない。

 そして何より、強い。誰を相手にしても怯まない。堂々と毒舌をこぼす。それでも嫌われない。彼女のルックスと類い稀な歌の才能に、誰もが彼女を求め、その歌声に酔いしれてしまう。
極めつけは20歳。恋真っ盛り。

 こんな彼女に憧れる!けど、やっぱり何かが怪しい。こんなに完璧な20歳なんていない。
それもそのはず。彼女は70歳なんだから。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと ファン・ドンヒョク シム・ウンギョン ナ・ムニ イ・ジヌク ジニョン パク・イナン CJ Entertainment Japan 怪しい彼女 青春 恋愛 息子 おばあちゃん
©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

 「70歳のおばあちゃんが20歳の女の子に若返る」というトンデモ感半端ない作品を手がけたのは、韓国で注目を浴びているファン・ドンヒョク監督。この方、実はラブコメとは一切無縁。
前作『トガニ 幼き瞳の告白』では聴覚障害者学校の性的虐待事件を描き、本作はそのシリアスな内容とは程遠い180度方向転換の挑戦。これが、大成功しているんです。

 それも主演のシム・ウンギョンの70歳のおばあちゃん役がハマりにハマっているから。1994年生まれの彼女が若返る前のおばあちゃん役ナ・ムニの癖と喋り方を完全にマスターし、その仕草すべてがおばあちゃんにしか思えない。この憑依っぷりに笑ったり泣いたりと、若干戦慄を覚えるくらいです。


容姿端麗・罵詈雑言…怪しい彼女の正体は、70歳のおばあちゃん!?

 【簡単なあらすじ】
 口の悪さと頑固さは天下一品。トラブルを起こし続ける70歳のおばあちゃん・マルスン(ナ・ムニ)は、女手一つで育て上げた一人息子・ヒョンチョル(ソン・ドンイル)が何よりの自慢。家では炊事から孫・ジハ(ジニョン)の教育までうるさく口を出し、嫁を毎日困らせ、やがてストレスで入院させてしまうほど。

 家族の間で、ついにマルスンを介護施設に入れる話が持ち上がる。それを知った彼女は一人寂しく街を歩き、遺影を撮るために『青春写真館』という怪しい写真屋に立ち入る。そこで彼女の人生が一変した——。

 窓に映る姿は20歳の頃の自分。皆、若者として自分を見てくる。若い男にナンパされる。歌をうたえば音楽プロデューサーが近づいてくる。孫と一緒にバンドを組む。憧れのオードリー・ヘップバーンの名に因んで「オ・ドゥリ」の名乗る彼女は、歌手としてスター街道を突き進んでいくが……。

70歳の恋がこんなにラブリーだなんて!

 前代未聞!70歳の女の子のラブコメディの誕生です。
そこで発見したのが、おばあちゃんの可愛さなんです。物知りで博識で世話焼き。可愛い顔して時折知恵袋を挟んでくるんだから、マルスンが自分のおばあちゃんだと知らない孫・ジハが若干ときめいてしまうのに笑ってしまう。

 若者にはない言葉の引き出しと、良くも悪くも傲慢な態度。『猟奇的な彼女』以上に猟奇的というか、暴力的に人と接するルックスとのギャップは、そりゃラブコメディが生まれるわけです。
彼女のキャラクターに惹かれ、歌声に虜になった音楽プロデューサーとの淡い恋。これが息子以上、孫未満に歳が離れている相手。幼さが残る20歳のはずなのに、母性しか武器にできないマルスンの葛藤は切なく、胸に迫るものがあります。

 
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 歌手としての夢、新しい恋。女の人生に再び輝きが与えられる様がドラマチックで、若い頃に青春を謳歌できなかった彼女の喜びが切実に思えてくる。だって、恋なんてある一定の年齢を超えたら叶わない夢になってしまうんですから。

 それを感じさせるのは、女の人生を球技に例えるオープニング。これが秀逸です。バスケットやラグビーのボールのようにいつまでも男に追いかけられるわけがない。いつかはボールを避けられて、一人寂しくバウンドする。挙げ句の果てに溝に落っこちる。

 マルスンはどうでしょうか。若い外見を取り戻したら世間の対応がうって変わる。その可笑しさから、これはファンタジーの皮を被った超現実的な物語であることが分かります。


マルスンがなぜ、こんなおばあちゃんになったのか?

 マルスンはとにかく口が悪い。「古希前のひよっこが!」「頭の毛をはいでやる!」と罵って、他人と亀裂を生みまくる。彼女を心底憎んでいる人だっている。
こんなに強気で傲慢で意地っ張りなおばあちゃん。ってかババア。おばあちゃんなんて呼ばせないクソババア。数々の悪事を働いてきたクソババアをとても好きになれないのに、なんで? クライマックスに向けて、彼女が愛おしく思えて仕方ないのです。

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 どうして、一人息子のヒョンチョルは優秀な子なのか。国立大学の教授で仕事ができる。それに嫁と息子と娘にも優しい。まるでマルスンから生まれたとは思えないが、次第にその意味と理由が分かっていく。

 どうしてマルスンがこんな性格なのか。なぜなら、彼女はヒョンチョルを育てるために悪者に徹してきたからなのです。貧乏で飢えを凌ぐために備わった傲慢さ、強さ、意地の悪さ。自ら泥水を被り、息子にはきれいな水を与えてきた。ヒョンチョルの存在こそが、マルスンの人生そのものを表しているのです。

     

20歳の姿になって得たものとは?

 その身をすべて我が子に捧げてきた。そんな彼女が一時味わう青春物語は、単なるラブコメディに収まらない。観ていると誰もが自分の母、祖母を思い浮かべてしまう。私を生んだことでその時代の彼女たちは自由を減らした。それこそ愛でしかない。夢も恋も息子に託したマルスンを、最終的には誰もが愛してしまうことでしょう。

 終盤、母と子の会話は涙なしでは観られない。心のメッキが次々と剥がされていく。そこで剥き出しになるのは、70歳というメッキを被った少女の心を持つマルスン。

 女の人生を50歳分行き来できるなんて贅沢です。
怪しい彼女は怪しいどころではない。この映画を観ると、避けられるボールになる前に、自らガンガン当たっていきたくなるはずです。
まだ青春を謳歌できるはずの身分として、マルスンがかつて味わえなかった全てを受け止めていきたいものです。



TOHOシネマズみゆき座ほか全国公開中!

監督:ファン・ドンヒョク
キャスト:シム・ウンギョン、ナ・ムニ、イ・ジヌク、ジニョン、パク・イナン
配給:CJ Entertainment Japan
原題:Miss Granny/2014年/韓国映画/125分
URL:映画『怪しい彼女』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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