• love
  • 2014.07.18

『渇き。』賛否両論!毒にも薬にもなる汚物まみれの“愛”に、世界はどう審判を下すか?

 皆、ある程度理想を抱いて生きている。好きな人と話したら「付き合いたい」。恋人と手を繋げば「結婚したい」。結婚したら……?
理想は尽きることなく生まれていき、それは欲望という名に変わることすらある。

 この映画の主人公、藤島昭和。彼もまた理想を抱き、幸せな家庭を思い描いている一人なのに、なぜこうも「ぶっ殺してやる!」って言葉に溢れ、行く先々で血が塗られていくのか。
幸せになりたいなんて誰もが思う。その“渇望感”がこんなに痛くて辛いものとは。
この果てしない毒と薬に、あなたは我慢できますか?

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 中島哲也 深町秋生 果てしなき渇き 役所広司 小松菜奈 妻夫木聡 清水尋也 二階堂ふみ 橋本愛 渇き。 ヴァイオレンス 賛否両論 愛 渇望感 ギャガ
© 2014「渇き。」製作委員会

『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『告白』と次々と劇薬を投入する中島哲也監督の最新作は、深町秋生の小説『果てしなき渇き』の映画化。緻密に構成された過去・現在と、個性的で強烈なキャラクターに溢れた作品性はここでも健在です。

 主人公の藤島昭和を演じるのは役所広司。こんなに危なっかしい役所広司は観たことない。スクリーンにいるだけで「うわっ」て鼻を摘んでしまいそうな嫌悪臭。良くも悪くも、忘れられない人物であることは間違いないです。
他にも妻夫木聡、オダギリジョー、中谷美紀、二階堂ふみ、橋本愛といった豪華キャストがメーター振り切りの演技合戦。近寄りがたいけど観てしまう。こんなに毒にも薬にもなり、シネコンで上映される日本映画は最近では珍しいのではないでしょうか。


娘の知られざる裏の顔に驚愕!

 【簡単なあらすじ】
 妻の不倫相手に暴行し、仕事も家庭も失った元刑事の藤島昭和(役所広司)。ある日、彼のもとに元妻から連絡が入る。娘の加奈子(小松菜奈)が失踪したと知らされ、藤島はその行方を追っていく。

 学校ではマドンナ的存在で、容姿端麗で優等生であるはずの加奈子。しかし、藤島は彼女の知られざる姿を目の当たりにする。彼女の友人、彼女に恋をしていた少年、彼女と関わりを持っていた大人たち……。行方を探すその先々で次々と血が流れていく。
藤島は激情に駆られながらも加奈子に対し、不思議な感情を抱いていく——。

その渇きは青春のポエマーを破壊する

 美しい少女はバケモノの側面を持っているのかもしれない。彼女の言いなりになる人はいる。間違いすら正しくもなる。その美しさの中に恐怖すら感じてしまいます。

 加奈子に片想いをする少年は“ボク”という一人称でナレーションし、いじめから救ってくれた彼女に翻弄されていく過程をポエトリックに語っていく。この詩は青春の片想いにはよくあること。それを真っ向から破壊していく本作がいい意味で性格が悪くて、純粋な少年を闇の世界へ葬り去る描写は逆に清々しくもある。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 中島哲也 深町秋生 果てしなき渇き 役所広司 小松菜奈 妻夫木聡 清水尋也 二階堂ふみ 橋本愛 渇き。 ヴァイオレンス 賛否両論 愛 渇望感 ギャガ
© 2014「渇き。」製作委員会

 言うならば、青春にポエマーは必要ないってことでしょう。
その美しい少女の裏の顔を、ロクデナシの藤島とピュアな“ボク”の両面で知っていく。この現在と過去の構成が見事で、血みどろの真実に辿り着いていくスリルがたまらないのです。


愛を否定し、何もかもが無くなった時に浮かび上がるものとは

 藤島の口癖は「ぶっ殺してやる!」。行き場のない怒りがすべて実の娘に向けられて、その行方を追う姿は全身がまるで刃で出来たように危なっかしい。

 そこに愛があるのかと問われると、無いに等しい。ただ、彼が時折夢想するものは無視できない。嘘くさい笑顔と不自然な光に彩られたマイホームCMのような、幸せな家族の風景。藤島は時折そんな夢を見て、その風景を自ら崩していく。乱暴な人間が夢見る姿は切なくなる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 中島哲也 深町秋生 果てしなき渇き 役所広司 小松菜奈 妻夫木聡 清水尋也 二階堂ふみ 橋本愛 渇き。 ヴァイオレンス 賛否両論 愛 渇望感 ギャガ © 2014「渇き。」製作委員会

 まともな人間は1割もいない。そんな状況下、語られるものは決して愛じゃない。だけど、愛含めて全てを失ったときに見える、微かな光というものが本作では描かれている。
藤島はなぜ縁の切れたはずの加奈子を追うのか。残された希望が、絆が、人間としての命綱が、藤島と加奈子の間に薄らと浮かび上がるのです。

     

理性や理論では太刀打ちできない!

 めまぐるしい映像の羅列。激しく行き来する現在と過去。すべてが数珠つなぎに繋がっていて、無駄な描写が一つもない。それだけに嫌悪する人は確実にいる。吐き気すらもよおす激情に、パタンと心の扉を閉める人もいれば、勢いよく開ける人もいる。

 物議を醸す本作にどこかしらピュアな感情を見つけられるなら、それはこの映画で藤島が最後に見つけたものに近いのかもしれません。


TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開中!

監督:中島哲也
原作:深町秋生 「果てしなき渇き」(宝島社刊)
キャスト:役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛
配給:ギャガ
2014年/日本映画/118分
URL:映画『渇き。』公式サイト

Text/たけうちんぐ


あわせて読みたい

新作映画
映画3選まとめ

関連キーワード

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

今月の特集

AMのこぼれ話